1、厄介事には簡単に出会える
街道を行く一台の荷馬車と、駿馬にのるフード付きの外套を羽織った一騎。荷馬車に二人、付き添う馬に一人。商売をしているには少な過ぎる。野盗に襲って欲しいと言わんばかりだが、値を張る物もなさそうに見えてか襲われる事もなく、ゆっくりと街道を進んでいる。
馭者をしているのがスキヤキで、荷台でゴロゴロしているのがダニエルで、美しい馬に乗るのがアールマティだ。
野盗がこの一団をパッと見たら、彼女の馬こそ一番の値打ちがあると見るかも知れない。
「帝都でゴロゴロしているのが一番だったと思うのよなあ」
ダニエルの呟きに、スキヤキが笑いながら返す。
「それじゃ、面白くない」
「そうだぞ、ダニエル。どんな宝に出逢えるかわからん」
アールマティも付け加える。アールマティはスキヤキを見付けた時の事を話しているようだった。
「辺鄙な田舎の村に、剣の達人が埋もれている事だってある。そういうのを拾って磨くんだよ」
「砂漠からダイヤの原石を探すなんて、効率が悪いのなん」
ダニエルは知っている。スキヤキの剣の腕は出会った頃から一流だった。たが、敵を殺す事が出来ない軟弱なモノでもあった。圧倒的優位に立ちながら甘い立ち回り。幼かったと言えばそれまでだが、よく生き延びたもんだと、ダニエルは思い返した。
三人は街道の途中で少し逸れて、リビュアという村で休む事にした。
先を急ぐ旅でなく、少し遠くに釜戸の煙を見付けたアールマティの意見に二人は乗った。わざわざ夜営をする必要性はない。
村に近付くと、夕暮れ時にしては騒がしい。人々の声が村の外まで聞こえてくる。見た目にもあまり意味をなさないだろう柵が巡らせてある村落の入り口に荷馬車と駿馬は到着する。
誰かが荷馬車の音に気付いたようで、入り口まで駆け寄って来る。三人は村のどこかで、それこそ馬小屋でもいいから泊めてもらうつもりであったので、勝手には中に入らず、入り口で村人を待っていた。
「もしかして旅の人は傭兵か何かで? 」
入り口まで確認しに来た村人はそう尋ねてくる。アールマティはフードで顔を、赤い髪を隠していてたが、馬には弓矢が載せてある。彼女の弓は紅く染め上げられており、傭兵を多く輩出しているアータルの民と考えられてもおかしくない。
「似たようなもんさ」
スキヤキが代わりに答える。目利きが出来そうな村人がいきなり出て来た事に少し警戒したのだ。
「何かあったのかい? 」
村人は少し考え、途中で考えるのを放棄した。
「今、丁度、みんな集まっとる。村長もおるから、村長から聞いてくれ」
村人はそう言うと、付いてこいとばかりに背を向けて、どんどん進んでいく。
進み出した荷馬車の荷台の上から、ダニエルが夕暮れ空を見ながら話す。
「宝ではなく、厄介事には簡単に出会える」
村人に着いていくと、広場で集会が行われていた。輪の端でスキヤキ達は止まり、村長へ村人が説明するのを待つ。
集会の様子は何か興奮が高まった直後という感じをスキヤキは見てとった。
スキヤキ達を調べに来た男が話をしていた、村長と思われるじい様が、村のみんなに大声で語りかける。
「勇者アポロのお導きに違いない。この大事な時に、この辺境の地に、傭兵の方々がいらしてくれた。アポロの息子ヘリオスが戦う事を決意した、この時に」
村長の発言に、スキヤキとダニエルは顔を見合わせる。スキヤキは笑って、顔を上げ、顎をさする。ダニエルは下を向いて、髭を触る。
一人の若い娘がアールマティに近付く。両手を合わせ、祈るように何かアールマティに話している。
「アールマティが何か言っても断っていいのよなん? 」
ダニエルがスキヤキに確認してくる。
「まあ、俺の仕事仲間ってわけではないよ」
スキヤキにとって、アールマティは恩人ではある。だがあの女は普通じゃない。かなりおかしい。
スキヤキがそんな事を考えていると、アールマティがよく通る声で宣言する。
「勇者の息子ヘリオスの魔族退治、我ら三人微力ながらお助け致す」
ほらな。やっぱり狂ってるよ、あの女……。




