9、楽しめる仕事しかしないのだろ?
賭場の上にある酒場はごった返している。ゴブリン、オーク、ドワーフ、エルフ、その他の獣人、何でもアリで賑わっている。もちろん脛に傷持つ人間達も沢山いる。酒を次々に頼む声、平和を素直に喜ぶ声、苦しみを逃れた安堵の声、様々な声が飛び交っている。
スキヤキはそれを横目に見ながら、店の奥に進む。声をかけられる事なく進んでいける。奥の隠れた階段から地下へ降り、賭場に入る。賭場も前回より多くの人数がいた。
丁半バクチには参加せず、酒を頼んで待つ事にする。バーカウンターにはダニエルもいた。酒を飲んでいる。
全てが終わってから登場するダニエルに、悪態でもついてやろうかと、スキヤキは隣に腰掛ける。ダニエルはニヤニヤ笑っている。そして、その奥に座っている人物がいる事に気付く。
「何でいるの? 」
外套のフードを深く被り、こちらは見ていない為に顔は全く見えないが、ここまで側に近付くと隠しきれない存在感で、その人物が誰だかわかる。声がそれを裏付けた。
「スキヤキがどうやって女を口説くのか、見に来たのさ」
「余程暇なんだな」
「あたしの仕事は単価が高いぞ」
「趣味じゃないか」
「あんたも楽しめる仕事しかしないのだろ? 」
スキヤキは図星を着かれて口ごもる。女は美しくあればあるほど癖が強いのだろうか?
「口説きにきたわけじゃないさ、アールマティ。報告に来ただけ。何でも報酬は俺が寝てる間に支払われたらしいからな」
「追加報酬を受け取りに、だろ? 」
アールマティの返事に、ダニエルが笑っている。
スキヤキはアールマティにではなく、ダニエルに矛先を変える。いや、ダニエルに逃げる。
「いい賭場を教えてくれて助かったよ、ダニエル」
「もうすぐメーディアが休憩で、ここに来るのなん」
真ん中のテーブルで壺を振るうメーディアは、以前と違って表情豊かに壺を振っている。その所作に相変わらず癖などは見受けられないが、今日の彼女はディーラーと言うより、エンターテイナーだ。
彼女と遊び、勝ったり負けたりしながら、客達は本当に楽しそうにしている。彼女の妖しさも、美しい金髪も、柔らかそうな胸も、華麗な指先も、客達を歓ばせている。
「いい表情してるいるな」
アールマティがメーディアを褒める。
「あぁ、本当に」
スキヤキではなく、ダニエルが答える。その言葉を聞いたスキヤキは深く頷くと、懐からシナモンスティックを取り出して、手の上で振り回す。
スキヤキはメーディアでもなく、ダニエルでもなく、手にしたシナモンスティックを見つめる。くるくる舞わす。本物のタバコでは出来るかなぁ。
結局、スキヤキは何も言わないことにした。
それを見ていたかのように、スキヤキが決めた瞬間、アールマティが口を挟む。
「でも、メーディアは口説いてくれ」
ゲームセット。
「こんばんは」
そう言って、メーディアがスキヤキ達の前に現れる。
アールマティが椅子を引く。早い動きだ。一番奥に座っていた彼女が、一番手前のスキヤキのさらに手前の椅子を引いたのだ。
メーディアを座らせると、さらにその手前の椅子にアールマティが座る。
「皆さん、お知り合い? 」
これにはダニエルが答える。
「腐れ縁なのよん」
「メーディアです。ここで壺を振っています」
「アールマティ」
そう言うと、アールマティは握手を求める。
メーディアは握手に応じる。それから、スキヤキに尋ねる。
「独りで来ると思っていたけど、これは私が振られたのかしら」
「たまたまだ」
「そう、偶然よ」
「ああ、偶然だ」
スキヤキはアールマティとダニエルの言葉に全てを諦める。
「あんたを見に来ただけだよ」
アールマティの言葉に、スキヤキがそれを打ち消すように被せる。
「仕事が終わった事を報告に来ただけさ」
アールマティを無視するように、メーディアが小声でスキヤキに告げる。
「追加分の報酬はいらないって事? 」
「そんな事は言ってない」
スキヤキが答えると同時に、アールマティはフードを外して、その顔を顕にさせる。
当然、メーディアはアールマティを見る。一瞬、彼女を見たメーディアは動きが止まる。
メーディアは立ち上がって口を開く。
「本当にありがとうございました。あなたの優しさを凄く感じたわ。特に今」
「今?」
「ええ。私の魅力であなたが仕事を受けたのでないのが、はっきりわかったもの」
後ろを向いて、メーディアは一言付け加える。
「独占欲の強い彼女さんによろしく伝えておいて」
そして振り返ってくれる事はなかった。
「さあ、次行くぞ、ちくしょう」
スキヤキを先頭に二人は店から出る。飲み足りない三人は別の酒場に行くことにしている。帝都ならまだ開いている店もあるだろう。
「押しが弱いなぁ」
アールマティがからかう。当然ながらこいつが原因だ。ちなみにスキヤキの恋人ではない。
「邪魔も超一流だと言うのはよくわかったよ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第2章は以上で終了です。
次から第3章です。
本当に沢山の方に読んでいただけて嬉しいです。
二作品目になりますが、前作よりかなり多くの方に読んでいただけているのが、本当に書く原動力になっています。
これからもよろしくお願いいたします。




