3、願い事があるなら、悪魔に頼むのさ
「君の大事な人が亡くなったのかい? 」
少年はパッと振り向く。見慣れない顔の男が立っていた。綺麗なシャツに、グレーのズボン。この辺りで見かけない男で、身なりがまともな奴を信じてはいけない。少年はその表情と姿勢でそう表現していた。
「亡くなった人に祈りを捧げるのは正しい」
彼はそう言って、手を合わせる。少年は路地の角に向きなおす。少年は確かに亡くなったアリスに祈りを捧げているとも言える。
アリスに謝罪していたのだ。自分がボール遊びをしようなんて言わなければ、彼女は死ななかった。自分が強く投げて、彼女の頭を越えていくような事をしなければ、彼女は死ななかった。
あの男に少年がボールを当てなければ、彼女は死ななかった。
威張りちらして、感じの凄く悪い男、レオニスに少年のボールは当たった。母から近付くなと言われていた新しい衛兵隊長は、この街に多くいる亜人達を毛嫌いしている。
そして、噂通りに、ボールをぶつけた人間の子供ではなく、その人間の子供と遊んでいたゴブリンの子供に矛先を向けた。
「三番衛兵隊、隊長への反逆行為だな」
アリスは何が起こっているかわからなかった。
子供同士がボール遊びをしていた。そのボールが通行人に当たった。怒られるかも知れない。そうは思っていた。だが、反逆行為?
彼女が、ごめんなさい、と口にした時、彼女の腹にはレオニスの抜いた剣が突き刺さっていた。
少年も何が起きたかわからず、どうしていいかわからず、声すら出せなかった。
「神に祈りを捧げるなよ? 」
男の声に、少年は現在に引き戻される。
「な、なんで? 」
少年はアリスに謝罪するとともに、レオニスに天罰が下る事を、確かに神に願っていた。
「神は何もしてくれない? 神は、君の大事な人を見殺しにしたんじゃないのかい? 」
そうだ。神は助けてくれなかった。
「願い事があるなら、悪魔に頼むのさ。絶対に叶えたいなら、魂でも捧げればいい。君の魂に価値があるなら叶えてくれる」
「僕の魂になんか価値はないよ」
「どうかな? 亡くなった人を真剣に想うその姿に価値はあると思う。一度でいい、悪魔を信じてみることをお勧めするよ」
男は立ち上がり、少年の肩を軽く叩いて、路地へ戻っていった。
「あの人、悪魔かな……」
レオニスが剣で切り殺されるところを頭に思い浮かべる。その光景は、確かに神がしてくれるというより、悪魔がしてくれたというのがあっている画だと思った。
スキヤキは結局酒場で話を聞くことにする。この酒場、つまり賭場の上で話を聞くんだから、レオニスの悪口しか出て来ない。
「情報収集って難しいなぁ。ダニエルの仕事なんだけど」
つい最近の出来事として、ゴブリンの娘が言い掛かりで殺されたのを聞いた。元々、帝国と親しいとされているナパート族の子で、彼女の父が病で倒れ、収入の亡くなった家族、母と子の二人でこの北側の貧民街に流れてきたらしい。
「レオニスって、それだけ嫌われてて、ひどい性格でよく隊長になれたな。帝国自体が落ち目なんかなぁ」
「帝国にもましな人はいるさ。前の隊長さんは犯罪者には優しくなかったが、ここいらに流れてくる人達を差別したりはしなかったよ」
「それとな、兄さん。レオニスは斬りたがりなのよ」
「そうそう」
「あいつは、衛兵の武道大会の剣の部で優勝してな、わざわざ賞金を断って、この地区の隊長を希望したのさ」
「人間以外は斬っていいと思ってるのよ」
後は、コリンティアファミリーのシマで話を聞くかと席を立つ。その直後、酒場に火が投げ込まれる。松明だ。
「鉄砲の打ち込みみたいなもんか? 」
すぐに松明の火は消される。地下から出て来た奴らは火を投げ込んだ奴を追おうとするが、昨日、木札を売っていた年老いた男が止めて、指示を出す。
「お客さんに怪我がないか確認しろ。これくらいの事で慌てるな。親分の命令を思い出せ」
その声に、みんなの足が止まる。
「親分には親分の考えがある。時を待て。お前らが考える事は、この町の皆さんの事だ」
スキヤキは騒がしくなった店の外に気付く。一部の者達は怒りの声をあげている。だが、残りの者達は血気に逸る者達を抑えようとしている。
「いいか! 俺達には他に行く場所ねんだ」
「でもよ」
「大事になれば俺らみたいな亜人は追い出される」
「切り捨てられるんだ」
「どこまで行っても、所詮、縄張り争いさ」
縄張り争いになるのはよくないか……。
だが、見てみんとわからないよな。
スキヤキは路地に出て歩き始める。
「コリンティアファミリーにも挨拶だけはしとくか」




