1、私の部屋に来ない?
帝都の北側、一軒の酒場に入る。中々賑わっている店内の奥に通路があり、二手に別れている。スキヤキは両側を見てから、トイレではない方に進む。
「帝都って、まさしくアラビアンナイトって世界なのに、裏側はカラハタスと変わらないな」
スキヤキは首の汗を、ハンカチとして使っている布で拭く。調理場が先に見えるが、手前に降りる階段がある。彼は地下が涼しいといいが、と呟きながら降りていく。
降りた先にはまた扉がある。
扉を開けると、様々な奴らが必死な目をして、中心にいる女性の手元を見ている。
スキヤキは当然手元になんか眼を向けない。向けるのは、初心者さんの為の胸元だ。透き通った白い肌、怪しく魅せる紫色のドレス。そして、その胸元の前を白いダイスと壺が交差する。
「なんで丁半バクチなんだ? 」
テーブルに伏せた壺の中にはダイス、つまりはサイコロが二個入ったようだ。
それぞれの客が迷いながら、木札を縦に置いたり、横に置いたりしている。壺を開くと、出目は1と3。縦に置いていた客の元に木札が真っ黒な服を着たゴブリンが、置いていた木札と同じ数だけ木札を置いていく。
そして大柄な黒服のオークが横に置かれていた木札を集めていく。
「お兄さんもやりますか? それとも酒からいきますか? 」
年老いた痩せた男が声をかけてくる。
「蒸留酒を一杯と、木札はいくらだい? 」
「木札二枚で銅貨11枚ですよ、蒸留酒は銅貨5枚です」
スキヤキは銅貨を16枚払う。酒が来るまでは中央のバクチを見つめる。偶数、奇数、奇数、偶数とゲームはゆっくり続いている。
酒が届いて、口に含めた時、スキヤキに話しかけてきた男がいた。
「あのエルフの胸元を見つめてても勝てないぜ、兄ちゃん。流れを見なきゃ」
「エルフだったのか……」
「あの耳を見逃してるようじゃ、兄ちゃん、ダメダメだ」
スキヤキは口にした酒がかなり美味しいものである事に気付く。これは遊べないと諦めた。エルフの動きにも癖は見付けられなかった。
「いい賭場だ」
スキヤキは酒を飲み、待ち続けた。
夜も更け、客も数人になる。これが最後のゲームとなった処で木札を二枚縦に置く。
金髪のエルフの長い髪が輝いて見える。勝ち負け抜きに、彼女を見に来るような客はいないのかと不思議になる。ここにいた客は、スキヤキが来てから、この最後の時まで、賭けに夢中であった。
黒服ゴブリンが木札を置きに来る。出目を見ていなかったスキヤキは、礼を言って席を立つ。
みんなが帰るのにあわせて出ようかとしたところで、彼を呼び止める声がある。
「最後の一勝負だけでお帰りなんですか? お兄さん」
「貴女となら一晩中勝負したいが、お金が続かないよ」
「あら、さっきも勝ったし、勝ち続けるかも知れません」
「どちらが酒に強いかってのなら勝てそうだが」
この世界のエルフは体質的に酒が弱いものが多い。
「勝負抜きでなら、お酒付き合いますよ? 」
賭場の清掃を黒服のゴブリンとオーガが始めている。スキヤキに木札を売った男は金勘定をしている。この男、かなり存在感が薄い。
「なら、酒を貰おう」
懐から巾着を出して、銅貨を適当にテーブルに出す。
「私が作っても? 」
「あぁ」
スキヤキはこの世界にカクテルなんてあるのかと思った。彼が今までこの世界で飲んだ酒は原酒ばかり、勿論、水で薄めたものはあったが……。
美女はカウンターに行って、二つの酒をコップに流し込み、棒で混ぜる。
出されたカクテルを一舐めする。蜂蜜酒とハーブを使ったリキュールを使ったのだろうか、どことなく落ち着くような甘味と風味がある。
「いいね」
「嬉しいわ。故郷の飲み方なの」
「どこか懐かしい味だ」
「私もこれなら飲めるのよ」
「力強い酒しか認めないのもいるからな」
「他を認めるって事が自分の大きさを示す事になるのにね」
壺を振っている時とは違い優しい顔をしている。細い指先でコップを握り、少しずつお酒を飲む。
彼女の名は、メーディア。故郷を追われたはぐれエルフ。男に騙される可哀想な女よ、と自虐的な自己紹介をする。追われた理由はぼかしつつ。
会話を交わしながら、お酒が進む。かなり瞼が落ちてきた。
「眠いなら、私の部屋に来ない? 」
反応が覚束なくなるスキヤキをメーディアが誘う。
「かなりお酒強いとは思うけど、結局、酔いつぶれるなんて大丈夫かしら?」
「腕は間違いない。おんしの魅了が強かったということじゃろう」
「それならいいんだけど、親分の為にもしくじれないわ」
「ダニエルのオススメだ。信じよう」




