9、恋してしまうかも知れませんよ
ベルナルド・フッガーは見た。
目の前で彼の夢を手に掲げ、矢が突き刺さる、美しい緑色の髪をした女性を。
そして、彼の夢が地に落ちて、爆発を起こしたのを。
最期に彼が見たのは、彼自身の首に飛んでくる銀色に光る線だった。
爆発が起きた時、マドックは目を閉じて閉まった。彼は自分が油断した事、そして、諦めてしまった事に気付いた。だが、彼は自分を叱りつける。何もまだわからない。マリアも生きているかも知れない。
彼は目を開ける。
再び爆発が起きた。今度は目を閉じなかった。だが後頭部に激しい痛みを感じて、彼の意識は落ちる。
「俺も甘いなぁ」
スキヤキは鞘を腰に戻して、刀に着いた血を布で拭ってから仕舞う。
マリアに近付き、爆風の影響だけ確認してから、彼女を担ぎ上げる。彼は煙に紛れて、彼女を連れ出す。
屋敷の外、裏口に停めてあった荷馬車の荷台の毛皮の山にマリアを隠す。
「出してくれ」
「あいよ~」
ダニエルの気の抜けた声が返って来る。荷馬車が走り出す。
「リリィもいるな? 」
「いますよ。その紅いのは本当に血ではないんですね? 」
「マリアが目を覚ましたら、リリィが説明しろ。何処に逃げるとか、何故死んだ事にしないといけないか、とか」
リリィは笑顔で答える。
「スキヤキが自慢気に説明しないでいいの? マリア様、もしかしたらスキヤキに恋してしまうかも知れませんよ」
「まだスペーシア男爵に惚れてるだろ? 死んだ男には勝てないさ」
スキヤキは荷台の上で、シナモンスティックを咥える。
「マリアとリリィをトゥルクの人達に引き渡したら、俺らは少しばかりカラハタスを離れなきゃならん」
「ゲイウスさん達は信用してるけど、スキヤキもダニエルもすぐいなくなるの? 」
シナモンスティックを咥えたまま返す。
「マリアとリリィは髪をきちんと染めろよ。白くな。で、俺達は帝都にでも行くさ」
ダニエルが少し説明する。
「あれだけの騒ぎだ。ワシ達、まあ、あの場にいたはずのスキヤキがこの街で大きな顔してるのはおかしいからな」
リリィは寂しさを隠すように呟く。
「帝都の方がいい男多いから目立たないよね、スキヤキ」
「もう一度言う。10年後に期待しよう」
マドックが目を覚ましたのは、フッガー家の庭に緊急で張られたテントであった。彼が起き上がると、憲兵隊の一人が報告に来る。
「ベルナルド様が亡くなっただと! 」
「はい、それと、マリア様も……」
報告によると、ベルナルド・フッガーは首を切られて、燃えていたと。マリアは爆発のせいかほぼ燃え尽きていたと。他にも爆発のせいで憲兵や私兵など、マリアの側に居たものを中心に怪我人が多数。
「開明派の皆様は? 」
「皆様、側近の人達とともにこの場から逃げられました。フッガー家の他の方々は御無事のようです」
「あの男は? 」
「誰でございますか? 」
「いや、いい。それは後でじっくり調べる。フッガー家の方に会いに行く」
カラハタスから帝国へ向かう街道から、少しだけ外れた森で彼女は待っていた。弓矢を馬に備え、麻のフード付きの外套を身に纏っている。紅い髪がフードの中に見え隠れしている。
目当ての荷馬車が街道を通りかかったのを確認して、馬を走らせ降りて行く。
「上手くいったかい? 」
「助かったよ、アールマティ」
スキヤキは荷馬車の馭者台からシナモンスティックを咥えながら礼を述べる。
「いいさ、あたしはきちんと仕事を果たした。マリア・スペーシアはもうこの世にいないんだろ? 」
「いないのよん。新しい名前は聞いてないけど」
ダニエルは荷台から少し悔しそうに付け加える。そして、例の物をアールマティに渡す。
「一番儲けたのは、アールマティね」
「小夜鳴鳥を雇うのに、しけた宝石しか用意出来ない方が悪い」
「スペーシア家の家宝は気に入ったかい? アールマティ」
アールマティは既に中身を取り出していた。指にはめて、右手を掲げる。それは陽の光に力強く輝く。
「この指輪は有名な代物だよ、もう少し学んでおきな」
「名前はあるのかい? 」
「『冥界のザクロ』って呼ばれてるのさ、あたしにこそ相応しいだろ? 」
「帝都には、まともな美女いるよな? ダニエル」
「帝都では、まともに儲けられるよな? スキヤキ」
第1章が終わりです。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
第2章に続きます。
何かご意見・ご感想あればよろしくお願いいたします。
あと、完結している作品もひとつありますので、そちらも読んでいただけたらと思います。




