エピローグ
二話同時投稿です。
辺りに暖かな風が吹き、ひらりひらりと桃色の花びらが舞い落ちる。目の前を舞う一枚の桜の花びらに大きな手が伸びるのを横目に見ながら、オーランは小さく息を吐き出した。
「話してくれてありがとう、ウォーレルさん」
「いいや。俺の方こそフィーの話ができて楽しかった、ありがとう」
恐る恐る視線を向けてきたオーランに、ウォーレルは優しげな笑みを浮かべ、ぽんぽんとオーランの頭を軽く叩く。
「僕、何も知らなくて、ただの物語だと思ってて。でも、真実は……ごめんなーー」
「謝るな、オーラン。上に立つ者は何かを犠牲にしなくてはいけないことがある。それが、己なのか、家族なのか、なんなのかはその時次第だ。でもフィーは犠牲なんかじゃない。彼女は最後まで王族として生きたんだ」
オーランがハッとしたように顔を上げる。揺れ動いていたオーランの瞳が真っ直ぐウォーレルを射抜いた時、ウォーレルはよく出来たと言わんばかりに頷いた。
フェデルシカがこの世を去って十一年。戦乱期は終わりを告げた。六つあった国は四つとなり、それぞれが長い戦によって疲弊していたが、ローゼリア王国とヘルス王国は最後まで生き残った。
ローゼリア王国は五年前に前国王ドレットからフェデルシカの兄である現国王アスベルクに変わり、今では戦が落とした影も薄れるほどに活気の溢れる国となっている。
しかし、その繁栄がフェデルシカのおかげであることを知る者は少ない。ウォーレルはフェデルシカの事を忘れられたくないという想いで、幼いオーランに『予知夢姫』として物語を聞かせていた。
「彼女が守った民を、次はお前が守ってくれ。国民を大切にする王になれ、オーラン」
「はいっ!」
「よし。じゃあ、もう行け。 しっかり学院で学んで来い」
「わかったよ。じゃあまたね、ウォーレルさん!」
無邪気に手を振りながら去っていく小さな少年。まだ十歳という国を背負わせるには小さすぎる背を見送りながら、それでもウォーレルは彼に未来を託す。
「悪いな、オーラン。またはないんだ」
ぽつりと呟いたウォーレルの言葉を聞けた者は誰もいない。ただ静かに揺れる枝垂桜のさわさわという音だけがウォーレルを包み込んだ。
「お前の側にいられるのもここまでだ。俺がいなくなっても、お前は寂しがってくれるか?」
太い幹に優しく触れ、ウォーレルは枝垂桜を仰ぎ見る。舞い散る花びらが頬を撫で、ウォーレルはふっと表情を崩した。
フェデルシカの死後、花を散らせることのなくなった枝垂桜。春を過ぎても、雨が降っても、冷たい風が吹いても、桃色の花を咲かせ続ける。
それはある魔術の成功の証。フェデルシカが読んでいた古代魔法について書かれていた本の中にある『願いを叶える魔術』が成功した証なのだ。
そう、ウォーレルは古代魔術の解読に成功していた。そして、フェデルシカと長い年月を過ごしてきた枝垂桜を媒介にして、ある願い事をしたのだ。
『予知夢が見れる者に運命の出会いを』
それはフェデルシカが亡くなる直前に国王に願った事を叶えるためのようにも思える。だが、それなら予知夢を見れる者が現れないよう願えば話が早いのだ。
でも、ウォーレルは知っている。フェデルシカが予知夢が見れる事を誇りに思っていたことを。そして、ただ愛する人と共に生きる未来を夢見ていたことを。
だから、ウォーレルは願った。ウォーレルのように予知夢を喰らう事の出来る者と出会えるように。愛する者と出会えるように。予知夢を見る者に幸せが訪れるように。
『ウォル』
ひと時も忘れたことのない温かく優しい声が聞こえた気がした。
「もうすぐ側にいくよフィー。あぁ、早いだなんて怒らないでくれよ。君が残した未来がどうなったのか、たくさん話してあげるから。これからはずっと一緒にいられる。ずっと伝え続けられるね」
ーー愛しているよ、フィー。
ウォーレル・アラウド・ヘルス。享年三十五歳。
ヘルス王国第二王子にして、派遣軍総指揮官を終戦後も勤め上げる。数々の功績を挙げ、ヘルス王国だけではなく、ローゼリア王国でも人気が高かったため、若すぎる死に誰もが嘆き悲しんだ。その死が古代魔術の代償の所為だと知るのは、残されていた手紙を読んだローゼリア王国の王族のみである。
その後、ローゼリア王国の王族にある慣わしが生まれた。
王族として産まれた子が十歳となり学院に入学する際、フェデルシカの話と願い、そして枝垂桜にかけられた魔術の話をするというものだ。
その話を聞いた者達は、今のローゼリア王国がある訳を知り、王族とは何かを考える。それと共に、フェデルシカの願いを叶えるために、予知夢を見る者の保護にも全力を尽くす事を誓ったという。
そしてもう一つ、王族に語り継がれた物語がある。それが『予知夢姫と夢喰い王子』であった。
ーーむかしむかし、ある国に予知夢を見ることができる姫がいた。美しく優しい姫は、愛する国民を予知夢で何度も救っていたが、予知夢は見るたびに姫の命を削っていった。
それでも国のためにと予知夢を見続けていた姫は、ある時、隣国の危機を救うことで運命の人と出会う。その人こそ、予知夢を喰らう力を持った隣国の王子であった。
二人は惹かれ合い恋に落ちたが、予知夢を見続けた姫の身体はすでに限界であった。王子と出会うには遅すぎたのだ。それでも二人は短い間を共に生き、姫は大好きな家族や愛する人と今までで一番幸せな時を過ごした。
姫は最後の最後まで、国民を思い、家族を思う、優しくて温かい、そして困ったように美しく笑う女性であった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『運命の出逢いを〜ただ一つの願い事〜』は『予知夢姫と夢喰い王子』で鍵ともなるフェデルシカとウォーレルの真実の物語として書き始めました。
あとがきは作者の活動報告に書かせていただきたいと思います。もし興味のある方がいらっしゃいましたら、覗いていただけると嬉しいです。




