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運命の歯車が動き始める

「あの報告は本当なのか?」

「はい」



 神妙な表情で頷くフェデルシカの目の前にいるのは、難しい表情をしたドレットだ。なぜドレットがフェデルシカの部屋を訪れているのかといえば、アレンから毎日届けられる報告内容がいつもと違ったからである。



「今日は一切予知夢を見ませんでした」



 ドレットに報告するフェデルシカも、何故かわからないと困惑した表情をしている。



「予知夢を見るようになってから、寝れば必ず予知夢を見ていたというのに……何か今までと違うことはなかったのか?」

「違うこと……あの……その……」



 突然フェデルシカが頬を染め口ごもる。思いもしない反応にドレットが驚いていると、扉をノックする音が部屋に響いた。ドレットが応えると、扉からエリーが入ってくる。



「どうした?」

「お話中に申し訳ございません、陛下。予知夢の件と関係のある方をお連れしました」

「なに?」



 ドレットの表情が険しさを増す。しかし、エリーに促されるようにして部屋に入ってきた人物を見るや、ドレットは驚きのあまり目を見開いたまま固まった。



「ウォ、ウォーレル、殿」

「突然失礼いたします、陛下。先程、エリー嬢から伺ったのですが、フェデルシカ様が予知夢を見なかったとは事実でしょうか?」



 部屋に入り頭を下げるや否や、掴みかかるような勢いでドレットに質問してきたウォーレル。その姿を見て我に返ったドレットは、表情を引き締めウォーレルの前に立った。



「事実だが、何故ウォーレル殿が今回の予知夢の件と関係あるのだ?」

「それは、昨夜はずっと私が眠っているフェデルシカ様の側にいたからです」

「な、何だと!?」



 ドレットは勢いよくフェデルシカの方へ向き返る。そこには先程より顔を真っ赤にしたフェデルシカがいた。その表情だけで疑いようのない事実だということがわかる。次に確認するようにエリーを見たドレット。その何処か怯えたドレットの表情でエリーは何が聞きたいのかを察し、小さく頷きながら「ウォーレル様はベッド横の椅子にずっと腰掛けていらっしゃいました。扉は僅かに開いておりましたし、私もずっと扉の外に控えておりました」と告げた。


 エリーの言葉でやっと止まっていた息を吐き出したドレットは、何とも言えない表情でフェデルシカとウォーレルを見つめる。親心とは複雑だ。

 娘の最初で最後になるであろう恋を応援したい気持ちと、男に愛する娘をとられる寂しい気持ち。その二つの気持ちでドレットの心は大きく揺れる。しかし、フェデルシカのあのような表情を見てしまっては、何も口を挟めまい。


 王族としては未婚の男女が共に夜を過ごすなど許しがたいが、フェデルシカを王族なのだからと縛り付けたいとは思わない。フェデルシカはすでにローゼリア王国のどの王族や貴族よりも国のために働いてくれた。

 本当ならばもう働いては欲しくないのだ。できるのならば、女性としての幸せを感じさせてやりたい。そうドレットは思っていた。


 そんな時に現れたのがウォーレルだった。外の者と交流させてやりたいが、自国の者ではバレる危険がある。そのため、せめて他国の者と交流させてやれれば、という想いで始めさせた文通。それが、こんな結果をもたらすと誰が想像しただろうか。



「確証はありませんが、先ほどエリー嬢に聞いたところ、今までも眠っているフェデルシカ様の側に人が付き添った事はあったとか。それでも予知夢は見続けていた。私が側にいた以外に変わったことはなかったとのことですし、私が何かの要因なのではと考えました」

「ふむ……」



 ウォーレルの立てた仮説を聞いて、ドレットは顎に手を当てながら考え始める。

 もし、それが本当ならば願ってもないことだ。フェデルシカが予知夢を見ずに済むようになれば、フェデルシカの命が削れることはないし、健康な体に戻れる可能性だってあるのだから。


 フェデルシカが予知夢を見るようになってから、ドレット達は様々な事を調べた。呪いの可能性はないか、魔術で見ずに済む方法はないか、身体に効く薬はないか。

 しかし、どれも結果はついてこなかった。最初は眠る回数を減らしたりさせていたが、いつの頃からはフェデルシカは自ら予知夢を見るようになり、身体は日に日に弱っていった。そんな姿をドレット達はただ見守ることしかできなかったのだ。



「……よくわかった。それでは改めて余から頼もう。ウォーレル殿、しばらくフェデルシカが眠る際に共にいてやってくれるか」

「っ!」

「もちろん扉を少し開け、エリーかアレンを扉の外に控えさせてもらうが、ウォーレル殿と予知夢の関係を調べるためにもよろしく頼みたい」



 真っ直ぐウォーレルを見つめるドレットの後ろでは、フェデルシカが驚いた表情で口元に手を当てて固まっている。そんなフェデルシカを視界に入れながらも、ウォーレルは真剣な眼差しを崩すことなく「謹んでお受けいたします」と強く頷き返したのであった。




 その日の夜から、ウォーレルの帰る場所が派遣軍の寮ではなく、フェデルシカのいる建物に変わった。さすがにヘルス王国の王子を椅子に座らせ寝かせるわけにはいかないので、フェデルシカの部屋にはベッドが一つ運び込まれる。

 初めてその部屋の光景を見たウォーレルは苦笑いを浮かべた。何故なら、キングサイズのベッドではなく、ベッドが二つくっついて並んでいたからである。



「陛下が、添い寝しなくても予知夢を見なかったのだから、隣で寝てれば効果はあるはずだ、とおっしゃっていました」

「だからベッドを並べたのか」

「……お、お父様」



 エリーからドレットの伝言を受け取った二人は、目が合った瞬間にどちらからともなく吹き出して笑った。

 フェデルシカは父親の過保護さに嬉しいような恥ずかしいような気持ちになったからで、ウォーレルは己が淡い期待に胸を膨らませていたと気づいたからである。


 何となく二人が何を考えていたのか想像できたエリーは、その噛み合っているのか噛み合っていないわからない二人の笑いを微笑ましげに見つめていたのであった。

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