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キーナの魔法~外伝~  作者: 小笠原慎二
始まりの赤の賢者
9/15

間者

レオがいかに女性を口説くかというところです。

どうやったら女性が落ちるのか、考えながら書いてましたが、なかなか難しい…。

ルマ王国の大使二人の前に、足を組み、ふんぞり返って座るレオ。

いかにも偉そうだ。


「で? つまりおたくらの言いたいことは、この俺に宮廷魔導士になれと?」


レオ達は流れの魔道士として、あちこちの戦場を渡り歩き、稼いでいた。

それを国直属の魔導士になれと言ってきているのだ。


「宮廷魔導士の中でも上位魔導士としてお迎えいたします。待遇もそちらの言い分を…」

「いらん」


レオが一喝する。


「そんなものに興味はない。そうやって勲章をちらつかせても、値下げなんかしないぜ?」


レオの請求する額はそこらの流れの魔導士の倍以上する。

それに見合った実力を持っていることもあるが、レオの軍師としての才能もまた高いものであり、レオの一団を招き入れることができれば、負けることはないと謳われていた。

故に、どこの国でもレオ達を直属の魔導士にしようと躍起になっていたが、引き留められる国はなかった。


「もらえるもんもらえないなら、他に行くだけだ」


レオ達の提示する金額を用意できない時は…。

その先は言わずもがなであろう。


「と、ところで…、ラオシャス殿はなかなかの色好きだとかで…」

「色?」

「是非私共の用意した色の味見もと思いまして…」

「味見?」


レオの顔が崩れる。


「すでに用意はしてありますので、こちらに行っていただければ…」


と何やら住所の書かれた紙を差し出してきた。

それを受け取るレオ。


「ま、少しくらいなら…」


すでにその目は怪しい光を宿していた…。












その頃、レオのテントではベッドに横たわったまま、シャオがレオの帰りを待っていた。


「レオちゃん…、遅いな…」


彼が帰るには、まだまだ時間がかかるだろう。













宿営地から近い街のとある宿屋の一室で、レオは一人の可憐な女性と向き合っていた。

肩に置いた手から、彼女の震えが伝わってくる。

これから自分に起こるだろうことを考えて、震えが止まらないのであろう。

そんな女性を見つめていたレオが、ふっと溜息をつくと、女性の肩から手を放した。

そしてゴロリとベッドに横になる。


「何故ここに来た?」


レオが女性に問いかけた。


「え?」

「金に困って売られたか?」

「ええ、父が死んで…、借金がかさんで…、私は、借金のカタに…」


消え入りそうな声で女性が答えた。

その表情は暗く、目には光がない。

レオはぼんやりと天井を眺めていた。


「嫌がる女を無理に抱くのは趣味じゃない。まあ、お座りよ」


なにやら考えていた展開と違う言葉をかけられ、少々困惑しながらも、女性はレオの隣に素直に座った。


「このまま俺が帰ってしまったら君も罰を受けるのだろう? まあ、暇つぶしに俺の夢物語でも聞いててくれ」


女性ににっこりと笑いかける。

女性はとりあえず恐れていた事態にならないことにちょっと拍子抜けしたが、安堵したのか、少し緊張が解けた顔をした。


「俺は、国を作ろうと思ってる」


あまりに突拍子もないことを聞かされ、顔に素直にハテナマークが浮かんでしまう女性。

一体何を言っているのか、脳みその情報処理が追いついていけていないらしい。


「君のように悲しむヒトのいない国、誰もが平等でいられる国…」

「そんなの…無理だわ…」


女性の口から咄嗟にそんな言葉が出る。

無理だ。

そんなことは無理だ。

国には王がいて、貴族がいて、平民がいる。

王が、貴族が国を治める。

それが当たり前の構造だ。

身分の差があるのが当たり前で、平等なんて言葉は本当に夢物語でしかありえない。

だが目の前の男はそれを平然と言い放った。


「かもな。多くの人手がいる。金も要る。そして…」


レオが身を起こして女性の隣に座る。


「情報がいる」


女性の顔をみてにっこりと笑うレオ。

その笑顔はただ無邪気なものとして女性の目に写った。


「君、俺のための間者にならないか?」

「え?」


またもや突拍子もないことを言われ、頭がスパークしかける女性。


「危ないことをしてくれと言っているわけじゃない。その耳に入ってくる情報をくれるだけでいい。この後君は国へ帰って、貴族という名のゲスオヤジ共に抱かれるんだろう?」


女性がビクリとなった。

そう、彼女はとある娼館に行くことがもう決まっている。

もとはそこそこの上流階級の身分だった女性は、それなりに高級な娼館で働くことになっていたのだ。

つまり客層は貴族が主である。


「ただ奴らに抱かれる、食い物にされるだけなんて悔しいじゃないか。連中に一泡吹かせてやりたいとは思わないか?」


彼女の父は騙され、借金を背負わされた。

そのまま病気になってあっけなく死んでしまった。

騙したのは自分より身分の高い貴族。

いくら憎んでも憎んでも、殺してやることも叶わない。

だけれども…。


「もちろん、無理にとは言わないさ。無理強いはしない主義でね。本当ならすぐにでもここから君を逃がしてあげたいくらいなんだけど、そうすると君が命を狙われることになってしまう」


娼館に売られたが最後、その身に自由はない。

逃げ出しても探し当てられ、最悪殺されてしまう。


「君のような美しい人を、危険に晒したくはないからね」


レオは女性の目を見て、はっきりと美しいと言い切った。

虚ろな目をしていた女性の顔が赤くなる。

それなりの容姿をしている自信はあったが、面と向かって美しいと言われることは初めてであった。

悪い気はしないが、さすがに照れてしまう。


「そ、そんな、私なんて…。美しくなど…ありません…」


自分よりも美しい女がいることなど百も承知だ。

あんな風になりたいと憧れたこともある。

だが目の前の男は、自分を見てはっきりと美しいと言ってくれた。

嬉しいけれども自分には過大評価にも思えて、女性は男から顔を背けた。


「そんなことはない」


レオが女性の手を取り、床にひざまづく。

女性はレオを見下ろす格好になってしまった。


「君はとても美しい人だ。君が教養のある人だということは、その立ち居振る舞いからも分かる。姿形はもとより、君はすべてがとても美しい。君の前にひざまづかない男などいやしない。例えこの先、価値も分からないゲスオヤジ共に汚されようとも、その君の美しさは変わることはないよ」


女性の顔がますます赤くなる。

視線をレオに合わせていることができず、また顔を背けてしまう。


「君の名を、教えてくれないか?」


女性の手を握ったまま、レオは問いかける。

その手が多少震えているのは、恐怖からではないだろう。


「ユ…、ユーリィです…」


小さいが、はっきりとした声で女性は答えた。


「ユーリィ…、君にふさわしい、美しい名だ」


レオが握っていたユーリィの手にキスをする。


ドッキン


ユーリィの心臓が高鳴った。

手を放してしまいたいけれど、レオの手は優しく、そして強く手を握っていて、放そうとしてくれない。

興奮気味のユーリィの頭が高速回転し始める。

この男の間者になれば、もしかしたら父の敵を討てるかもしれない、それに…、ユーリィはこの男の役に立ちたいと、心底思った。


「わ、私で…、お役に立てるのなら…」


震える声を絞り出した。


「やってくれるのかい? ユーリィ」


ユーリィがコクンと頷く。


「ありがとうユーリィ。ならば君にこれを」


となにやらポケットからミサンガのようなものを取り出し、ユーリィの腕につけた。


「君の身を守るものだ。何かあったらちぎってくれ。炎の結界が少しの間だが君を守る」


そのミサンガは娼婦たちの間では、レオの間者という密やかな密約を交わした仲間を見分けるものとして知られていたが、世間では、レオが手を付けた女性の目印として有名であった。

いったいどれだけの女性がつけているのだろう。


「使う時が来ないことを祈っているよ」


実際に使われたことは今までにない。

なにせ女性のほうから情報を得ようとして動くのではなく、客の男性が愚痴としてこぼしていったものを、時折訪れるレオに耳打ちするだけのものであったからだ。

そしてレオは、女にだらしないと世間で有名だったのである。

事実であるが。


「ラオシャス様…」


ユーリィがなにやら決心した顔でレオの名を呼んだ。


「私はまだ、与えられた仕事をこなしてはいません」


この場合の与えられた仕事というと…


「私が与えられた仕事をこなせることを、証明させて下さい」


ユーリィが真剣な顔をしてレオを見つめた。

その瞳は潤んでいる。


「本当に、いいのかい?」


レオがユーリィの決意を確かめる。


「はい…」


ユーリィの瞳は潤み、顔は上気して耳まで赤くなっている。

レオは優しく彼女に口づけをした。


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