閉じ込められる
割れたガラスの隙間から雪が吹き込んでくる。小さな余震が来る度に、壊れてぶら下がった天井の一部が揺れる。午後5時を過ぎているので、停電していると暗い。龍山先生の携帯がまた鳴り響く。
「やばい、来る。」
ズドン、と突き上げるような揺れ方。全員で足を踏ん張って、強い揺れに耐えようとする。
「ちょっと、強くない!?」
夢々子が声を上げると同時に、バキリ、メキ、という音が頭上からした。
「キャーーーーーーー!!!」
見夜が目をぎゅっと閉じて僕にしがみつく。はっと上を見上げる。降ってくる鉄骨を確認すると同時に、ヒビの入っていた体育館側の廊下が激しく崩落していくのも確認した…。まずい、鉄骨が…降ってくる…。なんとかしないと…。
… … … … … … … … … … … …
揺れが収まり、静寂と同時に僕の右腕がだらりと見夜の体の上に落ちる。くっ…。遅れて経験したことの無い激痛が走る。右腕が動かない。痛み以外の感覚が無い。そうか、どうやら反射的に僕は右腕で見夜をかばったのか。その証拠を示すかのように、僕の練習着の袖に裂け目が入り周りに血が染み、武骨な鉄骨がみいさの横に転がっていた。こんなでかい鉄骨ぶつけたら、そりゃ骨折れるわな。砕けてるかもな…。跳び箱で失敗して骨曲げたことはあったけど、骨が折れるとこんなにも激痛なのか…比べ物にならないな…。
しがみついていた見夜が顔を上げ、僕の苦痛にあえぐ顔を見つめる。
「田沢湖…さん…?」
そして、自分の体によりかかっている僕の右腕を見る。
「そんな…嘘…。田沢湖さん、なんで…何でこんなことに…なってんですか…。」
痛みに耐えつつ僕は答える。
「僕の…脊髄…が、見夜を…助けたくて…反射したんじゃ、ない…かな…。」
自分でもよく分からず、精一杯の強がりを言ってみた。
「早く保健室に行かないと、死んじゃう。急ぐよ。」
「急ぐって言っても、その腕じゃ持てないんじゃ…」
「大丈夫。行こう。」
何とか左腕1本で見夜の足を支えて歩き出す。
「あの…ドアが開きません。」
紀友が言う。多少は想像していた。だが、実際に告げられるとかなり精神的に追い詰められる。
「だいぶひどい揺れだったし、やっぱりそうか…。」
背後を振り返る。体育館側はもうもうと舞う砂ぼこりで未だに見えない。けど、これで1つの事実が決定した。僕達、紀友と夢々子とみいさ、それに見夜は、渡り廊下に閉じ込められた。
「え、じゃあ、私達今すんごい絶望的状況じゃないですか?」
この事実を告げると、夢々子が明らかに動揺して言う。
「とりあえず、今日中に助けが来ることは無いと思うから、寒くならないようにして一晩ここで過ごそう。それしか確実に生き残れる方法が今のところない。」
全員がこの方法を認めて、壁際に座り込む。
「そうだ。器具庫にジャンパーとかがあるはず…。」
取りに行って、扉を開ける。少し開閉に力が要るようになっていて、どうやら天井が歪んでしまったようだ。
5着の厚めのジャンパーを持って、見夜達の元へ戻る。
「男子用だけど、体温下げないように羽織っとけ。」
「ありがとうございます。」
足を動かせない見夜に、ジャンパーを着せてあげる。なんか…こんなときに不謹慎かも知れないが、鼓動がドキドキいっている。他人に服を着せるのは難しくて、つい体に触れそうになる。その度に、ドクンと鼓動が跳ねあがる。
夜11時…。僕以外寝ている(ように見えた)。そうだ、龍山先生の携帯で情報収集できるか。よし、そうしよう。そばに置いてあった龍山先生のカバンから携帯を取り出す。回線が混み合っているのか、すごく通信速度が遅い。電池残量を気にしつつ、様々な情報を仕入れる。『春畑県でM7.9』『太刀田市で震度7』『夏浜地区孤立か』『盆祭小学校全壊』って、マジかよ……。盆祭小学校って、紀友、夢々子、見夜の出身校じゃん…。さらに衝撃的な情報が見つかる。『獣山山山体崩壊、集落飲み込む』画像がついていたのでファイルを開く。容量が大きく、読み込むのが遅い。やっと開いた。そこには、上空から撮影されたと思われる写真があった。山の中腹から大きく抉られるように崩れていて、麓にあったはずの集落が500~1000mほど押し流されていた。あぁ、これは…終わったな…。情報収集を終え、とりあえずカバンに携帯をしまう。
隣で寝ていたみいさが寝返りを打って僕にぶつかる。みいさはどうやら起きていたようだ。体が触れあっていて、少しドキドキする。
「田沢湖さん…起きてたんですか。」
「うん…寝れなくてね…。」
「私達、どうなるんですかね…。」
「助け来るまで待つしかないだろうな…。つっても、しばらく来ないだろうな…。」
「なんでですか?」
「この辺の道路全部ズタズタで、孤立してるんだって。」
「そんな…。」
「大丈夫。僕が、何とかする。」
「そうやって、また1人で…。みんな、皆、田沢湖さんのこと、す、好…」
僕は、ぽんとみいさの頭に手を置く。みいさが驚きと疑問の混じった目で見つめてくる。
「それ以上言うな。僕だって、わかってる。」
「絶対、ぜったい!これ以上無茶な真似したらダメですからね!」
涙の浮かんだ目で、みいさが言う。
「わかってるよ。」
赤い紅い夜空が広がる窓の外を見ながら、微笑を浮かべて僕は答える。絶対に、4人ともこれ以上傷付けない。僕も、絶対に4人を悲しませない。そう心に決めて、僕も目を閉じる。




