救出
「…とりあえず、練習始めよう。」
島護の声が、重い空気を振り払おうとする。器具庫の外に出て、台の準備をする。すると、龍山先生が来た。
「集合ー!」
「えぇと、これから会議が入ったのでしばらく来れません。まず、いつも通り練習しといてください。」
「「はい。」」
「あれ、龍山先生カバン置いてっちゃった。」
「後で戻ってくんだから問題ねぇだろ。」
「だな。」
すごく不安定な壊れかけの台で、紀友と見夜とファルケンベリ練習を開始する。卓球部は校舎と武道場・体育館をつなぐ渡り廊下のような所の2階を使って練習している。体育館側で練習していると、バスケ部とバレー部の練習が見える。武道場側からは、下から剣道部の壮絶な打ち合いの音と掛け声が聞こえる。正直言ってうるさい。
練習を始めて10分後位に、いきなり蛍光灯が消えた。そして、すぐ点いた。それが2、3回繰り返された。
「あれぇ、停電?けど点いた。」
紀友が不思議そうに言う。その時田沢湖は、とんでもない事に気付いた。記憶の糸が全てつながった。(首都近辺大震災の時と同じだ…!蛍光灯が消えてから、揺れが襲ってきた。あの時は9、10分後位に揺れたけど、今回予想されてる震源は近い…。やばい、すぐ来るぞ!!)
「まずい、地震が来る。」
「え?」
見夜が聞き返してくる。その時………
「ブワっ、ブワっ、ブワっ、…」
「ピンポンパンポーン…」
龍山先生のカバンの中の携帯から、不気味な音が鳴る。皆が、そのカバンを見つめる。
「プワンプワン、プワンプワン、…」
緊急地震速報の音が、空間を切り裂く。下の体育館がざわめく。
「台の下に入って!」
気付くと僕は叫んでいた。小さく揺れていたのは数秒で、すぐに突き上げられてスッ飛ばされるような揺れが来た。やべぇ、鉄筋なのにきしんでる。ズドンッ、鈍い音と共に台が傾いた。紀友は台の脚にしっかりしがみついていた。あれ、見夜は…?
僕の後頭部にも痛みが走る。揺れでぶっ飛ばされて柱にぶつかったようだ。強い、強すぎる。こんな揺れ方、ありえない。足元をヒビが走る。砂煙が上がる。ガラスが割れている。だんだん揺れが収まる。
だいたい収まったあたりで、島護が全員を渡り廊下の中央に集まらせた。
「…見夜!!」
僕は駆け寄る。台と床の段差に足を挟まれていた。必死に台をどけようとする。しかし、うまくヒビと足とが挟まり、動かない。周りに1年女子が集まってくる。見夜以外、全員無傷だ。良かった…。ダメだ、少ししか動かない。…仕方ない。こうなったら、とことん守ってやらないと。絶対、生きてないと。僕も、皆も。
「島護。体育館側の扉から僕以外連れて体育館に出て。僕は後で必ず追い付くから。」
「おい、田沢湖、お前…ここに残るのか?」
「うん。見夜を助けてから行く。僕以外全員連れて早く避難して。」
「なんで…なんでそんなに頑張るんですか!?」
夢々子がいきなり大声で言った。
「…え?」
「だって、大切な仲間が…仲間が大変だってのに、逃げられるわけないじゃないですか!!」
「私もおなじです。」
みいさも言う。
「私も、仲間を助ける。」
紀友も言う。
「…お前らを、失いたくない。だから、逃げて生き延びてくれないか?」
「田沢湖さん、本当に、絶対に見夜ちゃんを助けられるんですか?」
「絶対、に…。」
「自信ないなら、私達が手伝います。」
「お前らを、思って…逃げてくれって言ってるん…」
「私達を思って?本当にですか?本当にそう思ってるなら、自分が死にそうな仕事をわざわざするんですか?」
「私達皆のこと思ってるなら、田沢湖さんは絶対に死ぬようなことはしちゃいけないと思います。」
みいさが言う。そうか。僕は、自分だけ死んじゃいけないんだ。僕は、求められているんだ。わかった。決めたよ。4人丸ごと助けてやるから、ついてこい。
「そう、か…。ありがとう。…何起きても僕は知らねぇぞ?」
「さ、助けますよ?」
「あぁ。あ、島護。他は任せたぞ。」
「はいはい。」
「なんか…ごめん。本当に、本当にありがとう……。」
見夜が涙を流す。さっさと避難を開始する他の5人。割れた扉から出ていった。
僕達4人で、見夜を挟みつけている台を寄せようとする。4人がかりなら、なんとか動かせた。
「どっちの足が痛いんだ?」
「左足です。」
「わかった。…よし、持ち上げるぞ。僕はとりあえず足持つから、紀友が頭を支えて。他は上半身支えてあげて。」
「これから、どうするんですか?」
見夜が尋ねる。
「保健室まで運ぶよ。」
こうして、ゆっくり移動を始める。




