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ヤバイ

 12月5日夜10時半…田沢湖は布団に入り、ちょうど寝たところだった。ふと目を覚ます。ベッドの横の固定された棚がギシギシいっている。(地震…?)この時気づいた。自分が左右に振られ、揺すられていることに。その揺れはどんどん大きくなり、自然に上半身を起こして棚にしがみついていた。(まずい…でかいぞこの地震…。)脳裏に、一昨年の衝撃的な映像が蘇る。この国に住む誰もが恐れおののいた、首都近辺を襲った大地震・巨大津波…。折れるように崩れ落ちる高層ビル、強大な水流に押し流されるテレビ局。全てが映像だったが、そんな光景をありありと思い出していた。しばらく揺さぶられていたが、だいぶ揺れが収まってきた。急いで階段を駆け降り、リビングのTVを見る。今日は父も母もいるので、TVはまだついていた。(えぇ!?震源すぐその辺じゃん…。)隣県に接している太刀田市だが、その隣県の町の内陸部が震源だった。(家が川沿いだから津波来なくて良かった…。ひとまず安心。眠いし寝よう。)TVでは、国営放送の大御所アナウンサーが気象庁の会見が何だかんだという話を繰り返していた。


 また目が覚めた。また揺れている。今夜はよく揺れるものだ。揺れで目が覚めたのはこれで4回目である。揺れが収まると、田沢湖は時間を確認した。(朝5時35分…。なんかこれ以上寝れそうに無いし起きよ…。つうかよく3回も寝直せたもんだ。)

 起きてリビングに行くと、また国営放送の大御所アナウンサーがしゃべっていた。(今日午後3時から詳しい会見を開きます、か…。もしかして何かマズイのか?)


 学校に行っても、地震の話で持ちきりだった。

「凌祐、昨日寝れたか?」

「俺は鈍感だからな。最初の一番でかいのしか気づかんかった。」

「震源は菊山(きくやま)県沿岸北部だってな。マグニチュードが5.8、震度がここで4…。明け方の一発は震源ここだったらしいよ。」

「マジかよ。あんま続かなきゃいいけどな…。」

「なんかさ、首都近辺大震災があったじゃん。あれ思い出して、なんか怖くてな…。不安だっつっても、3回も寝直せたけどな。」

「ふっ、お前も実は鈍感なんじゃね?」

「お前ほどじゃねぇよ!」


 部活に行っても、最初は地震の話だった。重い扉を開けて、いつもカバンなどの荷物を置いている器具庫(ほぼ卓球部の部室扱い)に入ると、由斗がいた。

「昨日の夜はひどかったな。」

「あぁ。いまいち気づかなかったけど、授業中もしょっちゅう揺れてたらしいな。」

「マジか。」

しばらくの間会話が途切れる。ラバーの手入れをしていた由斗が、唐突に聞いてきた。

「そういや、お前魅穂好きなのか?」

あまりに突然の問いに、ラバークリーナーを大量に噴出させてしまった。

「ぁい!?あぁ、ラバクリが…。…え?今なんつった?」

「だーかーら、お前、魅穂のこと好きかって聞いてんの。」

「ど、どどど、どうして?てかなぜ今?」

「まずお前、タイプは?」

「え、え?んー、…外面?内面?」

「どっちも。」

「外面は、その…髪長い人?あと…適度に大胆な人?」

「蛮夏的な?」

「は、派手すぎだろ…!」

「ところでさ、内面は?」

「静かそうに見えて実はすごく元気な人…かな?」

「この部にタイプに合う人いる?」

「…いきなりそこ聞く?」

「あぁ。」

「…見夜?」

「マジか。あれ、元気どころかウザクね?」

「その…適度に…色気というか…。外面にも内面にも。」

「ハッハハ。まぁ、そうか。」

 こんな会話を、器具庫の外で聞いていた人がいた。夢々子だ。(そっか…。田沢湖さん、私じゃないんだ…。少しは期待してたのに。でも、まさか田沢湖さんの口から色気という言葉が出るとは。色仕掛けに弱いのかな、もしかして。そっか、見夜ちゃん、か…。私、髪はショートカットだし、胸は小さいし…。そっか、見夜ちゃんなんだ…。)その時、田沢湖の声が近づいてきた。「…あ、先生に渡すものあったんだ。ちょっと行ってくる。」扉ががばっと開く。夢々子と田沢湖がぶつかりそうになる。

「ひゃっ。」

「危ねっ。ごめんごめん。」

田沢湖が風のように立ち去り、夢々子は複雑な気持ちを抱えながら器具庫へ入った。

 田沢湖が職員室に入ろうと中を覗くと、職員全員がテレビの周りに集まっていた。(午後3時過ぎ…あ、気象庁の会見か。)

「失礼します。日村先生に用があって来ました。」

職員の人だかりの一番後ろで、立ってテレビを見ている日村先生が、田沢湖に唐突にこう言う。

「こいつはまずいぞ…。明日は念のため休校かもな。」

「何が起きてんですか?」

校長が、そそくさと校長室に入っていった。教頭は電話を手に誰かと何かを話し込んでいる。会見している白髪のハゲの話に耳を傾ける。

「…したがって、ここで示されている地域では今後2、3日以内にさらに強い地震が起きることが懸念されます。身を守る準備を直ちに行うことを…」

(おいおいマジかよ…。ヤバくないかこれは。覚悟しといた方いいな。)

「と、とりあえずこれ机の上に置いときます。」

「あぁ…。俺、これから会議入ると思うから部活に顔出せねかもな…。」

「はい、わかりました。…失礼しました。」

 器具庫に駆け込むと、全員が揃っていた。田沢湖が叫ぶように言う。

「ヤバいぞ。」

「ど、どうした?」

全員がこっちを向く。

「今、職員室行ったら、テレビで気象庁の会見してて、それで…この辺、2、3日以内にすごい地震が来るかもしれないって…。」

「…それって、昨日のより強いのがくる、てことですか?」

見夜が不安そうに聞いてくる。

「多分、ね…。職員室も、これから緊急で会議だって。教頭とか校長も、電話かけてたりしてなんかヤバそうな雰囲気だったし。」

その時、また地震がきた。大した揺れではなかったが、こんな話をした後ではかなり不安を煽る。

「一昨年みたいに、壊滅しなきゃいいけど…。」

誰ともなしにそんなことを言う。

「んな縁起悪ぃこと、言うなよ…。」

由斗が言う。皆、ある程度は覚悟していた。だが、その『覚悟』を軽々と越えることが、起きてしまうのだ。この直後に。

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