亀裂
島護と夢々子の喧嘩から2、3日後の練習。ダブルス練習をしようとしている際に、島護はまた反感を買うような発言をした。
「とりあえず、ダブルスのペア決めて。」
ここまではいつもの光景。だが、この後雰囲気が一変する。
「そういえば、島護さんって人のこと名前で呼ばないですよね。」
見夜に尋ねられ、明らかに狼狽する島護。
「え…?いや、んなことないよ。」
「じゃあ私の名前は?」
「…大島さん。」
「名字だとなんか芸人みたーい。」
紀友が言う。夢々子がつぼって大爆笑する。皆も呆れつつ笑う。島護は「救われたー」という感じで笑う。
「それじゃ、練習始めよう!」
「あ、ところで下の名前は?知らないとか言わないですよね?」
「え…。」
「あれ、まさかの!?」
田沢湖もこれにはさすがに苦笑した。
「おいおい島護マジかよ…。」
「は!?ひどくないですか!?私の名前も覚えてないんですか…?」
夢々子がキレる。(あれ、この雰囲気まずくね?)みいさも細い目を見開いて島護を罵倒する。
「先輩として最低じゃないですかそれ!!」
「じゃあお前らは後輩としてもっとちゃんと先輩の指示聞けよ!!後輩なら後輩らしく先輩に従えよ!」
「は?そんな理由は勝手過ぎですよ!?総合キャプテンなんだから全員の名前くらい覚えろっつの!!」
「俺思うんだけどさ…」
今日太郎がしゃべりだす。
「1年生はもうちょい俺らの話聞こうよ。こっちも一生懸命言ってるわけ。」
「いやいや聞いてますよこっちは話ぐらいちゃんと。」
「そうですよ。」
その時、ついに由斗がしびれを切らした。
「1年生意気なんだよ言いたいことばっか言いやがってよ!!」
「何逆切れしてんですか?名前も覚えられない低脳のくせに。」
(おい待て見夜!低脳は余計だぞ油に火だぞお前何てことを!!…あれ?火に油だっけ。てか今更どっちでもいいか。うわぁ。由斗こりゃマジ切れモードだな。)
「てめぇ後輩なら何言っても許されると思ってんじゃぁねえぞ!!黙ってろよ少しは!!」
(うーわぁ。やべぇ何とか仲裁した方いいな。)
「えーと、とりあえず練習しようよ。こんなとこで言い合ってても意味ねぇだろ?」
「ほらぁ、田沢湖さんもそう言ってんだし、早く練習しましょうよぉ。」
紀友はあくまでいつもの調子でしゃべるが、なんとなく怯えているように見える。
「後輩に対してそんなにぶち切れるのもダサいとか思わねぇのあんたらは?」
「んぁぁ、そうだな言われてみれば。」
「でも名前覚えないのはホントにひどくないですか?」
なおも見夜が食い下がってくる。
「まぁそれはそうだけど、少なくとも僕はちゃんと全員の名前言えるから。島護には夏休みの宿題で漢字練習という名目で毎日ノートに部員全員の名前を書いてもらうし、それでいいでしょ?」
「ちょっと待てそんな不気味な漢字練習は聞いてねぇぞ!?」
「とりあえず名前覚えられないことの解決策は出たし、今はこれで解決ってことでいいか?」
島護の反論は皆スルーして、田沢湖の仲裁によって何とか練習は再開された。
その日の練習の休憩時間のこと。僕は、なぜか1年女子に包囲されていた。
「ほんっと最低。島護さんなんかキャプテンとっととやめてもらいたいです。」
夢々子が、ボーッとしていた僕に話しかけてきた。
「私もあれにはイラつきましたね。いっつもあんな調子なんですか?」
「うーーん、まぁ、そうだね。人によって態度変える人間じゃないし。けど…」
「けど?」
「総合キャプテンになってから、自分の権力に酔ってるっつうか…。」
「やっぱそうなんですね。なんか最近めっちゃうざいし。」
みいさもそう思ってたのか…。まぁ、前々から少しウザイ人間ではあったが。
「ねぇねぇこれって何も事情知らない人が見たら田沢湖さんがハーレムみたいだよねぇ?」
紀友…。場違いにも程があるだろ…。




