わかれのばしょ
島護も敗れ、夏浜中の夢は叶えられずに終わった。上に戻ると、女子が泣いていた。さえりはもちろん、1年も泣いていた。あの時の会話が、鮮明に脳裏をよぎる。(一緒に、連れてって…、か。ごめん、約束守れなくて。)
その時は、何も話せなかった。話したいことは沢山あったけど、言葉にならずに胃袋の奥まで転がり落ちていった。
翌日の個人戦も、いちばん勝ち進んだ人でも3回戦敗退という結果だった。また、皆で泣いた。
次の日。漢、墓谷、さえりがいなくなるまであと1日…。色々と考えることが多すぎて、面倒くさくなってきたので僕は部屋に籠った。CDプレーヤーでB'zのベストアルバムを再生しながら、ベッドに寝転がる。こうやって寝ていても、きっと何も分かることは無いんだよな…。そうだ、歌うか。『愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない』を1人で熱唱する。歌い切る。でも、心のモヤモヤは吹っ飛ばない。DISC2を入れてから、また寝転がる。何も考えずに天井だけを見つめていた。『LOVE PHANTOM』の前奏が部屋の中に鳴り響く。サビまできたあたりで、僕はゆっくり瞼を下ろした…。
気付くと、また『LOVE PHANTOM』の前奏が流れていた。あぁ、もしかして僕寝てたのか。今何時だ…。そうねだいたいね…3時半か。
少し寝ていた間に、僕は夢を見たらしい。さえりが、水分で出来た道の上をチャリをこいでいる。向かっていた先は、遅火沢川沿いのあの草原。さえりがチャリを停めたところで、夢は途切れた。
僕の寝起きの体が、勝手にふらりと動き出した。そして、チャリ小屋へ…。チャリをこいで、橋を渡り、あの場所へ。さえりは、きっとそこにいると思ったから。
うち、本当にここから離れることができるのかな…。こんなに居心地のいい部から抜けてしまうのが、嫌だ。でも、明日の昼間にはもうここを発たなければならない。あ、そういえば、誰にも「さよなら」って言ってないな…。大会の時は、泣いちゃって何も言えなかった。さよなら以外にも、色々言いたいことあったのに。特に、田沢湖に。ふふふ、今食べてるレモンの蜂蜜漬け、何だか今のうちの気持ちみたい。少し酸っぱくて、少し甘くて。
んぁ、もしかして寝てたかな?気付いたら、ソファーに横になってたし。にしても、まさか夢に田沢湖出てくるなんて。ほんと、うちは考えすぎだね。しかも、2人であの場所に居たし。あ、そうだ。あの場所に行ってみるか。少しは気も紛れるだろうし。ん、書き置きがある。「引っ越し準備をするので、9時位まで家にいられないです。ご飯は、冷蔵庫の中に入ってます。もし出かけるなら、早く帰って来るように!!母」
家を出て、川沿いの土手を自転車で走る。絶対、あの場所に田沢湖がいる。そんな予感、いや確信がある。なんか、胸がドキドキする。知らないうちに、涙目になってる気がするし。あぁ、両方の川岸にずっと続いてる土手に、橋が架かってるのが見えてきた。草原まで、見えてきた…。




