月の見えるあの場所に
「あぁ、田沢湖じゃん。」
「あれ、ほんとに来た。」
「え?」
「いや、その…昼寝してたら、夢にお前が出てきて、ここで会うとかって…」
「え、うちも同じような夢見たよ!ここで田沢湖と会うっていう夢。」
会いたいって気持ちは、通じるんだ。奇跡かな。
2人揃って、川岸まで降りていく。いつもより、川のせせらぎが清らかに聞こえた。
「明日だね。」
何気無く、言ってみる。
「今までありがとう。総体でも、田沢湖の一言に色々助けられた。その前から、田沢湖が支えてくれたから総合キャプテンできたんだと思う。ほんと、ほんと、………。」
「言わなくてもわかるよ。無理して言うな。」
泣き止むと、しばらくの間どうでもいいような会話をしていた。女子の後輩達の笑える話、家族の話、友達の話、恋話…。楽しい会話は、時間を忘れさせる。気付くと、山の上に月が出かかっていた。
「今日も、満月だな。」
「あの時と同じだね。今日も、あの時みたいに、一夜一緒に…過ごす?」
「あはは、今日は親がどっちも11時位には帰ってくるから、無理だ。」
「そっか…。」
なら、早く伝えたいことを言葉にしないと!!
「今まで、色んな人が転校してったけど、皆はどんな気持ちで行ったのかな…。」
「行きたくない。親友と離れたくない。部活をやめたくない。そんな感じだろ。ただ、お前は1つだけ、皆と違う感情を持って行ってしまう所だった。そうじゃない?」
「え…?」
もしかして…うちの気持ち、わかってたの…?なら、話は早いじゃん。
「んとね、ほんと田沢湖は優しいんだよ。うちのこと、誰よりもわかってくれてた気がする。だから、好き。あっちに行っても、忘れない。この気持ちも、薄れない。好きだったよ、今も、好きだよ。」
僕から、こういう告白が起きるようなシチュエーションにしといて、こういう時にどう対応すればいいのかよくわからん…。
「僕も、お前が好きだ。いつまでも忘れない。いつか戻ってきたら、今の倍以上好きになってる。」
うち、なんか泣きそう…。
「うん、ありがとう。絶対、絶対ここに戻ってくるよ。」
2人は肩を寄せ合い、それから向き合い、目と目を合わせて、ゆっくりと抱き合った。
暖かみのある体から、僕は離れた。月明かりが、身体中に染み込んでいく錯覚を覚えた。橋の上から、満月が僕達を見下ろしている。僕達は、なんとなく立ち上がる。そろそろ、ほんとにさよならだ。
「ほんとに、明日行くんだよね。」
「うん…。ほんとに、さよならだよ。」
僕の頭の中に、ふと『今夜月の見える丘に』のサビの一節が浮かぶ。
「これから離れ離れなるんだし、もう少し一緒にいたかったね。」
「明日は朝少し早いから、もう帰るよ。」
「なら、家までついてくよ。暗いから、1人だと不安だろ?」
「うん。ありがと。」
そして、僕達は歩き出した。土手の上をチャリを押しながら歩く。満月に向かって。思い出がよみがえってきたようで、さえりは少し涙ぐんでいた。
「泣くなって。もう、さえりの泣き顔は見飽きたよ。さよならくらい、笑顔見せてくれ。」
さえりの家の近くまで来てから、そう言った。
「泣かせてくるのはそっちでしょ…もう。」
そう言って、笑った。夜の黒の中に、光がさしこんだ。そこだけ、朝陽が出ているようだ。
「絶対、好きでいるからね。」
「うん、僕もずっと好きだよ。戻ってきたら、今よりもっと好きになってるよ。じゃあね、またいつか。」
「うん…!」
次の日、田沢湖はまた1日中部屋に籠った。流れても流れても尽きることのない涙を流しながら。それと、再会する日の喜びを想像しながら…。




