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コンコン、と控えめにドアをノックしてからそろりと遠慮気味に引き戸を開く。
「失礼しまーす、一年二組の西森依乃里でーす……」
念のため怯えたような口調で緊張に肩を竦める演技をしながら、視線だけで室内を見渡す。
至って簡素な室内は、縁が欠けて傷の付いた長机と年季の入ったパイプ椅子が雑多に並べられていた。絵に描いたみたいな生徒指導室だった。
まあ私が生徒指導室に呼び出されたのは初めてだったので、これが生徒指導室のいわゆるメジャーな姿かどうかは知らないけれど。
「おー、時間ぴったりだな。感心感心。じゃあ座ってくれ」
「めーこちゃん一人だけなの?」
「きちんと先生と呼べ」
「めーこせんせー」
「誰に入れ知恵されたんだ? ……まあどうせ和久井あたりだろう」
へらっと笑って見せた私を、わずかに眉根を寄せて大きなため息と共に睨んでくる。
長机の対面に座って脚を組んでいる私のクラスの担任、江本芽衣子先生だ。
知的な眼鏡でお堅い印象なのに生徒からの人気は高く信頼も勝ち取っている先生らしい。年齢は三十前後くらいだろうか、聞くと睨まれるから気を付けろと聞いていたので黙っておく。
そんな知的な見た目通りに聡い先生が呆れ気味にぼそっと口にした通り、めーこせんせーのあだ名を教えてくれたのはクラスメイトの和久井茉椰だった。
「ほんと物知りでお節介な茉椰のおかげで転入したばっかなのにすっかりクラスに馴染めちゃいましたよー」
向かいに位置するパイプ椅子を引いて腰掛けながら私はなんとか本題から逃れようと画策してみる。しかし、
「呼び出された理由は、わかってるよな?」
そんな私の浅知恵をまるっきり見抜いてあっさりと本題に突入してしまう。
「えー……、私が美少女転入生すぎて校内の話題が持ちきりになっちゃった、とか?」
「引っ叩くぞ」
「うわー、暴力教師こわー」
「真面目に答えろ」
「……えーっと、……たぶんだけど、もしかして、この髪のせい?」
「もしかしなくてもそのとおりだ。他にないだろ」
ほんの少しだけ考える素振りでこめかみを拳で可愛らしくぐりぐりして見せはしたものの、他に呼び出される理由なんて見当たらない。
めーこせんせーは大仰にため息を吐いてからゆっくりと足を組み替え、長い髪を耳にかけてまっすぐに私を見据えてくる。
「転入時にはむしろ優等生らしい黒髪だった生徒の頭が、週明けにいきなりピンクになってたんだ。呼び出さないわけにいかないだろう?」
「ピンクって言ってもインナーカラーだもん」
ビシッと鼻先に指差され、わずかに仰け反りながら私は両手でふわりと肩にかかるボブを持ち上げてみせる。
インナーカラーは髪の内側だけをカラーリングしているので普通にしていればそれほど目立たない。けれど私のピンクはなかなかに主張が強くてちょっぴり髪をなびかせただけでも顔を覗かせてしまう。
「どう染まっているかはどうでもいいんだ。色だ、色」
「ピンクかわいいでしょー?」
「校則で髪染めが禁止なのは知っているよな?」
「……私、転入してきてすぐだからうっかりしてました。あははー」
必死に誤魔化すつもりで頭を掻くと、やはりたったそれだけのことで髪の内側から零れるピンクが視界の端で揺れる。
「うっかりで頭をピンクにしてくる生徒を教師生活で初めて目にしたぞ……」
理解の追い付かない悩みの種から気を逸らそうとしているのか、めーこせんせーはゆるゆると頭を振ってがっくりと肩を落とした。
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