第三話
「大丈夫?無事でよかった。」
来なかった衝撃に戸惑っていると、女の人の声が聞こえてきた。
恐る恐る目を開けると、青い目、青い髪の女の人と、そのうしろで、黒い塵になってさらさらと消えていく、“何か”の姿が見えた。
その女の人は、幼さは消えていたけれども、夢の中の「お姉ちゃん」に似ていた。
―――懐かしい。
そう、感じた。
初めてあった人なのに、懐かしさを感じている。
「…助けてくれたんですか?ありがとうございます。」
最初に反応したのは、由美ちゃん。すぐにお礼を言っている。
けど、私は、夢の中の「お姉ちゃん」そっくりな人から目が離せないでいた。
「…あれは、魔物なのよ。向こうの世界から迷い込んでしまった。
ごめんなさいね。怖かったでしょう。」
「お姉ちゃん」だ。懐かしい。久しぶり。
頭をなでてくれる「お姉ちゃん」の姿が思い浮かんできた。
そして、なにか、思い出しそうになって…
体中を、痛みが襲った。
「家まで送り届けてあげるわ。…って、あなた、大丈夫?」
「大丈夫…です…。」
一瞬倒れこみそうになったものの、倒れる前に、「お姉ちゃん」が助けてくれた。
まだ、痛みが残っている。特に、頭が痛い。
あと、あとちょっとで何かを思い出しそうだった。
「大丈夫じゃなさそうね。私が背負ってあげる。」
「…ありがとうごさいます。」
「…あなたの家を教えてくれるかしら?さすがに家の場所が分からないとなると、送り届けることができないもの。」
私を背負いながら、「お姉ちゃん」は、由美ちゃんに家の場所を聞いていた。
「あら、そこなら知っているわ。知り合いが近くに住んでいるの。ところで、お名前を教えてくれるかしら?私の名前は、琴音よ。」
「由美って言います!その、背負われている子が、りあちゃん…璃亜奈です。」
「あおう。ありがとう。それでは行きましょう。」
そして、家の近くに着いたときには、もう6時を過ぎていた。体感では一時間くらいしか経っていないはずなのに。
私たちは、由美ちゃんの家の方が近かったので、まず先に由美ちゃんの家へ向かった。
「ただいまー、ママ!」
由美ちゃんは元気よく玄関の扉を開けて中に入った。すると、お母さんが心配していたのか、すぐに玄関まで出てきて、由美ちゃんをぎゅっと抱きしめた。
「どうしたの?こんなに遅く帰ってきて……心配したのよ」
と、由美ちゃんに声をかけた。すると理沙ちゃんは、
「あのね、異世界から迷い込んできた魔物に襲われちゃったんだけど、このお姉さんが助けてくれたの!」
と、まるで何でもなかったかのように、無邪気に笑いながら、説明していた。
由美ちゃんのお母さんは、急に訳の分からないことを言われて、固まっていた。
(確かに、そんなこといわれたら固まるか)
「すみません、佐藤琴音と申します。私は、向こうの世界から来ていて、魔法が使えるんです。あの、魔物がこちらの世界に迷い込んできていて、それを退治するために。
運悪く、由美さんと璃亜奈さんが襲われてしまったので、助けました。」
「お姉ちゃん」は、手から火の玉を出して見せ、るみちゃんのお母さんに説明していた。
由美ちゃんのお母さんはまだ固まっていたが、琴音さんが続けた。
「すみません、この子も送り届けないといけなくて……。連絡先をお伝えしますので、あとでメッセージをいただけますか?」
その言葉で、由美ちゃんのお母さんは我に返り、
「あら、すみません。ちょっと信じられなくて。ごめんなさい。」
と謝った。
いや、まあ、そうなるわな。適応力化け物な由美ちゃんがおかし…ううん、すごいだけだ。
「大丈夫です。こちらこそ、すみません。」
と琴音さんも頭を下げた。
その横で、由美ちゃんはというと…
「バイバイ、りあちゃん!」
大人の話なんて知ったこっちゃない、という風に手を振っていた。
…そういえば、由美ちゃんって、マイペースだったな。
「バイバイ、由美ちゃん!」
私も挨拶をして、「お姉ちゃん」に背負われたまま、私の家に向かった。
◈◈◈◈◈◈◈
「ピンポーン」
インターホンが鳴り、私は鍵を回してドアを開けた。
「ただいまー!」
元気よく玄関に入ると、すぐにお母さんが駆け寄ってきた。
「大丈夫だった? けがはない?」
心配そうに私の顔を覗き込む。ここまでは、由美ちゃんのときとほとんど同じ流れだ。
「うん、大丈夫。お姉ちゃ...琴音さんが送ってくれたの。魔物に襲われちゃったけど、琴音さんが助けてくれたんだ。」
私は何事もなかったかのように明るく言った。ここまでも、由美ちゃんとほぼ同じ。
「よかった……。でも璃亜奈は、巻き込まれないはずじゃなかったの? 巻き込まれないためだったんじゃないの?」
お母さんは、ほっとしたような表情をした後、「お姉ちゃん」に、少し強めに聞いた。
え……? どういうこと?
さっきまでは由美ちゃんと同じ流れだったのに。
知り合いなのかな?なんか、ちょっとだけ違う気がする。
「あの……どういう意味……?」
問いかけようとしたそのとき——
「まあまあ、いろいろあって……。状況が変わってしまったんですよ。期限が早まってしまったんです。」
琴音さんが私の言葉を遮った。
期限が早まった? お母さん、何か、約束をしたのかな?
私はお母さんを見つめる。するとお母さんは、私の視線に気づいたのか、一瞬だけ暗い目で私を見返し、そのあと慌てて取り繕うように微笑んだ。




