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第41話 シュゼットは、前に進む

 地下牢からの帰り道。


 ベルクール公爵家の馬車に揺られながら、わたしはアニエスとのやりとりを脳内で反芻していた。


 アニエスに会えば過去の真実がわかるかもしれないと思っていたけど、徒労に終わってしまった。


 彼女の言い分はほとんど理解できなかったけれど、身勝手な理由だということだけはわかった。


 そんなアニエスに振り回されて時を遡る前のわたしは道を踏み外したのだと思うと、気持ちのやり場がなかった。


「……アニエスはこの後どうなるのでしょうか?」


 わたしはふと気になったことを隣に座るレナルド様に聞いてみた。


「侯爵令嬢である君を傷つけ、王太子の婚約者に内定しているバリエ嬢を誘拐したんだ。取り調べが終われば極刑は免れないだろうな。いずれにしても我々の前に現れることは2度とないだろう」


 それを聞いて安堵した。


 時を遡る前の過去を知り、わたしやリリアーヌを手段を選ばず排除しようとするアニエスは、彼女の動機が身勝手かつ意味がわからないだけに恐ろしかった。けれど、アニエスはもう2度とわたし達の前に現れることはないという。


 時を遡る前にも裏で糸を引いていたアニエスが今後関わらないのならば、未来を変えられたと思って良いのではないかしら。


 時を遡ったと知った時、わたしは2つのことを決意した。

 1つは地下牢で果てる未来を変えること。そして、もう1つはレナルド様に贖罪すること。


 このうち前者は達成できた。残りは1つ。レナルド様への贖罪だ。


 当初、わたしは円満に婚約を解消してリリアーヌとの仲を取り持つことがレナルド様への贖罪になるのではないかと考えていた。


 けれども、レナルド様はリリアーヌとの婚約を望んでいらっしゃらないことがわかった。そして、レナルド様が時を遡る前の記憶を有していると知った時に、わたしは贖罪方法を直接レナルド様に伺った方が良いのではないかと思ったのだ。


「レナルド様、わたしは時を遡ったと知った時に、未来を変えることの他に、もう1つ決意したことがございますの」


 窓の外を眺めていたレナルド様が真剣な眼差しでこちらを向く。


「わたしはあなたに贖罪がしたいのですわ。過去の罪を贖わなければ、申し訳なくてわたしはとても前に進めません。全ての事情が明らかになった今、改めてお伺いいたします。わたしになにか望むことはございませんか?」


 レナルド様はなにを望まれるのかしら?

 たとえどんな無茶をおっしゃられても、必ず叶えてみせる。


 わたしはどきどきしながらレナルド様の回答を待った。


 レナルド様は少しの間考えて、ゆっくりと口を開いた。


「……君が贖罪する必要などないが、もしそれでも気になると言うのならば、私にもう1度機会を与えてほしい。今度こそ必ず君の良き婚約者になると誓うから、ずっと君の側にいさせてほしい。私が望むのはそれだけだ」


 レナルド様はそう言って、どこか淋しげに目を伏せた。


 それを見てわたしはぎゅっと胸が痛んだ。


 レナルド様は以前、ご自身がわたしを愛してくださるように、わたしからも愛されたいとおっしゃっていた。けれど、今回はそれをおっしゃらなかった。


 まるでわたしから愛されることを諦めたかのように。


 わたしは思い切って胸の内を打ち明けた。


「レナルド様は既に素晴らしい婚約者でいらっしゃいますわ。ですから、わたしはお慕いしておりますの」


 わたしの言葉を聞いたレナルド様の驚きに満ちた双眸がわたしを捕えた。


 どきどきと早鐘を打つ胸の鼓動を誤魔化すように、わたしはさらに言葉を重ねる。


「レナルド様がお望みでしたら、わたしは喜んでずっとお側におりますわ。一生だって」


 言ってからまるでプロポーズのような言葉になってしまったことに気がついて、顔に熱が集まる。


 レナルド様は膝に置いていたわたしの手を取ると、まるで祈りを捧げるかのようにご自身の額に当て、それからそっと手の甲に口付けた。


「シュゼット、ありがとう」


 レナルド様の声は微かに震えていた。


 時を遡る前も含めて3年半婚約していたけれど、今、初めて本当の婚約者になれた気がした。

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