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第39話 レナルドは、過去を語る 3

レナルド視点です。

 それからの私は、ただ死んでいないだけの日々を惰性で過ごしていた。


 そんなある日、卒業間近のバリエ嬢が学園の帰りに行方不明になる事件が起こった。


 シャルルが近衛まで動員して必死に捜索した結果、深夜に王都の外れの廃屋から遺体で発見されたという。


 王太子の婚約者であるバリエ嬢には常時女性騎士の護衛がついていたはずだった。

 しかし、運の悪いことにバリエ嬢の目の前で引ったくり事件が起きた。

 バリエ嬢は怪我をした被害者の手当てにその場に残り、自身の護衛に犯人を追うように依頼した。当初護衛騎士はバリエ嬢の側を離れることを渋ったが、場所が人通りの多い大通りだったこともあり、最終的にはバリエ嬢の要求通りに引ったくり犯を追った。

 そして、戻って来た時には大通りは誘拐騒ぎになっていた。

 死亡推定時刻から、バリエ嬢は拐われてすぐ殺害されたようで、引ったくりも含めて殺害目的の計画的な犯行だった。

 しかし大通りという場所柄目撃者が多く、実行犯とその依頼者はあっさり割り出された。


 依頼者はアニエス・オベール子爵令嬢だった。




 バリエ嬢の葬儀は東教会にてひっそりと行われた。


 シャルルは彼らしくもなく、棺に取り縋って慟哭した。

 物心つく頃から一緒にいて、初めて見たシャルルの涙だった。


 異変が起きたのは葬儀が終わり、棺を墓地へ運ぼうとした時だった。


 突如、教会の鐘ががらんがらんとけたたましく鳴り響いた。


 一体なにごとだと参列者が騒然となった時、視界が急に暗闇に塗りつぶされた。


 参列者も、周りの風景もなにも見えない。


 そして、まるでランプの火を消すようにぷつりと唐突に意識が途切れた。



 ♢♢♢



 次に目を覚ますと、私は自室のベッドの中にいた。


 窓から差し込む光で朝だとわかる。


 先刻までバリエ嬢の葬儀に参列していたはずなのに、一体なにが起こった?


 自分の身に起きたことが理解できず呆然としていると、いつもの起床時間になったらしく、使用人達により朝の身支度が進められて行く。


 身支度を終えると、執事が父からの伝言を伝えて来た。話があるので書斎へ来るようにとのことだった。


 状況が全く理解できないが、ひとまず父の話を聞こうと書斎へ向かった。


 書斎の応接用のソファーに父と向かい合って座る。

 中央の机には釣書が10冊ほど積まれていた。


「レナルド、お前も昨日で16歳になった。そこでそろそろ婚約について考える必要がある。なにか希望はあるか? 私の方で何人か見繕ったが、気に入る令嬢がいなければ学園に入ってから自分で探しても良い」


 父の「16歳になった」「学園に入ってから」という言葉に違和感を覚えた。

 私は今年19歳だ。学園もとうに卒業している。


 それに父はシュゼットを亡くしたばかりのため、気持ちの整理がつくまでは無理に婚約しなくても良いと言っていたはずだ。それなのに、なぜ急に婚約の話を持ち出したのか。


 父に目線で促されて、私は渋々机の上の釣書に手を伸ばした。


 そして中身を見て驚愕のあまり固まった。


 それはシュゼットの釣書だった。


 一瞬たちの悪い冗談かと思ったが、父はそんな無駄なことをする人ではない。


 釣書を開いたまま固まる私に、父は話を続けた。


「そちらはコルネイユ侯爵家の令嬢だ。レナルドより1つ年下で、候補の中では1番身分が高い」

「……彼女と、婚約ができるのですか?」


 亡くなったはずのシュゼットのことを、父はまるで生きているかのように語る。

 それにつられて思わず願望が口をついて出た。

 彼女ともう1度婚約ができるのならば、私は持てる全てを喜んで差し出すだろう。けれどもそれは叶わない。なぜなら彼女は亡くなったからだ。


「気に入ったのか。では打診してみよう。なに、心配しなくともきっと色良い返事がもらえるさ」


 複雑な表情を浮かべる私に父は気楽に言う。


 これと似たやり取りをかつてしたことがある。


 そのことに遅まきながら、ようやく気がついた。


 16歳の誕生日の翌日、父から婚約の話があり、シュゼットとの婚約を希望した際に父は今と同じことを言ったのだ。


 私はある可能性に思い至った。


 にわかには信じがたいが、16歳の誕生日の翌日まで時が遡ったのではないか。


 理由や原因はわからないが、現状はそうとしか考えられない。


 それならば、またシュゼットに会える。


 逸る気持ちを持て余しながら、私は返事を待った。


 そしてその日の夜にはコルネイユ侯爵から受諾の返事があった。快諾だったという。


 私の予想は確信に変わった。


 やはり、時が遡っている!




 初顔合わせは当初、時を遡る前と同じく初夏になる予定だったが、私は可能な限り早く会いたいと希望した。


 そして逸る気持ちを抑えて臨んだ初顔合わせ。


 コルネイユ侯爵邸でシュゼットの姿を見た時は感極まった。


 シュゼットが生きている……!


 私はこの奇跡を神に感謝した。


 愚かな私の失敗にやり直しの機会が与えられたのだ。


 今度こそ絶対に間違えない。


 彼女に信頼してもらえるような良き婚約者に必ずなってみせる。

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