第32話 シュゼットは、学園祭を楽しむ 2
わたしとレナルド様は3曲連続で一緒に踊ったあと、軽食コーナーで休むことにした。
時を遡る前は入場時のエスコートだけで、会場に入ったら別行動だった。当然ダンスも踊っていない。けれど、今のレナルド様は踊り終わったあとも当たり前のようにわたしの側にいてくださる。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
レナルド様が手渡してくださったグラスは、よく冷えたオレンジジュースだった。
ダンスで体がほてっていたので、冷たい飲み物が一際おいしく感じられた。
「あら」
オレンジジュースで喉を潤してひと息ついたわたしは、踊っている人々の中にミレーヌの姿を見つけた。
「どうした?」
「いえ、ミレーヌが……。お相手はどなたかしら?」
ミレーヌはダークブロンドの青年と楽しそうに踊っていた。
レナルド様はわたしの視線の先に目を向けると、納得したように頷いた。
「ああ、あれはコルベール辺境伯家のアルバン殿だな」
「お知り合いですの?」
「同じ生徒会役員だ」
「まあ。コルベール様はどんなお方かしら?」
「気になるのか?」
「ええ、もちろん。だって大切なミレーヌのお相手ですもの」
「そうか。とても真面目な人物だから、問題ないだろう」
「そうなのですね。良かったですわ」
再びミレーヌに視線を向けると、2人は次の曲も一緒に踊り始めた。
これはあとでミレーヌに詳しく話を聞かなければならないわねと思っていると、ふいに声をかけられた。
「やぁ、2人とも。楽しんでいるかい?」
「シャルル」
わたしはリリアーヌを伴ってあらわれた王太子殿下に慌てて頭を下げた。
王太子殿下は鷹揚に頷くと、レナルド様とわたしの衣装を見比べて、からかうように言った。
「2人とも見せつけてくれるね」
王太子殿下の言葉に、今さらながら全身にお互いの色を身に着けていることが気恥ずかしくなった。
「そういうシャルルこそ見せつけているだろう」
「まあね。外野がうるさいからさ。俺が誰を愛しているかわかりやすくアピールしておこうと思ってね」
王太子殿下は「ね?」と言ってリリアーヌに甘い眼差しを向ける。リリアーヌは真っ赤になって俯いた。
「あー、可愛いなぁ」
それを見て王太子殿下はでれでれと笑み崩れた。
2人の姿はどこからどう見ても相思相愛の恋人同士だ。
「まあ、大変だろうが頑張ってくれ」
「ああ、頑張るよ」
わたしはレナルド様と王太子殿下のやり取りを不思議な気持ちで見守っていた。
♢♢♢
帰宅後、着替えて夕食をとったあと、わたしは日課の日記を書いていた。
思い返すのは、レナルド様と王太子殿下のやり取りだ。
今日の様子を見る限りだと、リリアーヌに惚れ込んでいるのは王太子殿下だけで、レナルド様はそれを応援している立場のように見えた。レナルド様が一緒にいるのはリリアーヌが目的というよりかは、王太子殿下と従兄弟兼友人だからというか。
もしかして時を遡る前もそうだったのかしら? いえ、でもレナルド様は命懸けでリリアーヌを庇ったのだから、彼女のことが好きだったのは間違いないはず。うーん……。今となってはもうわからないわね。
けれども今日見た限りでは、今のレナルド様はリリアーヌに特別な関心はないようだった。
このまま今月末の収穫祭までレナルド様がリリアーヌに思いを寄せなければ、わたしのことを愛してくださっているという、彼の気持ちを信じようと決めている。
その場合問題になるのはレナルド様への贖罪だ。
当初わたしが考えていたレナルド様への贖罪は、彼がリリアーヌのことを好きになることを前提にしたものだった。
レナルド様がリリアーヌのことを好きにならないのならば、贖罪方法も変更する必要がある。
なにがレナルド様にとって贖罪になるのかしら?
レナルド様がわたしに望んだことを思い返してみる。
レナルド様はわたしと親密になりたい、わたしから愛されたいとおっしゃっていた。それが贖罪になるのかしら?そんなことで本当に良いのかしら?
収穫祭までまだ時間があるからゆっくり考えましょう。
他に良い考えが思い浮かばなかったわたしは、諦めて早めに休むことにした。




