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ミッションコード・Scorch Snow-white  作者: 稲狭などか
第1作戦 仲間を見つけろ、世界を見よ
12/13

剛の者 3

真似事。だが、彼女は兵器


 市街地は白兵戦の舞台となっていた。

 多くの兵士が銃や刀で敵を次々と斬って、撃って撃破していく。だが、敵は数が多く人間の損害も決して小さくはない。

 そして、敵は死を恐れていない。

 今までもそうだったが、改めてその疑問が自身の中で色濃くなっているのを凛は感じていた。

 走りながら敵の雑兵を斬り伏せながらデウス・インダストリアル本社の前に来た凛は、押し寄せる敵兵を雷で一掃して一時的に落ち着ける環境を作る。その姿に、デウス・インダストリアルの兵達は歓声を上げる。


「隊長! 帰って来てくれたのですね!」

「ニバリスこれで勝てる! 船も、デウスエクスマキナなら一網打尽だ!」


 そう叫ぶ兵達を尻目に、凛は刀を鞘に納めて会社の中へと歩みを進める。

 そんな彼女を兵達は追いかけて来た。


「隊長、指揮を!」

「もう私は隊長じゃない。デウス・インダストリアルにしては反逆者だよ? そんな奴に指揮を乞うなんて」


 凛は駆け寄って来た隊員にあえて口調を素の状態にして、だが、殺気を込めてそう言うとツカツカとエレベーターのボタンを押す。


「ですが、我々にはもう頼れる方はいません! 皆月様は、正気ではありません……さっきもデウスエクスマキナを神無月副隊長で起動すると」


 その言葉を聞いて凛は一気に表情を焦りに染めた。


「神無月副隊長じゃダメなのは証明されたはず! 彼は磁力を操作できるけど、電力はそこまで生み出せない! それに、あの怪我でデウスエクスマキナの中に入ったら死ぬよ!」

「わ、我々も止めたんです! しかし、お前らも裏切り者なら殺してやると……手につけられない状態で、この作戦も何とか副社長のお陰で建てられた様なものでして」


 焦燥している兵の顔を見て、凛は一気に指令を飛ばす。


「総員、船を攻撃する対空兵器を援護! 敵主力は兵でなく、船と認識するようにして。連中は死を恐れていない! 敵の身体や生態には何かカラクリがある。だから、まずは敵の帰る手段を潰す事! ニバリスも何処かで戦っているから巻き込まれないようにね」

「ニバリスへの援護は?」


 その返事に凛はニバリスの様に笑うと、やって来たエレベーターに乗ると一言。


「巻き込まれないようにね」


 扉が閉まると、エレベーターは高速で地下へと降りていく。地下にはデウスエクスマキナの格納庫までの搬入搬出用の通路があるのだ。

 そして、表示には地下30mの表記が示されて扉が開く。4車線程の幅のある通路が光を飲み込む口の様に奥まで続いている。だが、地上から戦闘の音に加えて電力供給のための設備にもダメージを受けているのだろう。通路の明かりは所々消えかかっており、薄暗い。

 走り出そうとする凛の前に1台のジープがやって来て、1人の人影が下車する。それは、酷くやつれているが彼女の父親である皆月秀雄の姿であった。

 彼は凛の顔を見ると一瞬だけ驚いた様な顔をするが、直ぐに手に持っていた拳銃を彼女へと向ける。


「凛……何故だ? 来てくれたのか? あぁいや違う。お前も母さんの様に裏切るんだな。デウスエクスマキナを奴らに渡す気だろう!? この売女が! 薄汚い裏切り者め!」

「……数日しか経っていないけど、酷い顔。母上が死んだ事をそんな風に言うなんて」

「黙れぇ! 死ね! お前など、道具としての生を全うすればよかったものの! 多くの男をあてがってやったのに、子を孕みもしない! 改造人間となっても、あんなぽっと出の馬の骨ともわからんアンノウンになびきやがって!」


 秀雄は引き金を引くと、凛を罵声と共に撃った。

 凛は脇差で弾丸を絡めとって身体をくるりと回して秀雄の脚へと弾丸の起動を変える。元々から戦士でもない秀雄には耐えられる痛みではない。

 情けない悲鳴と共に、彼は冷たい通路に崩れ落ちる。


「ひぇあああああ!? 凛! なんてことをするんだ!」

「もう、喋らないでくれる? アンタの事はこれから先、恨む以外の感情を向けられそうにない」

「私は父親だぞ! こんな、事を! この化け物が」


 凛は脇差を納刀すると、秀雄の襟首を掴む。


「化け物にしたのは、アナタでしょ」


 改造人間の彼女の腕力に掛かれば彼はとても軽い。そして、無理矢理立たせると彼の顔面に拳を叩きつける。何かがひしゃげた感覚と、舞い散る血が凛の顔に掛かる。まるで刃の切っ先の様に鋭い表情をした凛は顔面を陥没させて気絶した父親だった馬鹿を通路の端へと放り投げる。

 艶のある黒髪を血が付いている事などお構いなしに書き上げる。さらさらとした髪は直ぐに元の位置に戻るが、彼女のクセの様なモノだろう。


「ニバリスのしてたみたいに、ぶん殴ってみたけど……成程ね。相手がクズ野郎なら、結構スッキリする」


 そう呟くと、薄暗い通路を自動車並の速度で彼女は駆ける。

 殴ったことに後悔も反省もない。凛は自由を満喫している。ニバリスから感じた力を振るう快感というモノを、彼女は少しだけ理解した様な気がした。



 突然だが、一隻の船が爆発四散した。

 乗組員は全滅。

 正確には1人? と、敵1人だけが無事だった。その2つの人影は空中で落ちながら接近戦をしていた。


「うおらぁ!」

 

 ゴギィイイイイン! 

 重くて硬質な音が、ニバリスの右拳とアクターの左腕の盾から響き渡る。負けじとアクターも右手の剣で斬りかかるが、それは彼女の左腕の装甲で防がれる。更には、蹴りや頭突きに至るまでの猛攻をニバリスは繰り出す。

 次々と硬質な音を響かせながら落ちていた2人は、地上直前で離れてお互いに着地する。


「無手でその攻撃力。改造人間、面白い……お前の様なモノがあと4人もいるのか! 楽しみだ!」

「おいおい、俺が最強に決まってんだろ? 凛には悪いが……あー、電磁バリア張れないんだった。てか、接近戦のスピードじゃ勝てないか? クソ! とにかく、俺が最強になる予定だ!」

「ならば、ここで倒す事こそが鉄則!」

「その通りだぜ!」


 突進するアクターの行動パターンをニバリスは演算する。

 

(ん? 盾を攻撃に、剣を防御に使う気だな? どういう事だ?)


 ニバリスは怪しげな予測を抱えながらも、アクターが付きだしてきた盾の一撃を躱す。すると、剣の腹で防御をして来る。

 だが、彼女にとっては分かっていた事だ。剣をすり抜けて拳のラッシュをアクターのボディに撃ち込んだ。鈍い金属音と、アクターの目が苦しそうに点滅する。


「うおおお!? なんと、読まれたのか!?」


 驚愕の声を出すアクターはニバリスの首を剣を離した右手で掴むと、そのまま彼女を振り回してアスファルトへと叩きつける。バカッとアスファルトは割れるが、ニバリスはフード被った状態で笑うと掌をアクターの顔面へ向けるとジェットをぶち込む。

 それによってアクターとニバリスが吹き飛ぶ。

 距離を持って2人は話し始める。


「ほー、それが能力の1つか? 予知の様な力か? 我らの種族にも行動パターンを演算して似た動きをする者がいるが」

「おー、やっぱり出来るんだな? その通り、俺は相手の動きのパターンを演算して算出する。そして、生物としての聴覚と視覚も強化されている。それがこの力を柔軟なモノにする。いわゆる、勘も働くのさ」


 アクターは顎に手を当てる。どうやら、考えているのだろう。仕草や動きは人間にそっくりだ。敵兵も、アクターも人間の動きで戦っている。

 動物型の攻撃兵器があってもいいのになと考えていたニバリスは、口元を緩める。


「なんだ?」


 アクターはその変化を見逃さない。


「いや、この星では人間以外の生き物を基本的には動物って呼ぶんだけどな? それに乗るって事もするんだよ。馬って生き物を知っているか?」

「うま……ふぅむ、わからんな。我らは我らのみ、種族の違いは別の惑星の存在だけだ」

「あー、もう戦争やめね? 戦いたいけどよ、それは個人的にやりゃーいいだろ」

「そうもいかない。この星が我らには必要なのだ」

「必要、ねぇ……一筋縄ではいかねぇぞ?」

「聞かんのか? 我らの目的を」

「もう少し、仲良くなったらな」

「死ぬかも知れないのにか? 私は敵だぞ」

「ははははは! バカ言うなよ。俺を攫うのが任務だろ? なら、殺しはしないだろ」


 ニバリスはアクターにそう言う。


「呑気だな、貴女は」

「俺もアンタを殺すつもりはねーよ。ただ、足腰立たなくなるまで、ぶん殴るけどよぉ!」


 ジェットでアクターの距離をゼロにするニバリスは狂暴な笑みを浮かべて、下からアクターの顎にめがけて拳を突き出す。だが、その拳は空を切る。


「貴女の気骨は心地よい。が、無手では私は討ち取れない!」


 ニバリスはナノマシン装甲を身体に集中する。その瞬間に盾が彼女の胴体に勢いよく叩きつけられた。まるで大型車に弾き飛ばされた様な衝撃に派手に吹き飛んだ彼女はビルの窓をぶち抜く。

 多くの棚をぶちまけながら床を滑って壁にめり込んでやっとニバリスの身体は停止する。


「読んでいても、アイツ……隙がねぇ。ネラジュウム・ブラスター以外で隙を作るはキツイ。でも、おかしいんだよな。身体の中から、モーター音が聞こえる。人間では聴き取れない程に小さいが……動くためのモノじゃない。雑魚には聞こえる個体はいなかった」


 ニバリスはナノマシン装甲を身体に再分配する。

 ブツブツと話しながら起き上がると、どうやら突っ込んだのはコンビニの様だった。ビルの中に展開している店舗なのだろう。店員はいない。この襲撃で民間人は避難しているから当然だが、商品はそのまま置いてある。


「……非常事態だから合法だろ。おーっと! 敵の奇襲攻撃だ!」


 独りで叫んだニバリスは監視カメラをジェットで破壊すると、飲み物が並んでいる棚からエナジードリンクを取ると飲み始めた。


「クソ、殴り合いだけなのにナノマシンに結構負荷がかかるな。あっ、このエナジードリンク美味しい。覚えて置こう。さて……おっ、そう構えてる? なら、ぶち込めるぜ!」


 にへら、と笑ったニバリスは再び店を飛び出してアクターの元に戻る。

 店の前でアクターは盾を構えて待ち構えていた。どうやらニバリスが奇襲を仕掛けてくると思ったのだろう。だが、ニバリスはジェットの加速のままに彼の盾に向かってドロップキックを撃ち込む。砲撃の様な衝撃だが、アクターは何とか耐え切る。

 ニバリスは盾に足を乗せたまま両手をアクターへ向けるとジェットを連射する。


「回復分全部ぶち込んでやる!」


 少しだけズレた盾から本体へと碧い光が次々と突き刺さる。

 だが、ニバリスはその光の中から飛び出した剣の切っ先を肩に突き立てられる。装甲を貫く事は無かったが、引きはがされてしまった。


「回復か……貴女は回復した分だけ攻撃したようだが」


 碧い火を払ってアクターは紫電をボディから散らせて言い放つ。


「私は貴女の攻撃分、回復したぞ」


 ノーダメージ。

 そして、身体にまとっている電気は次々とアクターに吸収されて行く。


「電気でも食ってんのか? だが、その電気は何処から? おやつでも持って来てたのか?」


 ニバリスはジェットで体制を整えながら着地する。アクターは不敵に笑っているが、確実に今の現象は攻撃を切っ掛けに起きている。

 そして、アクターの周りには半透明のドーム状の力場が見えていた。


「……バリアか。しかも、タダのバリアじゃない」


 ニバリスは苦い顔をする。

 元から隙の無い剣術と盾。そして、身体を守るバリア。


「これを使わなかったら、私は今の攻撃で大ダメージを受けていた。無手でここまでやったことに敬意を表する」


 アクターはそう言うと盾を仕舞うと、剣を構えて斬りかかって来る。

 バリアがあるが、ニバリスはその斬撃に拳で立ち向かう。


「なんと! 向かってくるか!」

「それが俺の性格なんだ!」


 変則的な斬撃。ロボットの様な姿なのに、生身の殺気と気迫で繰り出される達人の攻撃。

 本能へと迫り来るような、心臓を浮き上がらせる恐怖へとニバリスは笑顔で拳を構える。だが、その構えは今までの様な獰猛な獣の様な本能をぶつける様なものではない。

 膝を少し曲げて左足を前へ、重心の8割を右足へ落とし、左拳の平を空へ向けてまるでアクターへの照準器の様に突き出した構えだ。それを見たアクターは一瞬だけ目の光量を落とす。

 あからさまに戦い方を変えて来たのだ。

 それでもアクターは斬撃を繰り出す。

 その剣が勢いに乗る前に早くニバリスが前へ出る。わずかに左腕を剣へとぶつけると、火花と甲高い音を出しながら気道が逸らされる。

 次の瞬間にはアクターの顔面へはニバリスの掌底が瞬間移動したかのような速度で襲い掛かって来た。


「うおおお!?」


 叫ぶアクターだが、彼女の攻撃は空中で停止すると衝撃音と共に紫電を散らして電気はアクターへと吸収されて行く。

 そして、ニバリスはバックステップで距離を取る。

 その目つきは狂暴な殴り屋の様な表情から、灼熱の炎と冷たく澄んだ水に鍛えられた刀の切っ先の様なモノに変わっていた。


「拳法、と言う人間の技術か」

「大したもんじゃない。俺のは真似事みたいなものだ。少し、冷静になるか」


 ニバリスはふぅーっと息を深く吐いて、そして、吸い込む。

 構えを取ってアクターを見据える彼女に、アクターは両手で剣を構える。しかし、バリアの破り方を見つけなければ決定打が無い。

 ニバリスは形意拳の構えを取っていた。中国拳法の1つだが、彼女は特別にその武術を納めている訳ではない。それ以外にも様々な武術の技や構えを知っているが、それが誰からもたらされたのか? 師はいるのか? 一つではなく、何故多くの技を知っているのかは覚えていない。

 だが、その武術の構えを取るとニバリスは静の戦闘スタイルへと変わる。


「……ふむ、貴女は接近戦で稀有な才能を持っている。改造人間の肉体が、剣や銃などの前では取るに足らない拳法と言う体術を兵器へと昇華させている」

「どうも、俺もそう思うぜ。しかし、そのバリア。どうやらエネルギーを電気エネルギーへ変化させて身体に取り込む仕組みみたいだな。俺のジェットの熱も衝撃も通さない。打撃も通さない。威力でぶち抜くのは現実的ではないか……なら、どういうのが良いんだろうな?」


 ニバリスは構えながらも思考を巡らせる。

 すると、ある仮説を思いつく。そして、演算を行う。

 結論が出たが、これは賭けであった。憶測がいくつもあり、それが無ければ確実にニバリスは敗北してしまう。だが、確率は低くはない。

 アクターの身体の中から聞こえるモーター音が大きくなっているのだ。

 

(あのモーター音。バリアの為のモノか? そうだと思った。最初はな、だが、攻撃を受ければ受けただけ音が大きくなっていく。負荷がかかっている訳じゃない。大きさが、睨み合っている今の間も変わらない。それに、スーパーアーマーと回復手段が融合した様なものなのに積極的に攻撃してこない? 拳法にビビってる訳はない。何かを狙っている。奴も俺のナノマシン装甲を貫く手段を準備しているからだ。そして、その手段には準備が必要だと仮定すると考えている事は俺と一緒)


 ニバリスは脳内で考えを巡らせる。

 あのバリアは、エネルギーの衝突に反応する代物だ。そう考えたニバリスはジェットを継続してアクターへと照射する。

 すると、ぶつかった瞬間はジェットは吸収されたが直ぐにアクターは盾を再展開して身体を動かして逃れた。これで確定した。バリアで完全に無効化できるのなら、そもそも盾もいらない。


「バリアが邪魔だな。さて、どうしたもんかな? 一か八か、最大火力でぶっ飛ばすのも手か」


 アクターの下から跳ね上がるような斬撃を左腕のプロテクターで迎撃して、右の拳を真っ直ぐに撃ち出す。これは崩拳と呼ばれる拳打だが、それもバリアへと吸い取られてしまう。


「その火力も私には通じない! 貴女の奥の手は既に情報として先発隊からもらっている!」

「やって見なきゃわからないだろ?」


 ニバリスはニヤっと笑うと構えを解いて空へと飛び上がっていく。それにアクターも背中のジェットパックで追いかけていく。空中でぶつかり合いながらニバリスはとある場所へと向かう。

 逆転の方法を実行するためだ。

 そして、それが成功するには彼女自身のアドリブ力が試されるだろう。

地頭が良いのだろう

だが、勉強……一般的な教育カリキュラムの成績は絶望的だ

数学や科学なんてやる気すらない

だが、実技となると話は別だ

体術は直ぐに吸収し、兵器の扱いも直ぐに理解する


戦う時の彼女は博識な科学者の横顔にも似ている

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