Protocol5 超人達
私の心は機械と光線から逃げられない
1
冷たい地下通路の先に不自然なほどに小さい扉がある。
小さいとは言っても人間3人が横並びでも入れるほどの大きさはあるが、地下通路の規模を考えると小さく見えてしまうのだ。そして、その扉が最終地点だった。
扉の前には担架が置かれており、点滴スタンドが無造作に放置されていた。
そして、そこには武装した兵が5人程待ち構えていた。
「凛隊長。裏切り者となったアナタが、今更デウスエクスマキナに何用で?」
言葉を放ったのはショットガンを持った黒づくめのアーマーを纏った男だった。その他の隊員も様々な武器を持っており、戦闘スタイルに合わせた装備をしている。
この集団は、凛と同時期に改造人間としての手術を受けた兵士達だ。
だが、特殊能力は発言せず身体能力も凛や神無月には劣る失敗作達だった。
「神無月には操縦出来ない! 私がデウスエクスマキナで奴らの艦隊と戦う。奴をコックピットに入れるな、あの体だと死ぬぞ!」
「今更未練がましい女ですねぇ! 傲慢で、イライラさせる!」
怒りを隠そうともしない男がショットガンから散弾を彼女に向ってぶちまける。
だが、凛はその行動自体も読めていた。距離を詰めて、散弾が拡散しきる前に躱す。そして、男の胸板に電撃を纏った掌底をブチ当てる。
「ぶっふあぁ!?」
情けない声をあげて男は吹っ飛ぶと、意識を飛ばしてしまう。
他の隊員も武器を構えるが、凛は神速で抜刀すると全員の武器を斬って破壊した。
「バカな!」
怯んだ連中は次の瞬間には凛の電撃で意識を刈り取られる。
「お前達を体術だけで相手するのは時間がかかるんだよ。お前達の嫉妬はわかる……私も、街で暮らす人々が羨ましくて見下す事で自分を保ってた。もう、逃げない……ニバリスに笑われたくないからね」
凛はそう言うと扉の認証システムに顔を近づける。網膜認証だが、扉は開かない。
「当然か……でも、私も引くわけにはいかないからねっ!」
ズドッ‼‼‼ っと彼女は扉の隙間に両手を合わせて抜き手を放つ。その抜き手は扉の一部をひしゃげさせ、彼女はそのまま扉を掴むと力任せにこじ開けようとする。
「ぐっ! んあああああああああ!」
凛は力任せに扉をこじ開けていく。身体の筋肉がグッと隆起してバチバチ! と身体から電気が弾けたと同時に扉は勢いよく開く。
彼女はふーっと息を吐くとその奥にあるコックピットの入り口前の準備室で病衣姿の神無月が倒れているのを発見した。
死んではいないが、動く体力は無いのだろう。
「は、ははは……元、隊長殿か」
「神無月、帰りなよ。死ぬよ」
「死ぬ? ははは、あの手術を受けた日から俺の存在意義は決められていた。アンタの補佐、おまけ、一歩劣る出来損ない。そして、今は繰り上がりの役立たずだ」
「……変に頭を使うから、そうなる」
「へっ、アンタ……ほんっと、あの女が来てから変わったよ。生き生きしてんな……少しずつ、自分の考えで生きようって顔だ」
神無月は近くにある椅子へともたれかかるが、座る事も出来ずに床に倒れる。凛はため息を吐くと彼を抱えて椅子へと座らせた。
この空間は更衣室だ。だが、この部屋に入ったのは凛も今回が2度目だ。
そして、搭乗するのも試乗以来だ。
「私には力がある。その力を搾取されて来たって気が付いたんだ。心も無い兵器が私の存在理由だった。改造人間になる前も、家の跡継ぎを生むだけの存在だったよ。神無月も知ってるでしょ? 優秀な遺伝子? 遺伝子検査で相性のいい相手を宛がわれて、何人もの男と子供を作るように強制されてたって」
「……へっ、俺の遺伝子は相性最低って除外されたな」
「ホントに良かったよ、アンタとなんて死んだ方がマシ」
神無月はあえてその話を逸らした。
流石の彼でもその話は聞くに堪えなかった。目の前の傲慢知己で、自分を顎で使っていた女はまるで別人になっていた。強く生きようと覚悟を決めた女性だ。そう考えると、彼女の過去を途端に憐れんでしまう。
「私も同じだった。でも、私はニバリスに殴られて自由になれた。もう、会社はボロボロだからさ神無月も辞めれば?」
「はぁ? そんな、ふつーに言うか? 改造人間だぞ?」
「関係ないね、そんな事」
凛はそう言うと上着を脱いで、ブーツも脱ぐ。
「関係ない? 全く、自由な事で……俺も、そうだなぁ。アンタのおまけってのは、辞めてやるか」
「早く逃げなよ? 外の連中はほっといても起きるから、後は通路戻るだけ。車使いなよ」
「一人じゃ、きついから馬鹿どもが起きるのを待つさ……はぁ、会社辞めるつもりはねぇが。落ち着いたら、ニバリスも一緒に飯でも?」
凛は意外そうな顔をして神無月を見る。
「意外だね。普通に食事誘えるんだ」
「失礼だな。下心なんかわかなくなっちまったよ」
凛は短く笑うとボディースーツに組み込まれている収縮機能を解除する。緩くなったボディースーツが床に落ちると彼女は裸の後ろ姿だけを神無月に見せながらコックピットの扉を開く。
そこから先は暗い空間になっており、中には水が溜まっている。だが、それは特殊な溶液であり液体呼吸が可能なものだ。
暖かい風が彼女の身体をなぞる。
「俺に裸見せるとか。大丈夫なのか?」
「緊急事態なの忘れたの? 特別に後ろ姿だけ見せてあげる。それに何も出来ないでしょ」
「隊長……飯は奢りますよ」
「貧乏人扱いしないでよ。行ってくる」
神無月は椅子を支えに何とか立ち上がると、敬礼のポーズを取る。それは不格好だが、確かに一人の男が尊敬と礼を尽くした姿であった。
「ご武運を……隊長」
背中越しで神無月に笑った凛は、コックピットへと落ちて行った。
暖かい溶液が彼女を包むと、ゴウン! と低い機械音がこだまする。そして、彼女の身体は中心の光へと吸い寄せられる。彼女は光に身体を突っ込む。その中は多くのモニターが浮かび上がった空間になっており、彼女はその中に浮かんでいる状態だ。
(久しぶりだね。デウスエクスマキナ……力を貸して)
光の中で彼女は体中の電力を四方へと放出する。
グオオオオオオオオオオ‼‼‼
まるで怪物の咆哮の様な轟音と共に機械仕掛けの神が目を覚ました。
*
「貴女! 降伏しろ! 我らが主の元へ大人しく下るのだ!」
「だったら、殴り倒してでも連れて行くんだな!」
空中戦でもアクターの優位性は変わらない。ニバリスはジェットで攻撃を重ねるが、どの角度からでもバリアはアクターの身体を守る。
張り付いて攻撃しようとしても今度は盾と剣が彼女を拒む。
このままではバリアの効果で電力を蓄え続けるアクターに耐久力で負けてしまうだろう。
「クソ! 先読みをメタって来やがって!」
「また不思議な言葉を! 諦めの悪い!」
アクターに組み付いて腕を関節技で破壊しようとするニバリスだが、剣の一閃を胴に受けてしまう。ナノマシン装甲を貫くことは出来ないが、その隙に盾で殴られてしまう。彼女は成す術もなく地上へと叩きつけられる。
空中でフードを被った直後に彼女の身体を様々な衝撃が襲う。
どうやらビルを何棟かぶち抜いて墜落したようだ。
「ってええええ! クソっ、つええなぁ! ったくよぉ‼‼」
彼女が墜落したのは雑貨屋を営んでいる建物のようだ。周りには商品や破壊された棚が散乱している。
ため息を吐いたニバリスは立ち上がる。
「壊してごめんな」
小さくそう言うと、彼女は店の出入り口の扉を上げて外に出る。
彼女は自分の記憶にある街の空からの光景を思い浮かべる。そして、北へと顔を向ける。
「3㎞って言ったとこか? 直ぐに着く」
アクターは追いかけて来ているだろうが、時間が欲しいニバリスはわざと派手に吹き飛ばされた。
牽制としてかなりジェット攻撃を使う関係で、消耗が激しいのだ。彼女は近くの自動販売機に腕を突っ込む。まるで紙くずの様にぶち抜かれた自販機は煙を吐きながら排出口から飲み物をゴトゴトを吐き出す。
ニバリスは突っ込んだ手にコーラを握ってから腕を引き抜く。
「あーそんなに要らないって、悩ませるな。って、え!? 待て、この時代にもおしるこ売ってんの!? お前不死身かよ!」
独りでテンションを上げるニバリスだが、コーラを飲み干すと再び空に飛びあがる。
直ぐそこだ。だが、アクターも彼女の真上に迫っていた。
「貴女は何かを飲むと回復するのだな!? 難儀な身体でよくぞここまでの力を使う!」
なんか褒められるが、確かに向こうからすれば食事なんて面倒な上に非合理的だろう。
「飲むだけじゃねーよ! 本当は休まないとダメなんだが、戦う間に寝たら死ぬだろうが! 腕の一本くらいは持っていくぞ!」
「人間とはやる事が多くて大変だな!」
再び組み付こうとするニバリスに、アクターはそう叫ぶと攻勢に転じた。
ニバリスはナノマシン装甲で受けようとするが、アクターの身体のモーター音が大きくなった。その瞬間、彼女の演算が導き出した答えは自分が真っ二つになる結果だった。
彼女は急降下して斬撃を躱す。
すると、近くのビルが斜めに斬られて崩れ落ちる。
「うおおお!? マジかよ! 剣の力じゃないな!? これが俺のナノマシン装甲をぶち抜くアイツの切り札か!」
体制を整えて低く飛びながらニバリスは逃げに徹した。
下手に攻撃できない。完全に攻撃力も防御力も一段階上に行かれてしまった。恐らく、何発も連発出来ないのだろうが、その数発を当てられない程にアクターはマヌケではない。
「貴女のナノマシン装甲。学習によって進化する代物とみた……攻撃を当ててるが、一発一発の感触が違う。始めは弾き飛ばす程に硬質化していたが、段々と衝撃を吸い取らているかのようなモノに変わっていた。最適を模索し、そして、実行する。それをナノ単位のマシンの集合体が自動的に成している」
アクターは慎重に攻撃の機械を伺っている。
ニバリスは減速や急加速、蛇行や建物を突っ切りながら頭上からの攻撃を警戒した飛び方をする。絨毯爆撃の様に連発できれば当てることは可能だろう。だが、アクターは剣と盾での戦いを好むタイプのボディだ。兵器であるが、その前に戦士である事を選んだ個体なのだ。
そして、ニバリスはとある建物を見て口角を釣り上げた。
突然彼女は建物のふもとに着くと飛ぶのをやめた。
「ん? なんだ?」
アクターはその違和感に空中に留まるが、突然彼の中にけたたましくエラーの警告音が木霊する。
「うおおおおお!? これは!? くっ、何だ!?」
叫びながら墜落した彼は死にもの狂いで背中のジェット噴射でその場から離れる。すると、彼のボディは落ち着きを取り戻して身体の電力で自己修復を始める。
顔を上げて50m程先で仁王立ちをするニバリスと睨み合う。
「なるほど、ジャミング装置。この朽ち果てたビルが、貴女の切り札か」
「さて、どうする? アクターの旦那」
ニバリスは得意気に笑う。
だが、アクターは盾を左腕に収納すると剣を大上段に構える。そして、身体を白く発光させる。
ニバリスの演算は途轍もない被害を算出した。彼女も冷や汗を滲ませる。
「ったく……俺も人の事言えないけどよ。トンでもねー必殺技だよ」
この廃ビルを真っ二つにして、地下施設をも破壊する程の斬撃が振り下ろされるだろう。
斬撃を飛ばしている攻撃ではなく、刀身そのものを延長させているのだ。答えは荷電粒子エネルギーで構成された巨大な剣だ。身体のモーター音はそのエネルギー生成炉の稼働音だ。バリアで防御と共に発電し、攻撃への準備を整えて一気に相手を両断する。
ニバリスの逃げ回る戦法は間違っていなかったのだ。恐らく、あのまま戦っていたら彼女は一撃で死んでいただろう。
「主の命令は生け捕りだったが……全力で行かなければ、貴女のナノマシン装甲に太刀打ちできない。お許しください主よ、私はあの改造人間と全力で戦いたくなってしまった!」
「お互いに手詰まりだもんな! いいぜ、とことんやろうぜ!」
ニバリスは体中のナノマシンを両腕と心臓部に集中する。腕から発射する熱線に合わせて胸で凝縮した熱線を合わせる。
彼女は両脇に腕を引くと左足を引いてアクターに狙いを定める。
奇しくもタイミングは同じだった。
「魔剣・メガロ‼‼」
「ネラジュウム・ブラスター‼‼」
振り下ろされる光の大剣と摂氏数10万度の熱線がぶつかり合い周囲に弾け飛んだ高熱のナノマシンが飛び散る。
ぶつかり合った斬撃と熱線は鍔迫り合いをする。
「ぬうっ! オオオオオオオオ‼‼」
アクターは目の光量を爆発的に上げて雄叫びと共に剣を振りぬく。
ネラジュウム・ブラスターは真っ二つに斬れ、廃ビルごと地下まで届く斬撃がぶつかり合いに勝利した。廃ビルが音を立てて崩れ落ちる。そして、凄まじい砂ぼこりがアクターを包み込む。
ブシュウウウウウウウ! と体中から蒸気を噴き出して彼は膝を着く。
「……出会い方が、悪かった。きっと、無二の友にもなれた。主よ、どのような処分も受けます……しかし、貴女がご関心を持たれるのも納得の人間でございました」
アクターは身体をリペアしながら崩れ落ちたビルへと話しかける。
「すまない」
返事は帰ってこない。
だが、代わりに奇妙な事に気が付いた。切り裂いた地面の隙間から碧い光がわずかに漏れていたのだ。
「……ふ、ふはははは! なんて、なんて人物! なんと言う事か! ははははは!」
アクターは両腕を開いて笑っていた。
その次の瞬間、ビルの瓦礫を吹き飛ばして光が空へと舞いあがる。そこには、袈裟に身体に斬り傷はついているが生きているニバリスがいた。
「待たせたな。お互い満身創痍だが、決めようぜ」
ニバリスはそう言うとアクターへと突撃していく。
君の大切な人は君の為に動いている
何故、此処に君がいるのか
どのような人物なのか?
指令だけが薄く記憶に残るが、君はそれに縋るしかない
君に託す。




