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転生した私は聖女かもしれない  作者: 御重スミヲ
62/80

62、プール


 せっかく飛び込み台付きのプールを造らせたのに、医師をはじめ周囲からプールに入ること自体とめられてしまった。

 マタニティスイミングという言葉があったくらいだから、妊婦にもなにがしかよい効果があるはず。

 さすがに体を冷やすのはよくないだろうから、大浴場に流れ込む湯量を調節して温水プールがわりに。たぶん熱すぎるのもよくない。

 歩いたりもぐったり、浮力のおかげで動作が楽だし、むくみもとれて快調。

 やっと経産婦からその効能を信じ始めている。

 そんな私がプールサイドでくつろいでいるのは、怖気(おじけ)づくカレエラ王女殿下にお願いされたから。

 木陰でビーチチェアに寝そべってトロピカルジュースを飲みながら、侍女にゆったり扇がれているなんてどこの王侯貴族だとおかしくなるけれど。

 事実そういう身分だった。

 カレエラ王女殿下は、いまだ隣国の王立魔法学院に留学中。

 あちらでは別の公妃たちとも交流を重ねながら、いまは夏休みを利用して友人である私の家へ遊びに来ている格好だ。

 もちろん第一の目的は公王陛下に慣れてもらうこと。

 花嫁修業と称して一緒に住んでしまえばよさそうなものだけど。

 彼らほどの身分になると、外からどう見えるかを気にしないわけにはいかなくなる。

 格式を重んじた装飾や言動は、それはそれで美しい。

 中にはくだらないものもあるけれど、ささいなことで足を引っぱられたくないものね。

 婚儀で初めて顔を合わせてもおかしくなかったところ、侍女の機転で母国を脱したカレエラ王女殿下。

 帝国を通過することを考えれば気軽に帰省することもできず、そもそも母国でも味方ばかりとは限らない。

 元婚約者の暴走で貞操の危機もあり得るとか。

 そんなところに間違っても帰らせるわけにはいない。

 相当に傷付いているだろうところ申し訳ないのだけど。

 眉目秀麗・品行方正と評判の男の中身がそんなだったのだから、(したた)かな戦場の(たか)がじつはやさしいということも信じてほしい。

 彼女が振り返るたび小さく手を振ると、安心したようにその肩から力が抜ける。

 ほかの人間が同じ行動をとったら、それは私に対するいやがらせに違いないのだけど。

 彼女をエスコートしている公王陛下もどこかぎこちない。

 生まれてこの方、養殖系の令嬢や計算高い貴婦人としか接してこなかったのだろう。

 数時間かけてわずかばかり距離を縮める二人の初々(ういうい)しさときたら!

 見ているこちらの方が恥ずかしくなってしまう。

 おなかの中で(うごめ)くものがまったくないわけではないけれど。

 その嫌な感情が二人に向かうことはない。

 わるいのは運や状況で、それは雨や風を恨むようなもの。

 そもそも私は男に泣いてすがれるような可愛い女ではない。

 一方カレエラ王女殿下は、私が男だったらお嫁さんにしたい女性。

 そして彼女と一緒にいる時の公王陛下に対しては、同性の悪友のような気分になる。

 やれ、そこだ、ぐいっと行け! 気付くと(こぶし)をにぎっている私。

 その合間に側に控えている王女殿下の乳姉妹ハイネと悪巧(わるだく)み。

 我らが旦那様は、新たに覚えた泳法を自分だけのものにせず、騎士や兵士を鍛えている。

 どうせ体力向上のみならず、軍の渡河や水難救助などを想定しているのだろう。

 クロールや平泳ぎ以上に、立ち泳ぎや潜水の習得に熱心だったもの。

 ハイネはハノース軍が行ってる水練に、自国から王女殿下についてきた護衛たちも参加させてほしいという。

 当然彼らは海洋国に生まれ育ち、独自の泳ぎ方を身に着けているのだけど。

 ハイネ曰く、陸育ちの人間を下に見る傾向があるので、自分たちと同じかそれ以上に水の中で自由に行動できることがわかれば、いまだ消えない両者の壁も取り払えるだろうとのこと。

 言わば同盟国なのだから、スポーツの競い合いから合同軍事演習にまでぜひ(つな)げたいものだ。

 連合王国側が定期的にお付きの人員を入れ替えたり、こちらの文官や武官が連合王国まで視察に行ったり、頻繁(ひんぱん)に帝国を通過すればよい牽制(けんせい)にもなる。

 また、あちらの国でハノース大公国が認められれば認められるほど、カレエラ王女殿下をコケにしていた連中にざまぁできるというわけだ。



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