世界に抗う少女 Ⅴ
オティヌスと、鬼灯。
ある意味に通った運命の持ち主は、ここで雌雄を決するべく、殺し合う。もう、止まることはない。
オティヌスを止められるとすれば、オティヌス……オーディンと同格以上の神になる上、ここには鬼灯もいる。片方を止めて、はい終わり、というわけにはいかないのだ。
両者共々に、消えることのない不滅の炎になったようなもの。二人の殺気は止まることを知らない。永遠と迸り続け、天井知らずに増えていく。
なぜ戦うことになったかなど忘れ、ただ一人の、一つの生命として戦うことを遂行する。それが運命だと信じて。
「髪は交換される。『Grandfather's old axe』そのものだ。交換されても意味は変わらない。力は変わるだろうが、それでもその神の特徴が変わることはない。もし、私とおんやが入れ替わっても、変わるのはせいぜい実力程度だろう。ああ、他の神々からの信頼も変わる。だが、結局、神としての本質は変わらない」
「そっか。ずいぶんとお喋りなんだね、君は」
「ふむ、話すことの何が悪い? 貴様の意識を話しにわずかでも集中させればそれでいい。私自身の集中なら詐術でどうこうできる」
「便利な神様だねー。本当に、面倒だよ。君たちは」
おしゃべりはどこまで続くのか。オティヌスはどこまでの力を持つのか。
「私とオーディンは力を半々に分たれた存在ともいえる。オーディンのあまりにも強大な力を、オーディン自身が分けたのだ。そして、器に人間であった私を選んだ。私はオーディンの力の半分、全知を受け継ぎ、他にも様々なことを受け継いだ」
オティヌスは話していながら、その攻撃の精度はほぼ100%。当たらないのは鬼灯の回避力が高いからか。
オティヌスは片手に『主神の槍』を構え、鬼灯の〈世渡りの剣〉と斬り合う。刺され、弾かれ、その繰り返し。どちらかの体力が尽きるまで、終わることはない。
余裕を持て余しているオティヌスに反して、鬼灯にはそこまで余裕がない。これが完全なオーディン、またはオティヌスであれば、鬼灯は死んでいただろう。しかし、オティヌスは全知であって全能ではない。
そして、オーディンも全能であっても全知ではないゆえに、全てをこなすことのできる力があったとしても、十全には発揮できない。しかし、結局のところ、戦争の神である。
戦神に挑む。
それが何を意味するかは、鬼灯自身、ちゃんと理解していた。
しかし、負け戦だろうと、諦めぬものにこそ勝利は微笑む。
オティヌスにとっても、今の鬼灯は油断ならない相手であることに違いはない。結局のところ、ある意味運勝負でもあった。会心の一撃、というように、たまたま相手の体力を大きく削れたり、うまく防御できたり、運の良い方が勝つとも言える。
槍の一撃は確かに重い。鬼灯の一撃と比べて二倍以上もある。たった一撃だけで体力に差ができてしまう。それゆえに鬼灯は攻撃に出れない。下手に攻撃してカウンターを貰えばその分確実に体力差が開く。だったら両者同程度の消費でゆっくりと削るしか道はない。
どうせ、運任せなのだ。全力でやっても勝てなければ勝てない。それで終わるだけになってしまう。
ならどうするか。簡単だ。
やってやればいい。
鬼灯にあるスキルで、移動特化型のスキル『瞬連の輝』を使えば、移動速度は段違いになる。
だが、当然リスクもある。これをすると、オティヌスまでもがそういった系譜のスキルを使う可能性があるのだ。だが、元より命をかけた運の戦いなのだ。
少し早く死んだ程度。何も変わりはしない。
今やるか、やらないか。やるべきか、ではない。リスクを背負うか背負わないか、早く終わらせるか終わらせないか。そういった話なのだ。
ならば、早々に終わらせてしまった方がいい。死んだ時は自分が弱かっただけの話。自分の判断が甘かっただけ。
たったそれだけで結論づける用意もできている。
だったらやるしかない。やらないでどうする。
そういう、馬鹿なことをするのが、『鬼灯』なのだからッ!
『鬼灯』の花言葉は偽り、欺瞞、不安心といったものだ。マイナス面が強い。その中でも、最も異色なのが、『私を殺して』というものである。実の大きさに対して、中身が空洞だから、欺瞞だと、偽りだと言える。
そして、今の鬼灯の特徴として、自分自身の器……力の器が、ほぼ空なのだ。自分の力ではなく、他人の力から自身の力を得る。それが鬼灯の特徴であった。
まるで、鬼灯の中身が空洞なように……。そして、それを埋めるのが、人である稀有なのだ。
鬼灯のみから生まれたことすれば、その中でも稀有な存在だったから、ということになる。そういう意味で鬼灯に合わせて稀有と名付けられたのだ。
だからこそ、〈奪命剣〉というスキルにこんなセットスキルがあったのだろう。
「『同調』……」
小さく、呟く。それは『瞬連の輝』で移動している最中であり、声は分散させられる。オティヌスに聞こえることは、ほぼない。
同調とは、今まで手に入れた魂を、本当の意味で全て吸収することだ。今まで鬼灯は手に入れた瞬間に使っていたが、全てを使っていたわけではない。人間の場合、その時のステータスがそのまま入るが、魂の本質までくれるわけではない。
『同調』はその魂の本質を手に入れること。鬼灯の逃した魂であろうと関係なく、殺した人の魂から本質を借り受ける。
あくまで借り受けるだけだ。一度使えば二度と同じ人のは使えない。まあ新しく殺せば話は別だが……。魂の本質は魂自体の等級で分けられる。
簡単にいえば、王族だったり貴族だったりとかではなく、今までの魂の研磨の累計で等級が決まる。この人生でこれだけ鍛えて、こっちでこれだけ鍛えたから、この等級だな、という風になっていくのだ。
ちなみに今の鬼灯は等級がない。なぜならさながら死んで、新しく等級を貰わなければいけないのだから。だが、保存されている魂は別だ。それに、あくまで本質の力を使うまで保存し続けるだけなのだから。
「随分と摩訶不思議な能力を持っているようだな」
オティヌスは動きが変わったのを理解したのか、そう言い捨てた。
しかし、一向に警戒するそぶりを見せない。フリなのか、それとも……。
鬼灯は一歩、踏み出し、その剣を抜刀する。その瞬間に、左足で踏み込むでさらに加速する。ただ、この手法は自身の足を切る可能性があった。
しかし、今更死んだところで変わらない、と先ほど結論を出したのに、なぜ今更また悩むのか。踏みとどまることはない。
闇夜に紛れし一閃。
オティヌスはその抜刀を槍で受け止める。
「ぐっ…………!??」
その一撃は、オティヌスの想像を遥かに超えていた。
オティヌスは、力加減を間違えたのだ。それゆえに、押される。途中で力を加えるのは、この質量の前では難しい。
全能ではないオティヌスに、そんな器用なことはできなかった。元より、知識。力では、ない。ゆえに、その実力は他の神々より劣ってしまう。
それを埋めていたのが、人間だった頃の実力である。
選定の騎士と呼ばれ、伝説になるほどの実力を、神としての力と融合させ、知識を得た。その強さは、十分だった。
他の神々の力さえ把握できた。それゆえに、戦争の神としての権能を新たに獲得した。
知識という、戦争の神。
しかし、鬼灯の能力は全く把握できていない。
鬼灯は。神々にとってイレギュラーであった。
「あは☆」
一瞬の隙が、押し負けが、命取りになる。オティヌスが、先にしくじった。
鬼灯は、賭けに勝ったのだ。
オティヌスに、一度、二度、三度、と切り込んでいく。
その一撃一撃にオティヌスが慣れぬようにと、一撃ごとに別のセフィラが込められている。例えば、バチカルとケテルが連続でこめられたりと、虚数と実数の強制的な入れ違い。
それゆえに反発が起こる。
そして、それを攻撃に利用すれば、さらなる威力が出る。
あくまで知識のオティヌスに、それを防ぐ術はあるのか。なくはない。
それでも、できるできないでいえば、すぐできるわけではない。準備が必要になる。即席でできるようなものでは、ない。
「全力をだしてこれとはな」
オティヌスは、ゆっくりと、重い一撃……それこそヘタを打てば致命傷になりかねない一撃を何度もその身に打ち込まれながらも、ゆっくりと喋る。
まるで、余裕だとでもいうかのように……。
だが、実際には余裕など微塵もない。
それでも、オティヌスは自分を貫く。選び抜く。
して、ここで疑問だが、なぜオティヌスは鬼灯の攻撃に耐えるのか。知識を駆使して逃げる方法を模索することすらせずに、攻撃を受け続ける。全知でありながらこのようなことをするならば。何か意味があるのではないか?
例えば、即席でできない鬼灯の攻撃の回避方法をゆっくりと組み立てている、とか……。
オーディンは知識のためならば、代償を惜しまない。では、分割されたならば? 解釈の仕方によっては、『知識のため』と『代償を惜しまない』に分けることができる。いや、できてしまう。
もし、もしも『知識のため』がオーディンに、『代償を惜しまない』がオティヌス にわたっていたとしたら。鬼灯は、自爆したも同然になる。
溜まったダメージを利用したカウンター。
それならば、体力だけならば神々をも上回る鬼灯であっても、ただでは済まされない。
ただ、オティヌスのカウンターは、次元が違った。
ドゴォッッ!!‼︎‼︎⁉︎ と。
不可視の一撃が鬼灯にあたり、左腕を消しとばす。斬ったわけではない。あくまで攻撃の上に溜まったダメージを上乗せするだけのカウンター。それは斬る、という攻撃の斬撃よりも高い密度であったがゆえに、鬼灯の左腕を消し飛ばした。
反応できない一撃にのせた、超級のカウンター。鬼灯の体力は、この時点で四割を削られた。
オティヌスの体力が100だとすると、鬼灯の体力は200である。二倍の差をトントンと呼べるほどに削る一撃。これには鬼灯も流石に身を引いた。
溜まったダメージを返したとは思えない一撃が、連発されるのを恐れたのだ。そう、鬼灯は今のがカウンターだと知らない。ゆえに連発される可能性を考慮し、身を引いたのだ。
とは言っても、オティヌスの体力は残りわずか。
いける。
回復手段は? もし、オティヌス が今の一瞬で体力を全開にするほどの魔術を扱えたら? 蘇生魔術をかければ体力は全開する。
魔術の神ならば、即座に組み立てることも、できるのでは?
鬼灯にもちゃんと〈奪命剣〉という回復手段がある。しかし、量が桁違いだ。たった二、三秒で蘇生魔術が行使できるなら、鬼灯に勝ち目はない。もし先ほどの攻撃を行い、身を引いた瞬間に回復されれば終わる。
「言っただろう。全力を出してこれとはな、と」
何が言いたいのかは、だいたいわかっていた。
「貴様の攻撃は弱すぎるのだ。到底私には届かない。届いたとして、すぐにこうなる。先ほどのセフィラを載せた連撃、そう繰り返せるものではないだろ? セフィラを乱用して代償なしとか、チートもいいところだもんな」
鬼灯は、平衡感覚が左腕分なくなっている。下手に動き回れば、平衡感覚を半分失ったせいで自ら攻撃にあたりに行ってしまう可能性すらある。
それに、人間は両腕を失うと歩けなくなる。平衡感覚がなくなってしまう。右腕まで消し飛ばされれば、たまったものではない。
鬼灯は、賭けに負けていた。勝ったと思って、多少調子に乗って攻めすぎたのだ。可能性を考慮しなかったのが、敗因。
敗因?
なんだそれは。
継戦の理由だろうが。
なんかエロ広告多いですよね……なんとかならないんですかね、これ……




