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癒しの国のヨナ  作者: 沙門きよはる
もう一つの世界
20/23

アヤミハビル屋敷



 「で、ドゥナン一周は如何なったん?」

 リュウは話の続きを促した。


 「結局、島一周は次の機会にすることして、その日はミーコの管理するアヤミハビル館とミーコの家を訪問することになったの」



 祖納村を睥睨するかに聳えるテンダハナの麓に与那織ヨナオリ邸は在った。

 スペイン風の佇まいで、元尚王家の隠れ別荘とのことである。


 代々の執事で、ガジュマルのキジムナーと称する与那城老人と聾唖の孫娘のサワが迎えに出た。


 広い邸内には巨大ガジュマル樹の下、タイル造りの青いプールとハビル用の温室が二棟に、一見ペルシャ風の瀟洒な機織り場のアトリエが在り、古典画のように優雅な雰囲気を醸し出している。


 「蚕は、アヤミハビルを主に若草色の天蚕など四種類で、特に黄金色のアヤミハビルの絹は人気があるの」

 と、良く馴れた一メートル大の人面蛾をミーコは自在に操って見せた。


 「蛾の命は羽化してから数週間と言われているけど、家の大ハビルは三年以上の命を保っているわ」 


 「良く馴れているわ。まるで知性があるみたい」

 サチコは腕にハビルを乗せて御機嫌だ。


 「ある面では、私たちより優れているわ。異種の生き物は知性の表し方が人間と異なるので、理解し難いのよ」


 「確かに!人語を喋らないだけでも、まともに思えるね」

 リュウが頷くもののかわに、突然巨大蛾は堰を切ったように話し始めた。

 「人間は人生のスパーンが長く一回きりなんで、大変だな。俺らは小刻みの終生なんで、その都度リセットが可能なんよ。詰まり、生まれ変わりに記憶が継続するんで、永遠に生きるってことなんだな」


 唖然とする二人に、ハビルは延々と脈絡のない自己紹介を続けた。




  …… ……




 大広間でミーコが手ずから自家製のティを入れた。

 「人顔の蛾が喋ったんで驚いたでしょう?ハビったら、会話が支離滅裂なの」


 「大丈夫。この所、色々有り過ぎて大概のことには驚かないわ」


 二人は一連の尋常でない事態を有りのままに受け止めている。



 「不思議な感じ。ずっと以前から私たち知り合いで、此処にも馴染みが有るような気がしてるの」と、サチコはすっかり寛いでいた。


 「昔、ボクらは此処で一緒に暮らしていたんっすよ」

 側のカイトが確信有り気に言った。


 「それ、生れる前って言いたいの?」


 「前の前かも。ボクは輪廻転生リインカーネーションを信じてるんです」

 少年は顔を紅潮させる。


 「クール!ボクは十七年前に亡くなった生意気な私達の一人息子に良く似ているわ」

 サチコは考え深げにカイトを見つめていた。



 ミーコが二人の与那国島における日程と予定を尋ね、与那織邸に二人を迎えたい意向を告げる。

 「富久山荘の後、他に部屋や家を借りるぐらいなら、家に来て欲しいの。此処なら一人一部屋を提供できるし、プライバシーを護ることもできるわ」



    ……  ……



 与那国島は日本の最西端に在り、南西諸島八重山列島の西端の地を擁す国境の島である。

 島は琉球とも台湾とも、無論大和でもなく、一種独特の隔別されたイメージだ。


 壮大な謎の海底遺跡、誘蛾灯に飛び交う世界最大の蛾、最小の騒がしい蝉、日本最小の在来種で知能の高い与那国ポニー、真っ赤な人面蝗、鮮やかなビロウの樹等々の島特有の動植物や古代から連綿と続く儀式等、独特の慣習に彩られる伝説に満ちた不思議世界である。



 連日、ミーコとカイト、そして富久山荘に寄宿するアツシと富久山の姪に当たる看護助手のアイカ嬢を加えての六人他、大シニグのシゲオ等と共に島の探索を行って親交を深めて行く。


 島の古老の風葬に参加。

 松明の下、遺体を奥に晒した亀甲墓の広場で食べて歌って踊って飲み明かす。


 島の結婚祝いに参加。

 食べて歌って踊って飲み明かす。


 お金の精、愛の精、本の精、トランプや麻雀、花札のカードの精、エロスの精等、次々と出現する種々雑多の精霊たちとの交歓。


 夢か現か幻か、幻想と目くるめく酒宴の日々、短期間で二人はすっかり与那国に溶け込んで行った。



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