目覚める時
「斯くして、急性アル中でぶっ倒れるわけだ」
「ホント!噂のプレイボーイも形無しね」
「ドゥナン古酒の花酒言うのが最強度数で、それを飲んだのが運の尽きだったかも」
「最強度数って、何度ぐらいなの?」
「八十度だって。喉が焼けそうにビリッとして、島塩と飲むと美味過ぎてクレイジーよ!ガソリン代わりに車が走る言う都市伝説がある。とにかく、此処の酒飲み慣習は半端じゃない」
「この二重のストーリーを如何収めたら良いのかしら?」
「二重か三重か、どれが本当で、どちらが幻なのか?それとも、二つとも幻なのか?或いは、両方とも現実の平行世界なのか?」
「どれを選ぶかは、私たちの運命ってことね」
「当たるも八卦、当たらぬも八卦って」
「人生で言えることは、過去は取り返せないし、未来は分からない。結局、今を精一杯楽しむしかないんだわ」
…… ……
サチコとリュウが移り、リュウの看護と言う名目で、アイカが付き添いで来ると、ティンダハナのハビル屋敷は俄かに活況を呈した。
ミーコのたっての望みによる、リュウの実験的な時代退行ヒプノで、全員が前世の深い縁が有り、ミーコはリュウとの結ばれなかった激しく燃えた恋人の過去世が蘇ったのだ。
「綾なす縁には、驚くばかりだわ。カイトと飛行機で出会って此処まで来たのも偶然じゃ無かったと言うことね」
実験に立ち会ったサチコは感に入ったように唸った。
リュウが呆然と呟く。
「僕がミーコに惹かれるのには、理由が有った……」
ミーコとリュウの仲が深まるに付け、サチコはリュウとの間に一定の距離を置くようにする。
サチコはマイペースに時を過ごしていた。
独りになると、キングダムのレイトが想い浮かぶ。
パーティ後の語り合いから自然に抱き合った夜、サチコは至福と歓喜の中に居た。
ヘッドバンドの下から現れた第三の目(ホルスの目)は妖しく光を放ち、見詰められると、痺れるような陶酔に導かれる。
…… ……
過ぎ行く時に思いを馳せると、
聞こえるのは愛の調べ。
哀しみも苦しみも霧の中に消え、
心に浮かぶは君への想い。
何時の日か抱かれて口ずさむは
儚く夢見し恋の調べ。
…… ……
邸宅の中では、一堂に会する食事時以外、サチコは概ねカイトと行動を共にしていた。
しかも、リュウの語ったヨナのクニのカイトとの経緯がサチコにとってカイトを見る目を大きく変えていた。
可愛い息子あるいは孫の感覚から、淡い少年少女の初恋の思い出と交錯するのだ。
…… ……
昼下がり、木陰のプール沿いに張ったパラソルの下、サチコとカイトが甘いショートケーキに、冷えたアールグレイ(ティ)を取っている。
「こんな風に、まったり御茶するのも悪くないわね」
「お祭りのせいか、気忙しい。ボク的には、サチと二人なのはラッキーだけど……」
「年寄りに、無理して付き合わなくても良いのよ」
「サチは、ボクが求める理想の女性なんです。優しく知的で綺麗でセクシー。それに、気のせいじゃなく、日に日に若く成ってる」
「からかっちゃいけないわ。アイカちゃんなんか如何?歳上だけど、綺麗で可愛いくてお似合いだと思うけど?そう、サワちゃんも悪くないんじゃない?」
サチコは屋内で立ち働くメイド姿のサワに顎を杓った。
「アイカはスーパーにキュートだし、サワも綺麗で優しいけど、サチには目じゃないさ」
カイトは自慢げに胸を張った。
「ナマなんだから!まるで、私がボクの恋人みたいな言い振りじゃない?」
湧き上がる、忘れ去っていた青春のときめき。
「ボクが恋人じゃ、可笑しい?」
「私たち幾つだと思って?」
「歳なんか、クソッ食らえっす!リュウとママがラヴなんで、今がサチコに振り返ってもらえるチャンスと思ってます」
サチコは噴き出した。
「タブロイド記事の受け売りで、私を寂しいと見境無く発情する淫乱女だとでも思い込んでるんじゃない?」
「ううん、熟年の女性にとって純粋無垢な少年との恋愛は至上の喜びってサチのエッセイに書いてあった」
「熟女を口説く無垢な少年ね……。ボクは確かに素敵で魅力的だけど、私とではリミットを超えてるんじゃない?第一、ボクは大人の女性と恋愛をしたことがあって?」
「精神的に?それとも肉体的に?」
「肉体的にですって?」
サチコは少年の言葉に目を丸くした。
カイトは顔を赤らめる。
「肉体的には未経験ですが、大人の女性にと言うなら、今こそ大人のサチコに恋してます」
「恋かあ。此のところ、体の変異で滅入ってたんで冗談でも嬉しいわ」
「体の変異って?」
サチコは与那国に来て以来、原因不明の手足と体が異様に青く変色しつつあるのを告げた。
「見て!もう人前に肌を曝せないわ。人間じゃない得体の知れない妖怪か何かに変身している感じなの」
大胆にスカートを付け根まで捲くって鮮やかに青く変色した脚を見せる。
カイトは唾を飲んだ。
「凄え!でも、ママなんか、もっと強烈だよ。手足どころじゃなく、下半身からバストまで金交じりの青い段だらが縞蜘蛛みたいに浮き出てきてるんだ」
「やだ!ママの裸を覗いたりしているんだ」
「覗いたりしないよ!毎日一緒にバセィングしてるんです」
サチコは目を丸くする。
「一緒に入浴するってこと?思春期の男の子と熟女が、親子で一緒に風呂するなんて、妖し過ぎない?」
「全然!サチなら、めっちゃ興奮だけどさ」
カイトは笑って手を振る。
「私に興奮ですって?」
「真剣初恋。サチが一緒にバセィングしてくれるなら、最高だけどなあ」
カイトは夢見るように呟いた。
「初恋なら、ボクは私の為に死ねるかしら?」
冗談っぽくサチコが尋ねると、カイトはムッとしたように答えた。
「サチが望むなら」
サチコは暫し考える風だったが、「目を閉じて!」と、不意に命じた。
目を瞑る美少年の唇に、サチコはケーキの白い生クリームを塗り、そっと唇を寄せる。
はっと見開くカイトにサチコが囁いた。
「憎みあったり、苦しむ為じゃなく、私たちは愛し合うために存在するのよ。
今夜、一緒にバスしよう。それから、大年増の半化けで良ければ、忘れられない思い出を刻んであげるわ」




