EP 15
ポポロ村駐在所、営業開始! 5人の黄金コンボと即決ドナドナ司法
ピキィィィィィィィィンッッ!!
大気中の魔力粒子が一瞬にして氷結したかのような、乾いて澄み切った甲高い破裂音がポポロ村の中央広場に響き渡った。
俺——ルナミス帝国警察・大宇宙管理局指定ポポロ村駐在所所長、リオン・フォン・アルディス巡査長が突きつけた黒革の警察手帳。
金文字で刻まれた『大宇宙管理局・カスハラ部・執行部』の紋章が、初夏の光を吸い込んで白銀に灼け付くような輝きを放つ。
「ぐ……あ……ッ!? な、なんだ……!? 俺の装甲が……魔力障壁が消えていく……ッ!?」
押し売り山賊団『ハングリーベア』の頭目・ガドックが、血走った眼球孔を限界まで見開いた。
戦車砲すら跳ね返すと豪語していたユニークスキル【絶対重装甲】——その鋼鉄色に硬化していた皮膚表面から、青白い霜のような燐光がパラパラと剥がれ落ち、ただの脂ぎった三十代の生身の皮膚へと戻っていく。
右腕に直結された巨大ガトリングガンの銃口に渦巻いていた圧縮魔力光も、ふっと線香花火のようにか細い煙を上げて立ち消えた。
「言ったはずだぞ、ガドック。前世で悪徳リフォーム詐欺をやらかして高齢者を騙し、異世界に来てまで強盗サブスクなんぞで小市民を脅すクズのチートなんざ、大宇宙の最高法規から見ればただの規約違反パッチなんだよ」
「ひ、ヒィィッ……!? 俺のステータス画面が……全項目、真っ暗に塗り潰されてやがるッ! 動け、動けよガトリングゥゥッ!!」
チートを強制凍結され、パニックに陥ったガドックが手動の引き金を狂ったように引き絞る。
だが、その鈍重な銃口が俺を捉えるより前に、頭上遥か上空から華やかな電子音声が炸裂した。
「全世界のリスナーのみんな〜☆ これがイキり山賊のチート剥奪の瞬間だよ〜ん! ゴッドチューブ緊急生配信【武装山賊団を美少女天使が爆撃成敗してみたwww】、同接三百万突破で〜す!!」
パァァァッ! と眩い黄金の閃光が青空に満ちる。
純白の翼を広げた月給二億円のトップインフルエンサー・天使キュララ!
彼女の全身を覆う神聖パワードアーマーの装甲がカシャリと展開し、華奢な肩の上に無骨極まりない緑色の大型円筒砲身——米軍仕様の対戦車ロケットランチャー『RPG-7』がガチャリと担ぎ上げられた。
「カメラ目線で〜、てーっ☆」
シュゴォォォォォォンッッ!!
白煙を噴き上げて放たれた成形炸薬弾が、正確無比な放物線を描いて山賊団の旗艦装甲トラックのエンジンルームへと直撃した!
ズドガァァァァァンッッ!!
黒鉄のトゲがびっしりと溶接されていた装甲車が、花火のように派手な爆炎を上げてひっくり返り、炎上する。
「ぎゃああああああっ!? 俺たちの装甲車が一撃で消し炭にィィッ!?」
「空から天使がロケットランチャーぶっ放してきやがったぞォォッ!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑おうとする三十人余りの山賊たち。
だが、退路など最初から存在しなかった。
純白のシルクローブを優雅になびかせ、広場のあぜ道に立った次期エルフ女王候補ルナが、慈愛に満ちた聖母のような笑みを浮かべてスッと両手を広げたのだ。
「あらあら、せっかくポポロ村にいらしたのですから、ゆっくりお茶でもしていらっしゃいな♡ 『幻覚催眠花粉・ハッピー・ドリーム』」
ルナが指先をパチンと鳴らした瞬間、村のあぜ道に自生していた色鮮やかな野花から、桃色の幻想的な胞子が霧のように立ち込めた。
風に乗って広がったその甘い香気を吸い込んだ山賊たちが、突如として武器を取り落とし、蕩けたような表情で石畳の上をゴロゴロと転がり始めた。
「うへへ……お花畑が見える……ちょうちょがいっぱい飛んでるよぉ……」
「ママ……あたい、今日から真面目に生きるよ……うふふふふ……」
「うふふ、皆様とても幸せそうなお顔ですこと♡ このまま呼吸が停止するまで眠らせて、畑の腐葉土にして差し上げましょうか?♡」
「殺すな! 笑顔で安楽死の追撃を仕掛けるんじゃない!!」
俺が電光石火のツッコミを飛ばす横で、トドメの超質量兵器が大地を蹴り抜いた。
「——逃がしませんわッ!!」
ドォォォォォンッッ!!
大地を陥没させるほどの爆発的な踏み込み。
飛び出したのは、ポポロ村新村長・キャルル!
プラチナブロンドの長い兎耳を殺気で逆立たせ、足元に輝く『タローマン特注・重作業用安全靴(対ドラゴン踏み付け強化型)』のソールから、青白い過剰な闘気がバチバチと放電する。
音速の壁を突破し、衝撃波の円環を背後に置き去りにしながら、キャルルは宙へと舞い上がった。
「月影流奥義——『超電光流星脚』ッッ!!」
上空から急降下する、二百七十七トンの推定破壊力を秘めた必殺の安全靴ライダーキック!
狙われた残りの装甲トラック二台の中央へと、閃光となって突き刺さる!
ドッゴォォォォォォォォンッッ!!
大気を揺るがす轟音とともに、強固な魔導装甲車二台がまるで空き缶のように真っ二つに圧壊し、爆砕した破片が空へと吹き飛んだ。
着地したキャルルは、人参柄のハンカチで額の汗を上品に拭い、ふうと息を吐く。
「ふぅ……。器物損壊の不始末、きっちりと清算させていただきましたわ♡」
「生身の蹴りで戦車並みの装甲車を二台同時に粉砕する奴があるかよ……!」
民家の屋根から見ていた割烹着のバズーカおばあさんや、九九式ライフルを構えていた農民たちが「ひえぇぇ……新村長様、歴代最強だべ……」「怒らせたら確実にミンチだぞ……」と顔を見合わせながら震え上がっている。
そして——煙煙と立ち込める粉塵の中から、臙脂色の芋ジャージを着た人魚姫リーザが猛烈なダッシュで突撃してきた!
「今ですわァァッ! 悪党の隠し資産、裏金、そして強盗サブスクの不当利益……! 私の『貧乏神』の嗅覚からは、一円たりとも逃れられませんのーーッ!!」
リーザが抱え持った『お賽銭箱型掃除機』!
吸込口の蛇腹ノズルを、半壊したトラックの隠し金庫と、地面に倒れ伏している山賊たちの懐へと次々に突き刺す!
スイッチ、マキシマム・ハイパー・オン!!
ギュオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!
「ぎゃああああああっ!? 俺のへそくり金貨三百枚がああああっ!」
「ルナPayのチャージ残高も、道端で拾った金歯も吸い込まれていくうううっ!!」
「吸い込みますわ! 骨の髄まで吸い尽くしますわよ〜〜!! 貴方たちの不義の富は、ポポロ村の復興積立金、および私の生涯カツ丼基金として全額没収ですのーーッ!!」
ズボボボボボボボッ! と音を立てて最後の銅貨一枚に至るまで綺麗サッパリ吸引され、三十人の山賊たちの財布はもぬけの殻と化した。
チートを凍結され、トラックを粉砕され、部下を全員無力化され、全財産を吸い尽くされた頭目ガドック。
膝から崩れ落ち、震える男の頭上へ、俺は静かに歩み寄った。
ジャキィンッ!
背中から引き抜いた主武装——『魔改造レミントンM870』のポンプアクションを響かせ、鈍色に輝く銃口をガドックの鼻先へとピタリと突きつける。
「装填弾薬——属性魔導弾『非致死性・高濃度麻酔弾』。動くな」
「ひ、ヒィィッ……!? た、助けてくれぇっ! 金なら……金ならもうねえけど、何でも喋るから!」
「喋る相手は俺じゃない。取り調べの調書に全部吐きな」
ズドォォォンッ!
至近距離から放たれた青白い麻酔の閃光が、ガドックの太ももを撃ち抜いた。
「あばばばばっ!?」と痺れ叫びながら、巨漢が白目を剥いて完全に脱力する。
俺は腰のホルスターから鈍色の鋼鉄製手錠を引き抜き、ガドックの両手首へと冷酷に噛み合わせた。
ガチャリ。
「帝都刑法ならびにポポロ村治安条例、恐喝、威力業務妨害、違法重火器乱射、および詐欺未遂の現行犯で逮捕する。……ワッパ完了だ」
静寂が、広場に戻ってきた。
破壊された装甲車の煙がたなびく中、広場を取り囲んでいた村人たちから、地鳴りのような歓声が沸き上がった。
「う、うおおおおおおおおっっ!!」
「あの悪名高いハングリーベアを一瞬で全滅させただと……!?」
「新村長様と、駐在所のお巡りさんバンザーイ!!」
村人たちが駆け寄り、口々に感謝と賞賛の嵐を浴びせてくる。
九九式ライフルを背負った古老が涙を流して俺の手を握りしめ、バズーカのおばあさんが「お巡りさん、今夜はうちの採れたて大根を持ってっていきな!」と笑顔を向けてくれた。
これが、俺たちが守るべき『ポポロ村の日常』なのだ。
そこへ、駐在所の正面から漆黒の巨躯——巡査ゴーレム1号が、ガシャンガシャンと規則正しい足音を立てて歩み寄ってきた。
『ピピッ。被疑者三十一名、全員の拘束およびバイタル確認を完了。ポポロ村自治法規に基づく、即決ドナドナ司法手続きの開始を具申シマス』
「よし、頼むぞ1号」
俺が頷くと、新村長キャルルがスッと背筋を伸ばし、村長の公印が押された羊皮紙を広げた。
「ポポロ村村長として、即決行政処分を言い渡しますわ! 被疑者ガドック以下三十一名は、反省の色と損害賠償能力が皆無であるため——『ドンガン地下炭鉱における、ツルハシ採掘強制労働刑(期間:三年)』に処します!」
「ひ、ヒィィッ……!? あ、あの生きて出られないと言われる地下炭鉱かよォォッ!?」
泡を吹いて泣き叫ぶ山賊たち。
広場の一角に突如として開いた地下坑道への巨大なエレベーター扉から、ドワーフの屈強な監督官たちが現れ、山賊全員を縄で芋づる式に縛り上げて地下深くへとドナドナ送還していった。
悪党に情けをかける隙など、この超重武装農村には一切存在しないのだ。
午後三時。
大捕物を終えたポポロ村駐在所は、初夏の爽やかな風と、湯気の立つ温かい匂いに包まれていた。
執務室のスチール机の上には、ノートPCの画面に輝く文字。
『検挙実績:武装強盗団ハングリーベア三十一名現行犯逮捕』
『治安貢献度:特A判定 昇級査定ポイント:大幅加算完了』
「ふぅ……。なんとか初日の大仕事を無傷で片付けられたな」
急須から注ぎ落とした緑茶を啜り、俺は深くパイプ椅子にもたれかかった。
喉を通る茶の渋みが、戦闘の緊張を心地よくほどいていく。
すると、給湯室から「お待たせいたしましたわ♡」と甘い声が響いた。
エプロン姿のキャルルが運んできたお盆の上には、驚くべきご馳走が並んでいた。
村人たちからのお礼として差し入れられた、獲れたての極太肉椎茸と太陽芋、そしてタローマン資材館で母マリアが持たせてくれた極上の豚バラブロックを使った特製料理——。
「初戦勝利記念! キャルル特製『ポポロ肉椎茸と豚バラの焦がし醤油角煮丼』ですわ♡」
蓋を開けた瞬間、執務室いっぱいに破壊的な香気が立ち込めた。
ツヤツヤと黒褐色に煮詰められた分厚い豚バラ肉は、箸で触れただけでホロリと崩れるほどトロトロ。噛みしめると濃厚な豚の脂と甘辛い醤油タレが溢れ出し、肉椎茸から染み出る芳醇なキノコのエキスが白米の一粒一粒を至福の黄金色に染め上げている。
「う、美味そう……っ!」
「ガツガツッ! もぐもぐもぐ……んん〜〜〜っっ! お肉が……お肉が舌の上で溶けてなくなりますわァァッ! タローソンのパンの耳では決して味わえない、これが本物の幸福ですのーーッ!!」
芋ジャージのリーザがどんぶりを抱え込み、一瞬で半分を胃袋へ消し飛ばす。
その横で、純白のエルフローブを着たルナが優雅に角煮を口へ運んだ。
「ふふ、とても濃厚で美味ですわね♡ リオン様、この肉椎茸のエキスに私の世界樹マナを調合すれば、人間の寿命を三百年ほど延長させる不老長寿の霊薬が作れそうですわよ♡」
「美味しく角煮食ってる時に神話級のヤバい薬作ろうとするな!」
「リオンっちー! 今日の初陣ノーカット生配信、ゴッドチューブの全世界トレンド一位取ったよ☆ スーパーチャットの総額、一億五千万ルナPay突破〜! 村の復興基金口座に全額ぶち込んどいたからね☆」
スマホを操作しながらピースサインを作る月給二億円天使キュララ。
現金なやつだが、こういう時の行動力と資金力は恐ろしいほど頼りになる。
「……リオン様♡」
トクン……トクン……トクン……。
そっと俺の隣に座ったキャルルが、制服の袖に触れながら長い兎耳をピクピクと震わせた。
ルビーの瞳が熱っぽく潤み、俺の胸の鼓動にじっと聴き入っている。
「大勢の凶悪な山賊を前にしても、リオン様の心音……やっぱり少しの乱れもありませんでしたわね♡ 法を守り、私たちを信じてくださったその高潔な鼓動……。私、本当に貴方に巡り合えて幸せですわ……♡」
「キャルルさん、距離が近いって……。でも、お前たちのおかげで村の被害をゼロに抑えられた。ありがとうな」
俺が素直に礼を言うと、キャルルは顔を真っ赤にして両手で口元を押さえた。
「ふぇっ!? お、お礼だなんて……! あぁ、リオン様の誠実な心音が脳髄に直接響いて……私、嬉しすぎて満月でもないのにマッハ1で村中を走り回ってしまいそうですわ……♡」
「頼むから暴走しないでくれ!!」
広がる爆笑と、賑やかなツッコミの声。
手取り十六万の小市民公務員である俺の、平穏とは程遠い新たな日常。
だが、この規格外で愛すべき仲間たちと一緒なら、どんな困難も乗り越えていける気がした。
——しかし。
ポポロ村の穏やかな夕暮れを見つめる俺の『犬のお巡りさん』の嗅覚は、遠く三大国の国境線から漂ってくる、新たな『怪奇』と『陰謀』の匂いを微かに捉えていた。
喋る怪奇ニンニクに、家庭崩壊を引き起こす魔性のメロン。
そして——村の若者たちを蝕もうとする、謎の魔王討伐ネズミ講『ADP』の足音。
「……さて。腹も膨れたことだし、夕方の巡回パトロールへ行くとするか」
制服の襟を正し、ガンラックの魔改造M870に手をかける。
追放された犬のお巡りさんと、四人の問題児ヒロインたちが織りなすポポロ村駐在所の物語は、ここからさらなる大混乱と激動の第二章へと突き進んでいくのだった!
(第一章・完)
読んでいただきありがとうございます。
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