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NBOがリリースされて3週間が経過し、ソフィアのレベルは現在上限である30になった。今は大学の講義を終えて帰宅し、NBOにダイブしている最中である。
この3週間でプレイヤーたちは戦闘に慣れつつあり、倒せることが出来る敵が増えたことにより、大半のプレイヤーは装備が変わりつつある。
ソフィアの装備も初期装備から大きく変わっており、長いツインテールはおしゃれなロングリボンで結び、服装は全体的に白いワンピースに襟元の黒いリボンがアクセントの軍服ワンピースを身につけ、若干青みがかったタイツに黒いロングのレースアップブーツを履き全体のバランスを整えている。
武器も増え、今までメインウェポンだったGLOCK17は近接戦闘用にサブウェポンに変わり、メインには深緑の森でドロップしたFN F2000(5.56x45mm NATO弾を使用する装弾数30発のアサルトライフル)を、ペイント機能で白のカラーリングに黒のラインが入ったデザインに変え、アタッチメントにスコープをつけたものを装備し、ナイフを腕、もも、足に2本ずつ、腰のガンベルトには横にGLOCK17、反対側にはポーチ、腰にはFN F2000とついている。
攻略も進んでおり、深緑の森の特殊ボスがプレイヤーによって討伐されると、さらに奥にある『鬼の洞窟』が解放され、そこでは洞窟名の通り鬼であるゴブリンが出てくる。
ここでは明かりがなく、罠や人型との戦闘ということもありかなり苦戦するプレイヤーが多かったが、時間が経つにつれ慣れてくるプレイヤーも増え始めてはいる。
そんな中ソフィアは鬼の洞窟の探索でボス部屋を昨日発見し、攻略に行くために弾薬の補充をして、現在は鬼の洞窟のボス部屋まで移動中である。
「傾向的にたぶんゴブリン関係の敵がボスだと思うけど、どんな奴が出てくるかな」
ゴブリンだとオークとかかな? 初めてのボス戦だから楽しみだ。
道中に出てくるゴブリンたちを近づけることなく倒し、移動を続けているとついにボス部屋についた。
「弾の数は問題ない。よし、やるぞ」
気合を入れ部屋に入り見渡すと、中はイタリアにあるコロッセオのような円形型の闘技場になっており、先ほどまでいた洞窟内とは違い、部屋全体が明かりに包まれている。
FN F2000をいつでも撃てるように構え、警戒しつつ中央に進むように歩くと後ろの扉が閉まる。なるほど、ボス戦中は逃げれないわけか。
扉が閉まると目の前の床に魔法陣が浮かび上がり、その中から高さ10メートルほどのオークが現れる。
エネミーネーム『斬殺のオーク』は右手にマチェットを装備、セクシャル対策で腰に布を巻いている。全身を見た感じかなり凶悪で、小さい子供が見たら泣き叫びそうである。
オークが雄たけびを上げるとHPゲージが出現、戦闘の開始のようだ。
距離が近いためスコープを覗かず、引き金を引き銃口から放たれた30発の弾はソフィアの戦闘センスも相まってすべて頭に向け飛んでいくが、当たる前にマチェットではじかれてしまう。へぇ、そう簡単に攻撃は当たんないってことね。
お返しだろうか、こちらに向けて振るわれたマチェットを走りながら回避する。
銃撃を繰り返すも、弱点部位を狙った攻撃ははじかれてしまうため胴体に向けて撃つが、HPゲージが殆ど削れていなくジリ貧である。
現状を打開するためポーチから閃光手榴弾を取り出し、投げつけ腕で自分の目を庇っていると、でかい音と共に目を焼くような光が炸裂する。
見事に命中したようで、オークは目を閉じ雄たけびをあげながらマチェットを振り回している。
「振り回したら危ないじゃないか。大人しく攻撃をくらいなよ」
ランダムに振り回されるオークの攻撃を軽やかに避け、目の見えない敵の頭に向けて弾を放ち続けHPゲージを減らす。
状態異常から復帰しては目つぶしを続け、半分までゲージを減らすと耳を劈くような雄たけびと共にオークの持つマチェットから衝撃波が飛んでくる。
雄たけびによってぐらついた視界の中、高速で打ち出された攻撃を完全に回避することは出来ず、直撃はしなかったものの、余波により壁側まで弾き飛ばされる。
「ッん」
空中で体制を整え着地すると、オークがものすごい勢いでこちらに突撃するとともに激しい斬撃を繰り出してくる。
徐々に視界は治ってきたが、先ほどの方向による耳鳴りがまだ治っていなく、正確な情報がつかめない中先ほどまでとは違った攻撃を避けることは難しく、オークが放ったこぶしをまともにくらってしまう。
「うぐっ!」
こぶしが当たるとそのまま壁まで吹っ飛ばされ、あまりの衝撃に声が漏れ出る。
壁から崩れ落ち、地面に膝をつくように座り込んでいると、ドクンドクンと心臓が高鳴るとともに意識が変わる感覚が身体を満たしていく。
こちらに致命傷を与えたからか、顔をにやけさせゆっくりとこちらに近づくとマチェットを大きく振りかぶり、とどめを刺す一撃が振り下ろされ、打ちつけられた衝撃で砂埃が舞い、辺り一面が見えなくなる。
オークは興味をなくしたのか振り返り、魔法陣の方に向かい帰還しようとすると、煙の中から眩いノズルフラッシュと共に47発の弾がオークの右肘に全て当たり、それによって一定時間同じ部位に当たることで蓄積される部位破壊ゲージが一瞬で溜まり、マチェットを握る腕が落ちる。
「グオオオォォォ」
「うるさいわね。たかが片腕が飛んだだけじゃない」
煙の中から歩み出てきた少女は不敵な笑みを浮かべ、右手にFN F2000、左手にGLOCK17を握り、赤と青のオッドアイは両目とも血のように真っ赤に光り輝いている。
腕を飛ばされたオークは顔を怒りに染め左腕や足で攻撃を繰り出してくるが、マチェットでの攻撃がなくなったことによりリーチが短く、余裕を持っての回避が可能で、徐々にこちらの攻撃によってHPが減っていく。
「あら、先ほど浮かべてた余裕はどこにいったのかしら。怒りに任せた攻撃なんて当たらないわよ」
煽られているのを理解したのか大きく振りかぶった左腕を地面に叩きつけてくるが、単調な攻撃は簡単に避けることができ、ポーチから取り出した手榴弾を顔面に向け投げ、爆発を確認して振り下ろし地面に突きたてられた腕を駆け上がり、2つの銃口を至近距離から顔に発砲する。
近距離で放たれた弾は外すことなくすべて当たり、オークのHPを削りきるとポリゴンとなって消滅し戦闘を終えた。
「なかなか楽しかったわよ。でも、私には及ばなかったみたいね」
装備を仕舞い現れた扉を開き外に出ると、まばゆい光と共に開けた草原が広がっている。目の前に青白い透明な壁が広がっており、近づくとシステムメッセージが現れ、視線を移して内容を読むとこう書かれている。
《鬼の洞窟クリアおめでとうございます。あなたが一人目のクリア者となり、システムアナウンスでプレイヤーネームを発言させていただきます。また、ささやかではありますが最初のクリア者であるあなたに運営よりアイテムを送らせていただいたので、後ほどご確認ください。なお、メッセージが出現して5分後にエリアを解放させていただきます。》
読み終えメニューからメッセージを確認すると、運営からメールと一緒にアイテムが送られてきている。中身はおめでとうという内容のメールにスキルチケットが添付されており、取得を選択するとアイテム覧にアイテムが送られる。
ボス戦の戦利品を整理していると目の前の壁が消え先に進めるようになり、少し離れたところに町があるのが見える。
「よし、とりあえずあの町まで行こう」
私は町に向かい歩みを進める。先ほどの戦闘の途中で見せた雰囲気はなくなっており、瞳は元の赤と青のオッドアイに戻っている。
移動しているとシステムアナウンスで私の名前が紹介される。嬉しいけど恥ずかしさがすごいな。
道中は敵に遭遇することもなく町に着くとそのままログアウトし、いつものルーティンを済ませて眠りについた。