第九十一話 何があった?
「えっと……ッスね……」
船の甲板で、一人を中心に群れが形成されている。実質、俺もその群れの中に入っている。つうか、俺をこの場所に追いやった主犯兼トカゲ男兼ラーズが言葉を発していた。その姿はまるで不慣れな演説をしているのを観ているかのような不安でいっぱいになる。
「と、とりあえず頑張ろう!」
ラーズがそう言って意気込みを見せた。……意気込みだけは。
「でー作戦ってなんすかー?」
集団の中からそんな言葉が投げ掛ける。……確かに、船をいくつも用意して作戦がないのは考えづらいよな。殆ど全員がラーズに注目し、ラーズは何故かタジタジになっている。
「ええと……それはすね…………」
戸惑いを見せ、何をどう言おうかと迷っているようだった。……本当に大丈夫かコイツ? 俺はラーズの野郎を見ながら更に不安を募らせていく。
「と、取りあえず、行こう!」
「は?」
……数人、呆気に取られたような言葉を口にする。まさか、作戦が真面目に無いのか? 待て待て待て……じゃあなんで戦闘員分けたんだ?
「おい、トカゲ。うっ……まず、この戦いでの船は何隻あるんだ?」
こりゃあ、質問していくしかない。酔いを我慢して、どんな作戦なのかをハッキリとさせておきたいからだ。……これで真面目に作戦無しとかだったら、この大規模戦はかなり厳しいんじゃないか?
「よ、四隻す!」
……聞いたはいいが、役割分担とかあるんじゃ無いだろうか? 連携とかしていくのが大型のモンスターを倒す基本じゃ無いのだろうか? そこら辺を詳しく聞きたいな。
「その船で役割分担は──!?」
突如、轟音と共に、波が激しくなった。……ついでに俺の酔いも激しくなった……。
「うわぁ!? ちょっとちょっとー! こんなに天気荒いとか聞いてないけどー!?」
カートナードが嘆き、俺は姿勢を崩し倒れ込む。もはや、立つことすら困難だろう。……にも関わらず、ラーズと俺以外、普通に二本足で立っている。おかしくね!? 普通こんなん倒れるわ!
「お、おい! アレを見ろ!」
戦闘員の一人が、荒れている海の上を指差し、そしてそれを殆どの者が見始める。それに次いで、俺も海上を見てみた。
……見えたのは黒い影。何本もの、長い脚がウネウネとうねり、その中心に大きな胴体と思わしきものがある。……アイツが、標的なのだろうか……?
【シーラウディ】
「ッ───!」
巨大な雄叫び……その声が、叫びが大気を揺らし、空気を響かせ、俺の感情に焦りを埋め込む。……いけるか? 大丈夫か? こんなグダグダな形で大丈夫なのか?
幸い、まだ少し距離はある。とりあえず、あの脚には当たりはしないだろう。そう思ってシーラウディという魔物を見ていた。すると、ギョロッとソイツの目が見開き、こちらを向く。巨大な牙の生えている、大きな口を開きながらコチラを向いている。
刹那────
「ッ────」
声にならない悲鳴を俺は上げる。目を開けることさえ許されず、激しい痛みだけが体を襲う。何が……何が起きた?
HPが見ると6割を切っていた。おかしい……おかしすぎる。あの一瞬で何があった……?
「ガボッ──!?」
突如、何かに叩きつけられ、息が出来なくなる。目を恐る恐るあけてみると、いつの間にか水の中にいる。……船は? カートナードとかはどうなった? 俺は海面へと上がり、呼吸を整える。……が、海が荒れてしまっているので、海面と海中を行ったり来たりだな。
「船は…………?」
ここから見ると、三隻は存在している。……が、逆にそれしか存在していない。四隻あるって言っていたハズだ。まさか、何処かの船が沈没……やられたっつうのか?
「あっぷ……!?」
流石に波が激しい。すぐに海中に引き戻されてしまう。……すると、海中の中に、だらし無く項垂れた……トカゲ人がいた。ラーズまでこっちにいたのか……? 俺はすぐに近づき、そして……。
「ガボッ!?」
口から空気を思わず吐き出してしまう。……ラーズの目は半開きになり、光がない。……さらに、驚いたのが、体の左側が……
ないのだ。
なんだ……? なんだっつうんだ!? 何が……何があった!? 答えはもう分かっている……が、理不尽過ぎる。こんなの。
「……」
あんな一瞬で遠距離攻撃……? ふざけてる……こんなの、ふざけてる。しかも、俺のHPを四割も削りやがる。そして、何よりもう船がバラバラになってしまっている。こんなの、勝てるわけねぇ……こんなの、勝ち目なんてねぇ……! 俺は海面から顔を出し、ボーッとシーラウディを見ていた。巨大な脚が、船の近くで振るわれる。あんなのに当たれば一撃で船が潰れてしまう。
「おーぃ! やーっぱ生きてやがったなー! メイ!」
荒れた海から、声が聞こえる。普通、聞こえるハズがないのに、俺はキョロキョロと辺りを見渡す。すると、小さな影がゆっくりとこちらに近付いて来る。
「……カートナード……か……?」
「ふぅー! ようやく生き残りみーっけたぜー! 皆死んじまってて、困ってんだわー」
ふぅーとため息を吐きながらカートナードが言っていた。もしかすると、俺ら以外に生き残りがいないのか……?
「いやぁー! コイツは厳しいなー! 何せ一撃で船のヤツらほぼ壊滅だし」
「お前はなんで生きてんだ……? 他のヤツらはいねぇのに……」
「そんなもん、防いだからに決まってんじゃん」
……カートナードがもはや、人間ではないアクションを起こしていた。あの一瞬の間で、盾を構え、攻撃を逸らしたらしい。……コイツ、マジですげぇな。
「……さて……どうするかね……」
真剣な表情にカートナードは変えた。実の所、本当に厳しいのだ。船は一隻消え、残り三隻潰されるのも時間の問題だろう。
「まずは、船に乗り移るか……リドルグの乗っている船がベストだろうな。アイツなら脚を逸らして攻撃をかわしているハズだからな……。他は攻めで、如何にリドルグに矛先を向けさせるか……か」
「……あんな攻撃を逸らす……のか……」
「流石に、あんな勢いのある水流は逸らせねぇけどなー」
……見えてたのか!? って攻撃を防いだとか言ってたな……。
「行くぞーメイ。リドルグの船に乗り移るんだ」
カートナードの後ろを俺はついていき、恐らく、リドルグの乗っていると思われる船へと向うのだった。




