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第九十八話 いかれてる

「……ッ……んだよ……?」


 何故、罵倒を浴びさせられたんだ? 俺には皆目検討つかん。短気の俺がまだイラついていないのは幸運と言うべきか……。俺は平手打ちされた左頬を撫でながら、無意識に女を睨みつけていた。


「遺体……だと!? この人をそんな風に呼ぶなッ!! 何処に運ぶ……!? この人はあたしが弔うんだッ!! あんたには関係ないッ!!」


 フーッ! っとまるで威嚇する獣のように女は言ってくる。それも、男の盾になるようにして。


「ど、どうしたの? メイさん?」


 俺が女の行動に少しだけイラつきかけていると、女の大声を聞きつけた人達がワラワラと野次馬のように集まってきた。


「……さぁーな。知らん」


「ええ……それじゃあ……あなたはどうしたの?」


 俺がそっぽを向くと、ティナは苦笑いして、女に問い掛ける。女はその問い掛けに、大声で叫んでいた。


「アイツがッ!! あたしからこの人を奪おうとしたッ!! この人を遺体だと言ったッ!! 怒るならそれだけで充分だろッ!!」


「そういうもんか……?」


 あんまり、ピンと来ない俺はポリポリと頭を掻いている。死んじまったら死んじまった。それだけじゃないのか?


「失ってないから分からないんだッ!! 大切な人が奪われ、貶されたら、お前だって怒るだろッ!!」


「失って……貶させる……」


 ……その言葉に引っ掛かり、少しだけ考えてみる。


「メイさん……謝った方が……」


 ティナの言葉が少しだけ聞こえたが、俺は無視する。……ほんの少しだけ、考える。……ティナが死に、そして、馬鹿にされるのを。


「……ッ!」


 なんだこれ……なんでこんなに……胸が重い……苦しい……ゾクッと寒気がして頭を抱えたくなる……。


「だ、大丈夫? メイさん……」


 ……なるほどな……。確かに、少しだけ分かった。しかし、実際に起きたらこんな風に冷静に考える……なんて出来っこないだろう。


「……すまん……悪いことをした」


「……ッ!! あたしとこの人は……ほっといてくれ……!」


「……すまん」


 俺は頭をかかえ、その場を立ち去る。


「……ッ」


 この、胸が張り裂けるようなものはなんだ……? ギュッと胸を鷲掴みにして、しないはずの痛みに耐えていた。……ティナが失ったら……? そう思うとますます胸がもやもやと、謎の痛みが積み重なった。


「守れなかったら……これが来る……」


 小さな声でそう呟く。


「……メイさん……顔色悪いよ?」


「……大丈夫だ……それより、リーダーの役目、して来い」


「う、うん」


 俺よりまずは、報告することの方が先だ。ティナはここから離れ、皆を集める。……俺は、なんか、上を見ていた。


「……なんなんだよ」


 こんな自体で上を向く余裕があんなら、それ程深刻じゃねぇんだな……。そう自分で皮肉ってみたが、動きたくない。ふと、ティナの声が聞こえてきたような気がした。……なんだか、うまく聞き取れなかった。


「……」


 無言のまま、何を考えているのか分からないくらいに、心がグチャグチャになっていく……。


 ・


 ・


 ・


「…………たす……て」


「……」


 ……いつの間にこんなボーッしていたんだ? 何やら皆、慌ただしくしている。それに、先程……耳に入った小さな言葉……それが一番気になった。


「ティナもしっかり指揮とってんだな」


「……や…………い……や…………」


「なんなんだ……さっきから、この耳に入ってくる声……ッ!!」


 慌ただしい、作業の音ならまだ許せる。小さな声なのに、なぜかスッと耳に入ってくる音が気に食わない。俺は音の原因を探ろうとして、辺りを引っ掻き回そうとしていた。取り敢えず、集中して、先程の音を拾おうと試みる。


「……し……ろ……!」


 ……船の中……っぽいな……。俺は、甲板から船の内部に入る扉を開き、そこに侵入する。……暗いな。電気つけろよ……ってねぇよな。鉱石もねぇし。


「ったく……通りで中を使わねぇわけだよ……」


 怪我人を外に放っているのは何か悪気がある訳じゃないんだな。安心した。しかし、さっきの声の正体は何だったんだ……?


「……」


 集中しても、何も聞こえない、何も感じない。


「気のせい……だった……か」


 聞こえてきたのは質の悪い、空耳だったらしい。俺は用もなくなったこの部屋から出ようとすると……、


「……ッ!」


 突如、首をガシッと……絞められるような感覚に陥る。


「……んだ……ッ……! て……めぇ……ッ……!」


「皆、どうせ、死ぬんだ、どうせ、皆、消えるんだ」


「はな……せぇ……ッ……!」


 感覚じゃねぇ……! マジで絞められてる……!! 俺はガッと首を絞めているものを掴み、外そうと試みるが……びくともしない……!


「ッ……!! ぁッ……!!」


 ……冷静になれ……首が絞まるのを辛うじて抑えてる中で、冷静になれ……。相手は人間……幸い、凶器を使ってHPを減らす事はしてきていない……!


「だから、俺が、殺して、あげるんだ、皆、殺して」


 かかれよ……一瞬でもいいから、少しでも、力を緩めろ……!


「ッ……まひ……の……ちか……ら……やど……れ……! ぱら……らいず……ッ!」


 必死に詠唱を行い、パラライズを使う。ガシッと、絞められてる首を引き剥がそうとすると、力が弱まってスルッと体が抜ける。


「ゲホッ……ゲホッ……」


「俺が、お前を、殺して、そして、死ぬんだ、だから、死ねぇえええッ!!」


「ゲホッ……男と心中なんて、するかよッ!!」


 第一印象が、目に光がない、死んだような男。焦点が定まっていない、生きた屍。ソイツが刃を俺の喉元を狙い、振り回してくる。それを俺は転がるようにして避けて相手との距離を取った。


「死ね、喰らって、死ね」


「死ね死ね死ね死ねうるせぇんだよッ!!」


 人間相手に時間を取ってられねぇんだッ! あの化け物を倒す方が先決だろうがッ!! ギリッと奥歯がかち合うような音がして、自分がイラついているのを感じ取った。


「お前、死ねッ!!」


「……ッ!! もうイラっときた……! 覚悟しろ……イカレ野郎……ッ!」


 抜くべきない時に短剣を抜き、俺は相手を切りつける。ガリッと、相手の防御を超えられない音がして、攻撃が入らなかった。


「死んで、くれ!」


「嫌だわボケッ!!」


 再度、今度はダウンガードを付与して切り下ろしを行った。すると、次は鈍い刃物のように相手の左腕に突き刺さり、攻撃できるにはいいが、抜くのに少し時間がかかってしまう。


「っち……!」


「ッ……許さ、ないッ!!」


 短剣が思うように抜けず、相手が攻撃してきたので、突き刺したまま、その攻撃を避ける。……なんで人と戦ってんだ……ッ! クソッ! めんどくせぇッ! ダウンガードを連発、相手に当て、短剣を豆腐に突き刺すかの如く、押し込む。


「……ッ」


 血は出た。左腕は切った。なのに、動いてくる。


「あは、ははは……ッ!!」


「……いかれてる……お前……!」


 目を閉じ、俺はコイツの首を掻っ切ろうと、短剣を振るった。……次の瞬間、目の前が黒く赤い液体に覆われ、顔に掛かったものは自分の手で拭う。


「……おま……え……し」


「一人で死んでろ……」


 ふぅ……と一息ついた俺は、キョロキョロと辺りを見渡していた。

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