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涙の上に  作者: ぬるま湯
34/34

34(最終話)

 最終話です。ここまで読んで下さった方々ありがとうございました!

  大きな手が、後頭部を撫でる。何度も何度も、あやすように。驚きと緊張で息が止まるように思ったが、胸に顔を押し付けて身を任せるうちに、心が静かになってきた。

 いつまでそうしていたかわからない。いつから自分が、彼の背中に手を回していたのかも。


「まり、それ、反則」


 言われて始めて気がついた。途端、顔が真っ赤になるのが自分でわかるほど熱くなり、あわてて陸斗さんから離れた。

 ん?   ……反則って、どういう意味だろうか。むやみに抱きつくなとかいうルールでもあったのかな。いや、ないよね……。

 あ、まさか……いやいや、それはない。絶対ない。そんなんだったら苦労しないし。だいたいそれは自惚れだ。思い付いた推測を頭から消す。


「まり」


  また陸斗さんがあたしの名前を呼んだ。さっきとは違って、いつもの悪戯っぽさのある目だ。は

あ、またなんか言われる。仕方ないか、うっかり自分から抱きついたんだから。


「この間、間違えて酒飲んで酔ったとき、まりは覚えてないだろうけど……俺のこと好きとか言って

た」


 絶句した。そんなことを言ってしまったのか。まずいどころじゃない。同居してる親戚に告白とか、気まず過ぎてこれからやってけない!!


「うそっっ!!!   や、そんなの……嘘でしょ?  嘘だよね、そうやってあたしで遊ぶのが楽しいんでしょ」


 そうだ、彼が面白がって嘘をついてるっていう可能性もあるだろう。あっさり認めてしまっては彼の思う壺だ。

 しかし陸斗さんは、悪戯っぽい目をとろけてしまいそうに甘く優しい目に変え、あたしを真っ直ぐ見てこう言った。


「嘘じゃない、それにまりなら大歓迎。悪いけどもう逃がす気ないから」


「…………」


 きっと、これは夢だ。こんなことあるはずない。起こるはずない。陸斗さんの口からこんな言葉が出るはずない。


 でも。

 もし、本当なら? 本当なら、願ってもない。これ以上のことはーーない。


  信じて、この一瞬の喜びだけを噛みしめるの

も、決して悪くはない。


「……本当に本当?」


「じゃあもうちゃんと言う。好きです」


  ずっと夢に見た言葉だった。手の届かないものだとわかっていた。でも今目の前で、その夢が実現するところを見て、どうして喜ばずにいられるだろうか。無意識のうちに頬がゆるみ、笑顔になっていた。


 やわらかく温かいものが唇に触れた。それが何か理解する前に離され、しばらくぽかんとする。ようやく気づいたとき、声にならない声が出た。


「~~~~!!!??」


「ぷっ、やっぱまりは面白い。でも遊んでるわけじゃないから。なんつーか、いじらずにはいられないというか……まあ、そういうわけ。あと、これって両想いだよな?」


  まだ混乱がおさまらないけれど、答えを求められ、頷いた。しっかりと。




 これまで数えきれないほど涙を流した。


 でも彼といれば、悲しみや苦しみで流した冷たい涙は嬉し涙で温められるだろう。


 返したい。貰った温もりの分だけ、同じ温もり

を。








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