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「……悪かった。ごめん」
「な、なんで?」
わけがわからない。だってこの人はさっきまで、誰だか知らないけど明らかに自分との間に何かがあった女の人が泣いているのにただ迷惑そうな態度をとっていたのだ。
その人が、こんなに慌てる?
栗色のくせ毛をわしゃわしゃかき回しながら困ったように謝る彼を見つめることしかできない。
一呼吸おいて、陸斗さんが口を開いた。いつものだるそうな表情だけれど、目に何か真剣なものがあった。
「泣かせないって決めてたから」
頭の上で飛行機が通る音がする。一つ向こうの道を車が去った。騒がしい音の中、その声だけが染み渡るように聴こえた。
呆然と立ち尽くすあたしに、低くて優しい声がまた降ってくる。
今度はもっと信じられなかった。
見たこともない表情。ニヤッと薄く笑った氷のように冷たい、でもとびきり色気のある顔で言った。
「でも、いいな。泣き顔もかわいい……泣かせてみるのもアリだな」
へ?
ちょっ……、い、いやいやいやうそでしょ!?
何言ってんのー!!??
膝の力が抜けてぺたんと地面に座ってしまった。
うそだーーこんなの、夢だよ。こんなことありえないし。何なのこの状況!?
それに、陸斗さんはこんな人じゃない。何かの冗談だ。
こんなの陸斗さんじゃない。陸斗さんはもっと物静かで穏やかで、時々優しい素敵な人なのに。
こっちが、本性、なの…?




