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ードカーン。ザクッ。ダダダダッ。
擬音で表すとこんな感じだろうか。
絶え間なく飛び交う炎や雷。
それとともに鳴り響く衝撃音で辺りは埋め尽くされていた。
焼け焦げた匂いが、喉の奥に張り付いて離れなかった。
視界の端で、炎が揺れている。
地面に倒れた誰かの腕が、炭のように黒く崩れていくのが見えた。
空気は熱を孕み、呼吸のたびに肺の内側まで焼かれていくようだった。
ここは、もう戦場と呼べる場所ですらなかった。
ただの地獄だった。
耳鳴りの奥で、雷鳴のような轟音が幾重にも重なる。
いや、あれは本物の雷だ。
空から落ちてくるのではない。
人の手によって放たれた雷撃が、空気を裂き、地面を抉り、命を奪っていく。
炎と雷が、夜を昼のように照らしていた。
それでも空は、やけに暗かった。
「俺は……まだ、やれる」
自分の声が、やけに遠く聞こえた。
足に力を入れようとして、初めて気づく。
膝が震えている。
いや、震えているのは膝だけじゃない。
全身が、自分のものではないみたいに軋んでいた。
それでも、倒れるわけにはいかなかった。
まだ、終わっていない。
誰かの叫び声が、すぐそばで途切れた。
振り向くより先に、熱が背中を掠める。
反射的に身を低くすると、頭上を炎の塊が通り過ぎ、遠くで爆ぜた。
遅い。
反応が、明らかに鈍っている。
舌打ちをした、その瞬間だった。
胸の奥に、何かが突き刺さった。
衝撃は、ほとんど感じなかった。
ただ、呼吸が止まる。
心臓の鼓動が、妙に大きく耳の奥で響いた。
視線を落とす。
そこには、光を帯びた槍のようなものが、自分の胸を貫いていた。
「……あ、」
間の抜けた声が漏れる。
血が、遅れて溢れてきた。
温かいはずなのに、どこか冷たく感じる。
指先から力が抜け、握っていたはずの武器が音もなく地面に落ちた。
痛みは、なかった。
ただ、ひどく静かだった。
世界から音が消えていく。
いや、違う。
自分が、世界から切り離されていくのだと、ぼんやり思った。
膝が折れる。
地面に崩れ落ちる寸前、誰かの名前を呼ぼうとした気がした。
声には、ならなかった。
「——おい!」
代わりに、別の声が耳を打った。
聞き慣れた声だった。
無理やり顔を上げる。
煙と炎の向こう、揺らめく空気の先に、一人の影が走ってくるのが見えた。
「……なんで、来たんだよ」
かすれた声が、自分でも驚くほどはっきり出た。
影は、迷いなくこちらへ向かってくる。
足取りはふらついているのに、止まろうとはしない。
その無茶な動きが、どうしようもなく見覚えのあるものだった。
「なんでって、置いてけるわけねぇだろ!」
叫び声と同時に、雷光がその背後で弾ける。
空気が裂け、閃光が視界を白く塗り潰した。
その一瞬。
影の身体が、大きく揺れた。
次の瞬間、何かが弾ける音がして——
その胸に、黒い穴が開いた。
「……っ」
息が、詰まる。
時間が、止まったみたいだった。
彼は、一歩、また一歩と前に進もうとして、しかし足がもつれた。
体勢を崩し、地面に手をつく。
それでも、顔を上げる。
こちらを見る。
笑っていた。
「……間に、合ったな」
そんなわけがあるか、と言いたかった。
声は出なかった。
彼はそのまま、こちらへ倒れ込むように近づいてくる。
伸ばされた手が、血に濡れた自分の肩に触れた。
温かかった。
それが、妙に現実的で。
「……馬鹿、だな」
ようやく絞り出した声は、自分でも聞き取れないほど小さかった。
「お互い様だろ」
返ってきた声も、同じくらい弱かった。
二人分の血が、地面に広がっていく。
炎の光が、それを鈍く照らしていた。
遠くでまた雷が落ちる。
だがもう、その音はどこか別の世界の出来事みたいに感じられた。
身体が、重い。
まぶたが、落ちる。
それでも、最後に一度だけ、空を見た。
煙に覆われた夜空の、その隙間。
南の空に、丸い月が浮かんでいた。
満月だった。
あまりにも静かで、あまりにも綺麗で。
こんな場所には、似つかわしくないほどに。
「……覚えてるか」
誰の声だったのか、わからない。
「……ああ」
答えたのが自分だったのかも、わからなかった。
ただ、その光だけが、やけにはっきりと見えていた。
次の瞬間、すべてが闇に沈んだ。




