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第一幕  作者: センゴアキ
第一章

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第六話 村の真実(後編)

※残酷描写有り

閲覧には気を付けて下さい

第六話 村の真実(後編)

「やめて!」


その瞬間、少し離れた所から、聞き覚えのある声が聞こえた。

男は思わず棍棒を持つ手を止め、声の方へと顔を向ける。


そこには——リーサが立っていた。いや、リーサだけではない。その奥の方へ目を凝らすと、オリストロの街で見た何人かの人が、こちらに向かって走って来ていた。


「ラオ!街の人達をここへ呼んできたわ!

それと、調査隊の方に救援要請を出したから、もっと人がたくさん来る!」


それを聞いた瞬間、男は大きく舌打ちした。


「クソッ、最悪だ……。人が来てこの村の事をあちこち調べられたら、俺達が今までしてきた事が全部バレちまう……!」


男は地面に倒れていた少女の体を掴むと、その肩に抱き抱えた。

それに抵抗しようとラオが腕を伸ばすが、男はもう一度ラオの背中に棍棒を振り下ろす。


「ぐ……っ!」


背中に鈍く、重い痛みが走り、ラオはうめき声をあげる。

そんなラオを踏みつけると、男は少女を抱き抱えたまま、村の奥へと走り去っていった。


「ラオ、大丈夫!?」


リーサが駆け寄り、ラオに声を掛ける。


「いや……、俺の事は……いい……。それ、よりも……早く……あの子の所へ、行かないと……!」


ラオはそう言うと、節々が痛む体を無理やり動かし、その場で立ち上がった。

そして、男が走り去っていった、村の奥の方を目指して走り出す。


「ラオ!」


リーサはそんな彼に声を掛けるが、ラオは聞く耳を持たず、痛む体にむちを打って、全速力で駆けて行った。


(頼む……!間に合ってくれ……!)


足はよろめき、ふらつき、最早走れる状態でもなかったが、それでも何がなんでも走らなければならなかった。

視界の奥に見える男の姿を見失わないようにしながら、ラオは必死でそれについて行った。


——と、男が立ち止まり、彼の目の前にある白い覆いの掛けられた、大きなテントのような建物に男は入って行く。

少し遅れて、ラオも男と同じように中へ入って行った。


「……大狼様、お待たせしました。ご希望の人間です」


その部屋の中心から、そんな声が聞こえる。


ラオがその声の方を見てみると、そこにはあの男がおり、そしてその腕で持ち上げている少女を、『何かに対して』かかげていた。


その男が見ている視線の先には————真っ黒い毛の生えている、大きな獣が居る。


その獣はグルルと喉を鳴らすと、かかげられている少女を前足でつまみあげ、それをじっと見つめた。

少女の体は軽々と持ち上げられ、その体は力無くぶらりと空中で垂れ下がる。

すると、それをかかげていた男に対して、その獣は口を開いた。


「……たったこれだけか?」


「えっ?」


男が焦ったように言う。


「し、しかし……、これでも我々が用意できる物としてはこれが精一杯で、最近はもう人をさらうのにも皆警戒してしまっていて、とてもではないですが新しく獲物を連れてくる事自体が難しいのですよ。

ですから、どうかこれで許して下さいませんか?つ、次は必ずたくさん食べられる人間をご用意しますから、ですから……!」


「ハァァ……」


獣は、今度は息を吐いた。その口元からは真っ白で鋭い歯が見え、その所々に赤茶けた、血のようなシミが付いている。


「次ダメだったら、お前を食う。いいな?」


「は、はい勿論でございます。それでその、お願いがあるのですが……。

実は今、外から人間達が我々のしている事を止めようとたくさんやってきているのです。そこで大狼様の力で奴らを殺して頂けませんか?

そうでもしないと、我々が奴らに殺されてしまうんです。そうなると、あなた様も困りますよね?

ですから、どうかお願いします……奴らに、あなたの力を見せてやりましょう!」


「ほう、今外にはたくさん居るのか……」


大狼はじゅるりと舌舐めずりをする。


「だが、そんな物に興味はない。俺は知らん。お前達でどうにかするんだな」


「そっ、そんな、大狼様……!」


男は懇願するかのようにその獣に言う。

その時、ラオが彼らの前へと出てきた。


「……っ!お前ついて来てたのか!」


男はラオの姿を見るなり驚愕の声をあげる。


「くそっ、見られた……!

お、大狼様、奴を殺してやって下さい!ここまで来ていたら、もう殺すしかないでしょう!だから」


「邪魔だ、どけ」


そう言うと、そこに居る黒い獣は、男の体を前足で弾き飛ばした。男の体は宙を舞い、壁に激突する。


「か、かひゃ……なん、で……」


男は壁からずるりと床に落ちると、そのまま何も言わず気絶した。

黒い獣はグルル、とまた喉を鳴らす。


「ここに居る人間のガキなんぞより、お前の方が食べ応えがありそうだ」


獣は歓喜に満ちたうなり声をあげると、少女の体を放り投げ、目の前へとやって来た、新しい獲物であるラオの方を見た。少女の体は地面へと落ち、相変わらずピクリとも動かずその場で倒れ込む。


すると大狼はその大きな前足を、ラオの体へと伸ばしてきた。ラオはその瞬間、真横に置いてあった大きな剣が立て掛けられている棚の陰に隠れ、これを間一髪で避ける。

ラオが居た真横にある壁が、その前足の鋭い爪に当てられ、その部分が大きく引き裂かれた。それを見て彼の顔が青ざめる。


(少しでも当たるとまずい……。だが、これを使えば……)


ラオは棚から剣を持ち出すと、またその爪を棚へと伸ばしてくる大狼の前足目掛けて、その剣を突き立てた。

剣は命中し、その大狼の前足の、爪と爪の間に見事に突き刺さった。が、しかし件の大狼はそれに全く痛がるそぶりも見せず、またもう一度、今度は反対側の足をこちらへと伸ばしてくる。


(足では効かない……?なら……!)


ラオは剣を引き抜くと、こちらへと伸ばされてきている、もう一方の前足をその場でかがみ込んで避けた。

そしてまた、同じように足の先へと剣を突き刺す。


——しばらくそんな攻防を繰り返し、前足が振りかざされたらラオが避け、また伸ばされてきたら剣をそこに突き立てるといった事を、二体の生物は何度も繰り返していた。


「グルルル……!」


なかなか掴むことができない、目の前にいる獲物に大狼は段々苛立ってくる。

すると大狼は、自身が座っていた台座から降り、ラオの元へと走り寄ってきた。ドタドタと、その体重によって踏んだところの地面が大きく音を鳴らし、へこむ。

ラオの目の前まで近づくと、ラオの体よりも大きな前足が、ラオの体目掛けて振り下ろされる。

ドン、と轟音が辺りに響き、振り下ろされたその周辺に土ぼこりが舞った。

捕まえたと、大狼は歯を見せて、ニヤリと笑う。

が、しかし——


「?」


何も無い。そこには、誰も居なかった。


「……」


獲物はどこへ行ったのかと、大狼は黒く大きな耳をそばたて、ギラリと光る大きな目をその周囲へと向ける。


すると舞っていた土ぼこりの中から、一瞬の隙を付いて、ラオがその剣を大狼の喉元に突き刺した。


「ギイイイイイイイ!!!」


大狼は悲鳴をあげ、首に突き刺された剣を抜こうと必死でその前足を伸ばす。

しかしラオはそれと同時に、剣を更に喉元の奥へと押し込んだ。するとその時、何か、硬いものにその刃先が当たる感覚がした。

その瞬間大狼は小さくうめき声をもらすと、ぐらりとそのまま横へと倒れ込む。


大狼は力無く息をもらすと、その場からピクリとも動かなくなった。


「ハア……ハア……」


動かなくなった大狼を横目に、ラオは奥へと放り投げられて倒れている少女の元へ駆け寄った。


「今……、リーサの元へ……!」


ラオはぐったりと動かないままの少女の体を担ぎ上げる。ここから離れて、村に来ている人達と合流してから少女の手当てをしようと、その建物の入り口へとラオは向かった。するとその時、


「ラオ!」


そう言いながら、リーサが建物の中に入ってきた。

彼女は、建物の中で倒れている黒い大きな獣を見て、目を丸くする。


「リーサ……!」


ラオはそんなリーサの元へ駆け寄ると、少し安心したように彼女へと声を掛けた。


「リーサ、この子の手当てをしたい。

どこか安全に治療ができる場所はないか?」


「え、ええ。今村の真ん中で、街の人達や、やって来た調査隊の人達が集まっているわ。そこなら安全だから、その子を連れてそこへ行きましょう」


建物内の状況に驚きつつも、リーサは力強く答え、ラオをその場所に案内しようと彼を先導する。


二人は建物から出て行くと、なにやら人だかりができている村の真ん中の、木で出来たオブジェクトの元へと向かう。そこには、街の人以外に、迷彩柄のような服を着た人々が何人も居た。

二人はそこへと着くと、少女を下ろし、その場所で寝かせた。

周りからは調査隊の人や、街の人々が何かを話しているのが聞こえてきており、そんな中、二人は少女への手当てをしようと、その為の道具の準備を始める。

ラオはリーサが背負っていたリュックを彼女から受け取り、そこから救急キットを取り出して地面へと置いた。

ラオはさらにそれを開け、その中にある道具を一つ一つ取り出していく。

そんな彼の横で、リーサは少女の体を見ようとその全身を隅々まで見渡していった。


「……?」


その時、ふと、リーサは少女の体に違和感がある事に気づき、その手を少女の口元へと当てる。


——息をしていない。


「……!」


リーサの中に、一瞬絶望が押し寄せてくる。が、しかしそんな感情に浸っている暇などない。なんとかして呼吸を復活させようと、彼女はその少女の首を持ち上げた。その時、


——何か、おかしい。少女の首の後ろ側、手に触れているところが、ひどく濡れている気がする。

その濡れている所は冷たく、なんだか少しぬめりもあるような気がした。

リーサはそれを変に思い、首の後ろ側を見ようと、おそるおそる少女の首を持ち上げ、その裏側を見た。


「は……っ!?」


『それ』を見て、リーサは絶句する。


その横でラオが、救急キットの中に入っていたガーゼと包帯を手に持ち、少女のそばへと寄る。


「これでもう大丈夫だ。今助けるから……」


彼は少女に優しく語り掛けようとした。が、その時彼はリーサの様子がおかしい事に気づく。

彼女は少女の首を持ったまま、動こうとしない。そんなリーサを不審に思って、ラオは彼女に声を掛けた。


「……どうしたんだ?リーサ」


リーサは何か、信じられない物でも見たような表情で、声を掛けた、ラオの顔を見る。


「ラオ……」


リーサはそう言うと、一筋の涙をこぼす。

そうして彼女は少女の首を浮かせると、その首の後ろ側をラオに見せた。


「あっ……!?」


ラオはそれを見て絶句する。


首の後ろには、赤黒いものがべったりと張り付いていた。血の、塊が、『それ』が。


——いや、違う。『張り付いている』のではない。

よく、注意深くそれを見てみれば、そこの部分は『へこんで』いた。

そして、その奥には白っぽい何かが見え、周りは赤黒く、明らかに皮膚の色でない物が、そこには見えていた。


————少女の、首の後ろの肉は『えぐれ』


そして、


そこからは、




白い——骨が見えている。




それは明らかに、




『もう、助からない』——






そう、思ってしまった。いや、そう思わざるを得なかった、『これ』は————。


彼は縋るような思いで、リーサのことを見る。


リーサは、静かに首を横に振った。


それがラオに、信じたくない事実を突きつける。


「そんな…………!」


彼は力無く項垂れた。


(俺の…………、俺のせいだ………………!)


ただ、ひたすら後悔の念が押し寄せ、あの時、昼間見たあの少女の顔が、ラオの中で何度も浮かび上がる。


(俺は『あの時』、助けることができた……はずなのに………。

だと、いうのに………っ!)



————生きていて、欲しいと



そんな願いも、



叶わず、



彼は——————



「…………っ」



その頬に一雫の、涙がつたり



それは静かに



下へ、



――――落ちた。

鬱展開耐えたら仲間増えて物語も明るくなります

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