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第2話:欠片を繋ぐ午後

放課後の図書室は、いつもより静かだった。窓の外では夏の名残の風が校庭の木々を揺らし、紙の匂いとわずかな木の香りが漂う。


「じゃあ、最初の欠片はここからだね」


赤いカーディガンの先輩は、机に広げた本を指でなぞりながら言った。その指先が揺れるたびに、一華の胸も微かに揺れる。


「最初の欠片……って、誰のですか?」


先輩は目を細め、少しだけ笑った。

「放課後に校庭で泣いていたあの子の一時間。誰にも言えなかった、伝えられなかった言葉が消えたの」


一華は息をのんだ。欠片――それは、ただの時間の抜けではなく、心の欠けた部分でもあるのだ。


「どうやって戻すんですか?」


「感じるの。残響を。消えた時間の空気、気配、声――小さな欠片を拾い上げるようにね」


先輩はそう言って立ち上がり、窓際に座る一華の手をそっと取った。

「目を閉じて。心の耳を澄ませて」


一華は息を整え、目を閉じた。心の奥に、かすかなざわめきが届く。

まるで小さなガラスの破片が、どこかでチリンと鳴ったかのような感覚――それが欠片の残響だと、一華は理解した。


「……あ……声?」


かすかな声が、耳の奥で震えた。泣き声ではなく、言えなかった言葉。

「ごめん……ごめん……」


「そう、これだよ」


先輩の声が優しく重なる。一華はその残響に手をかざすように心を重ねた。


気がつくと、図書室の空気が微かに揺れ、消えていた一時間の記憶がゆっくりと戻るのを感じた。

校庭で泣いていた少女の表情が、記憶の中で静かに変わる。寂しさが少し和らぎ、肩が軽くなったような気がした。


「戻った……んですね」


「うん。でも、覚えていて。欠片を戻すということは、痛みも一緒に戻ること。だから、誰かを助けるときは覚悟がいるんだ」


一華は小さくうなずいた。心の中に、少しだけ覚悟が芽生えた気がした。


「でも、これ……楽しいです。少しだけでも、誰かの助けになれるんですね」


先輩は目を細めて微笑んだ。

「その通り。欠片は小さな魔法。でも、放課後の光に溶ける魔法だから、いつか消える前に拾わないとね」


二人は、窓の外の夕焼けを見つめる。図書室の奥で、赤いカーディガンが柔らかく揺れた。


「次の欠片は……?」


先輩は少し間を置き、遠くを見るように目を細めた。

「あなた次第。どこから拾いに行くかは、一華の心が決めるんだよ」


午後の光が、二人の影を図書室の床に長く伸ばす。

欠片を繋ぐ放課後は、まだ始まったばかりだった――。

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