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2話 冒険者クロエ


 クロエと旅人、仲よさそうじゃん。

 クロエはルナベルに乗って、旅人と一緒に移動している。

 私はクロエの近くを飛んでいて、ムギも飛んでいる。

 どこに向かっているのか謎だけど、クロエと旅人は終始会話を続けていた。

 よく観察すると、旅人が何か言ってクロエが応える、という構図が多い。

 しばらく歩き続けて、旅人がある建物を指さした。


 その建物には、旅人と同じような格好の人たちが出入りしている。

 浮浪者の集まり!?

 クロエをどうするつもりなの!?

 私は慌ててクロエの顔の前に移動した。

 しかしクロエは「何?」って感じの顔でキョトンとしている。

 旅人が私に向かって何か言っているけど、たぶん「問題ない」とかそういう感じかな?


 クロエもなんか軽く手を振って、「平気平気」みたいな雰囲気。

 ふむ。

 私が気にしすぎたのかも。

 そもそも、私の人生は行雲流水。

 そこが浮浪者の集いであっても何も問題ないっ!

 私はルナベルの頭に着地して、そのまま座り込んだ。


 私が邪魔したせいで立ち止まっていたルナベルと旅人が進み始める。

 クロエが優しく私の頭を撫でてくれた。

 うーん、気持ちいい!

 とか思っていると、旅人がバーンと建物のスイングドアを蹴り開けた。

 乱暴すぎるぅぅぅぅ!!

 聖女のクロエとは性格が合わないんじゃないの!?


 もちろんお淑やかな私とも絶対合わないよこの旅人!

 建物の中に入ると、そこはだだっ広い食堂みたいな感じだった。

 食事をしている人、談笑している人、カウンターのお姉さんと話している人など、みんな思い思いの行動をしているようだ。

 何するところなの!?

 大きい酒場的な場所なのかな!?


 昼間っから酔っ払ってる奴もいるし、なんかここの人たちみんなガラが悪い。

 あと、武装しているけど兵士ではない。

 イケオジたちみたいに装備が揃ってない。

 ここの人らはみんなバラバラなんだよね。

 本当、ここ何?

 私はキョロキョロしているけど、旅人とルナベルはおかまいなしで進む。



「おい見ろよ、ブレンダが子供連れてんぞ」

「いや、お前、ブレンダの子って、リニイ伯爵令嬢だろ?」

「大聖女でドラゴンスレイヤーの!?」

「闇の精霊がいるぞ! すげぇ、初めて見た!」

「小さいドラゴンみたいだな!」

「ガルムの頭にもう一匹いるぞ!」


 などなど、私たちを見て冒険者たちが騒ぎ始めた。

 ふっ……あたしは騒がれ慣れているから、ツーンと澄まし顔を貫く。

 貴族令嬢らしくね!

 ところでガルムって何?

 ルナベルの犬種かなぁ?

 まぁ何でもいいか!


「はぁい子猫ちゃん」


 ブレンダが受け付けのお姉さんに投げキスをしながら挨拶。

 この人、絶対に貴族無理でしょ。

 よくアンジェロと結婚したなぁ。


「ブレンダさん! お久しぶりです! いつ王都に!?」と受付嬢。


「ついさっきさ。あ、こっちはオレの娘のクロエ」


 ブレンダはあたしを顎で示した。


「存じておりますよ、ドラゴンスレイヤーのクロエ様」


 受付嬢があたしに微笑みかけてくれる。

 へへ、なんか得した気分!


「今日は娘を冒険者にしようと思ってさ」とブレンダ。

「まぁ! それは素敵です!」と受付嬢。


 何が素敵なのか、あたしにはサッパリ分からない。

 と、ムギがあたしの頭に乗っかった。

 レアはルナベルの頭の上でキョロキョロしている。

 冒険者ギルドが珍しいみたい。

 あたしも初めて来たから、色々と気になる。


「それではこのカードに触れて、魔力を流してください」


 受付嬢が銀色のカードをあたしに渡す。

 そのカードは掌サイズで、触り心地が良かった。

 あたしは言われた通り、魔力を流す。

 そうすると、カードが光って文字が浮かび上がる。


 わぁ、魔法道具だぁ!

 すごぉい!

 カードには『クロエ・リニイ』とあたしの名前が最初に浮かんだ。

 次に『初段』の文字。


「あ、冒険者は全員、最初は初段だから」ブレンダが言う。「実績でレベルが上がって行くわけ」


「なるほど」とあたし。


 普通はそうだよね。

 あたし魔術と剣術は、計測したらいきなり6段とかだったからね!

 初めての初段、ちょっと嬉しいな!

 まぁ冒険者をやる気はこれっぽっちも、ないけどね!

 だってお小遣いには困ってないもん!


 王様がバカみたいな金額を送ってくれたから。

 半分をリニイ伯爵家の財産にして、残った半分はあたし名義で銀行に預けた。

 その半分だけでも、余裕で10年は暮らせる。

 貴族の生活で10年!

 平民の生活だったら一生暮らせるかも!


「もう登録できましたので、カードの紛失に注意してください」受付嬢が言う。「再発行にはお金が必要です」


 あたしはコクンと頷いた。


「早速、依頼を受けますか?」


 いーやーでーすー。

 あたしが断るより先に、ブレンダが口を開く。


「いや、ちょっと訓練所を貸しておくれよ」

「はい、構いませんよ。ブレンダさんは冒険王ですからね。何でも無料で最優先です」


 受付嬢が笑顔で言った。

 ブレンダって王級なの!?

 すごぉい!

 ブレンダがあたしの頭に触れようとして、ムギがいることに気付いて苦笑い。


「ちょいと娘の実力を確認したくてさ」

「ほえ?」



 建物の裏には野外訓練所みたいなところがあった。

 本当、ここ何なの?

 私はルナベルの頭に座ったまま、流されるままにここにいる。

 その野外訓練所には、木製の剣やら槍やらが多く立てかけてあった。


 旅人が木剣を2本取って1本をクロエに渡す。

 クロエはルナベルから降りて、その木剣を受け取った。

 その様子を、多くのガラ悪い人たちが見ている。

 いつの間にかすっごい人数が集まってる!


 どこから湧いたの!?

 彼らは訓練所をグルッと囲うような感じで立っていて、旅人とクロエがその中心に移動。

 クロエがルナベルに待てと掌を見せたので、ルナベルと私は人々の輪のちょっと前ぐらいで立ち止まった。


 ムギはまだクロエの頭にいるんだけど!

 クロエー!

 ムギのこと忘れてない!?

 それは帽子じゃないよ!


 旅人とクロエが少し距離をおいて向かい合う。

 旅人が木剣の先をクロエに向けた。

 どうやら、2人は対決するみたいだね。

 経緯とかはよく分からないけど、木剣だし遊びみたいなもんでしょ!


 頑張れクロエ!

 私は楽しくなって、ルナベルの頭でピョンピョン跳びはねて応援した。

 クロエが両手でシッカリと木剣を構える。

 ガラの悪い人たちが声援を送る。


 旅人が先に動いた。

 どうやら、【身体強化】は使っていないので、魔法はナシっぽいね。

 旅人の斬撃を、クロエがスルッと躱す。

 そして。


 躱すと同時に旅人の木剣を空へと弾き飛ばした。

 ムギを頭に乗せたまま。

 もはやムギが頭にしがみついていても、クロエには関係ないみたい!

 育てた私が言うのもアレだけど、いい感じだね!



 ブレンダは酷く驚いたような表情で固まった。

 あたしが一撃でブレンダの木剣をぶっ飛ばしたからかな?

 これが剣術8段の実力ってやつ。

 まぁ、あたしの実力かは疑わしいけども!


「は……? 終わり? オレが? 一瞬で?」


 ブレンダは何がなんだか分からない、という様子だった。

 声援を送っていた冒険者たちも、シンッと静まり返った。

 乾いた音を立てて、ブレンダの木剣が地面を転がる。


「クロエ……あんた、8段じゃなくね?」とブレンダ。


 冒険者ギルドへの道のりで、あたしは色々なことをブレンダと話した。

 当然、今の段位についてもね。


「オレ、剣術7段あるんだけど……」


 うーん。

 最後にレベル測ってから少し時間が経ってるし、レアにも改造されてるから、もしかしたら、今のあたしは9段なのかも……。


「すっげぇぇぇ!!」

「さっすがドラゴンスレイヤー!!」

「マジかよ! 冒険王ブレンダが手も足も出てねぇぞ!」


 急に周囲が騒がしくなった。

 と、ブレンダがあたしに近寄って、そしてあたしをギュッと抱き締めた。


「いやぁ、ここまで強いとか驚きだねぇ」

「どうも……」


 だいたいレアのおかげ。


「最強の娘とか鼻が高いよ、オレは! 今度一緒にSランクの依頼受けような!」


 それは遠慮したいよ、ブレンダ。

 あたしは家でお茶会してる方が絶対に向いてるよ!


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