4話 新たなペット
その日、大陸は戦慄に包まれた。
大きな黒いドラゴンが、我が物顔で大陸の空を飛んでいたからだ。
「邪竜が復活したのだ!」と誰かが叫んだ。
「世界の終わりだ!」と別の誰かが叫んだ。
しかし、大陸を震撼させた黒いドラゴンは、そのまま姿を消してしまう。
人間たちは大慌てでドラゴン対策を練り、いやいやまずは邪竜なのか確認しよう、と教皇が言った。
こうして、邪竜封印の地に、戦士たちが調査に向かうのだった。
◇
「ああ、我は……空を飛んでいる……」
クロムギが感慨深そうに言った。
長いことに洞窟にいたのかな?
そんなにケガが酷かったの?
まぁでも、クロムギが嬉しそうで良かった。
ちなみに私はずっとクロムギの頭に座っている。
クロムギはまぁまぁの速度で、縦横無尽に空を駆け巡っていた。
「レア様! 本当にありがとうございます!」
「どういたしまして」
ビックリするぐらい喜んでるじゃん。
もしかしたら、この世界のドラゴンは治癒能力がないのかも?
「ちょっとブレスを一吐きしたいのですが……」
「どうぞ」
私が言うと、クロムギは風と雷が混じったブレスを吐いた。
そのブレスは遙か遠くの海に命中し、大きな水柱ができたのが見えた。
「実は我は、色々な属性のブレスが吐けるのですレア様」
「そうなんだ」
あんまり興味はないけど、すごいことではある。
「あの街に向けて吐いてみましょうか?」
クロムギの視線は、少し離れた人間の街に向いていた。
王都ほどじゃないけど、そこそこ大きな街だ。
んんん!?
ノリノリで人間虐殺する気!?
「ダメダメ! 敵意や殺意のない存在を殺しちゃダメだよ!」
「……え? 人間は敵意の塊では?」
「そうなの!?」
そんな私の世界の人類じゃあるまいし!
「少なくとも、我は人間にずっと敵意を向けられていましたが……」
「ふむ……。それはアレだね、大きくて怖そうだからかな?」
実はフレンドリーなドラゴンなのだが、パッと見ただけじゃ分からない。
「根源はそうかもしれませんね。生命体は巨大な存在を恐れるゆえ……」
「小さくなれないの?」
「……やってみましょう」
そう言って、クロムギは何か魔法を使った。
次の瞬間、クロムギの大きさは猫ぐらいになっていた。
「いいんじゃない!? それなら全然、怖くないと思うよ!」
そもそも大きいままだとクロエの家に入れないしね。
「それならいいのですが……。我も別に、人間と敵対したいわけでは……ないですので」
なんとなく含みがありそうだったけど、まぁいいか。
クロムギはあまり人間をよく思っていない、ということだけ理解した。
クロエは大丈夫かな?
あ、クロエとクロムギって両方クロちゃんって呼べるね!
「さて、そろそろクロエに会いに行こうか」
「分かりました」
クロムギが急にキリッとした表情で言った。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
とは言ったものの、クロエは昨日ガルムをペットにしたばかり。
あと私も飼ってるし、これ以上増えたら大変かも?
全然、考えてなかったけど「捨てて来なさい」って言われたらどうしようか?
うん、その時は私がコッソリ飼おう。
その場合ペットがペットを飼うという謎の構造ができるあがるけども。
◇
闇の精霊が増えたぁぁぁあああああああ!!
あたしは仰天して、危うく大声を出すところだった。
危ない危ない……。
貴族令嬢は叫ばないらしい。
村娘だった頃のあたしなら、ここは思いっ切り叫んだけどね。
夕食の前にレアが戻って来たのだけど、なぜか闇の精霊を連れていた!
「嘘だろ、また闇の精霊か?」
私と一緒にいたパストルが目をまん丸くして言った。
ここはリニイ伯爵邸の学習室。
そう、あたしはレアが出かけてからもずっと、ここで勉強をしていたのだ。
「そう思います」とあたし。
だって、レアが連れてきたソレは、見た目はまんま闇の精霊なのだ。
全身、闇の色をしているし、翼も黒いし、瞳だけがレアみたいにキラキラと輝いている。
とう見ても闇の精霊の特徴である。
「トカゲタイプ……か?」
パストルが首を傾げた。
確かにトカゲっぽいね。
「レアが精霊王だとすると」あたしが言う。「この子は上級精霊とかですかね?」
「分からん」パストルが肩を竦める。「でもまぁ、レアと見た目が違うから、階級も当然、違うだろうな」
まさか精霊神ってことはないだろうし、下級精霊でもない。
下級精霊はレアぐらいの大きさなのだ。
このトカゲ精霊は猫ぐらいの大きさである。
と、ペットの狼(まだ名前を決めてない)が「くぅぅん」と鳴いて平伏した。
やっぱりそこそこ強い精霊っぽい。
「クロムギ! クロムギ!」
レアがトカゲ精霊を指さして言った。
ちなみに、トカゲ精霊は床に座っていて、レアは宙に浮いている。
「クロムギ?」
あたしはトカゲ精霊を指さしながら言った。
そうすると、レアが嬉しそうに何度も頷く。
このパターンは、名前を教えてくれてるんだな、と理解。
「あたしはクロエだよ」
自己紹介すると、トカゲ精霊改クロムギがあたしの方に寄ってくる。
そしてあたしの足に顔を擦りつけた。
あれ?
昨日も狼に同じことをされた気がする。
これは……。
「おいマジか」パストルが言う。「精霊2匹目か、すげぇ才能だなクロエ」
ですよね!
やっぱりそういうこと、だよね!
全然、これっぽっちも実感ないけど、『あたしの精霊』になったんだよね!?
「その才能……少しでいいから分けて欲しいぜ」
パストルが遠くを見るように言った。
パストルは自分に何の才能もないことを気にしている。
でもあたしから見ると、パストルは何でもそつなくこなすので、すごく優秀に見えるけどなぁ。
精神年齢はちょっと低いけども!
◇
「や、闇の精霊が……増えたのかい?」
夕食の時間、アンジェロが酷く狼狽した様子で言った。
そうだよね、ビックリするよね。
ここはリニイ伯爵邸の食堂。
長いテーブルの短い辺にアンジェロが座っていて、その右手側の辺にパストルとあたしが座っている。
レアはあたしの隣だけど、椅子ではなくテーブルに直接座っている。
もちろん、レアの小さな食事も用意されていた。
で、あたしの肩にクロムギが乗っている。
重い。
正直重い!
でもまだあたしはクロムギの扱いがよく分からない!
レアだったら掴んで下ろすんだけどな!
なんかレアってあたしに掴まれると、嬉しそうな表情するんだよね。
「ふ、増えちゃいました……」
なぜ増えたのか!
それはあたしにも分からない!
レアが精霊界から連れてきたのだと思うけども!
なぜ連れてきたのか!
サッパリ分かんない!
「これはいよいよ……精霊研究の第一人者を呼ぶ必要がありそうだね」
アンジェロは真剣な様子で言った。
「しかしレア様と違って威圧感があるね……」
アンジェロはクロムギを見詰めながら言った。
クロムギもアンジェロを見詰めている。
「ああ、それは俺も思った」パストルが言う。「でもレアに従ってる感じだし、階級はレアより低いと思う」
「そうか。まぁレア様はほぼ間違いなく精霊王だしね」
アンジェロが小さく肩を竦めた。
不思議だよねぇ、なんで精霊王があたしの前に現れて、しかもずっと一緒にいるんだろうね?
本当にあたしは精霊士なのだろうか?
そう思いながら、クロムギを撫でた。
クロムギは左肩に乗っているので、右手で撫でた。
そうすると、クロムギは嬉しそうに顔をあたしの頭に擦りつけた。
んー、レアと同じでかなり人懐っこい。
闇の精霊は意外と人間が好きなのかもね。
「ああそうだクロエ」アンジェロが言う。「明日は小神殿に行ってもらうけど、問題はないかい?」
「大丈夫です! 神殿についてはみっちり勉強しましたから!」
全然興味がなかったので、すっごく大変だったけど!
その後、なんか邪竜が復活したかも~、という話題が出たけど、あんまり興味がなかったのでテキトーに流した。