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手乗り魔王のセカンドライフ~異世界に移住したら言語も身体の大きさも違うけど、なんとかなるよね?~  作者: 葉月双
2章

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3話 クロムギ


 私は私の投げた石と同じ速度で空を飛んでいた。

 石は私より少し先を進んでいる。

 めまぐるしく景色が変わり、まぁまぁ遠くまで来たんだなぁと思った。

 次に散歩する時は、もっとゆっくり景色を眺めながら飛ぼう。

 風情も何もあったもんじゃない。


 だいたい石のくせに飛ぶの速すぎなんだって!

 ああ、私が全力で投げたせいだけどね!

 もうなんか石とか撃ち落としてやろうかな?

 どこまで飛ぶ気なの!?

 とか思っていると、石が高度を下げ始める。

 そして、少し先の山に結界が張ってあるのが見えた。


「閉じ込める系の結界かな?」


 私が呟いた瞬間、石が結界を突き破り、たぶんそのせいで結界がガラガラと崩れて消滅してしまった。

 ちなみに石は山肌に衝突して小さなクレーターを作った。


「……」


 私は沈黙したままゆっくりと高度を下げた。

 結界ってさぁ、大きく分けて2種類あるって知ってた?

 1つは、外からの干渉を拒絶して、中を守るタイプ。

 もう1つは、結界の中に何かを封印したりするタイプ。

 さっき私の石が壊したのは、後者の結界だと思う。

 一瞬しか見えなかったけど、たぶん。


「さて、現実逃避は終わろうレア」


 私は自分にそう言い聞かせた。


「大丈夫、これも行雲流水の一部に過ぎない。何も問題ない。私は何も考えない。流れるままに、何が封印されていたのかだけ、確認しよう」


 私は【サーチ】を使って周辺の地形情報を取得。

 なんだか巨大な洞窟があったので、そっちに移動。

 洞窟の中を【サーチ】してみたけど、この洞窟は一本道で、少しずつ下って地下に続いているようだ。

 そして一番底は割と広い空間になっていて、そこにも結界が張ってあるのが見えた。

 さすがに結界の中までは見えない。


「厳重じゃん! 本当、何があるんだろう? 魔剣かな? 聖剣かな?」


 なんだかテンションが上がってきたので、私は洞窟の中に飛び込んだ。

 そのまま底に向けて真っ直ぐ飛ぶ。

 真っ暗だけど、私は暗いところでも割と見えるので問題ない。

 あっという間に底に到着すると、結界の中に黒いドラゴンが寝そべっていた。


 そのドラゴンはケガをしているようだった。

 ドラゴンが私の姿を確認して目を丸くした。

 私はとりあえず手を振ってみる。

 ドラゴンがおっかなびっくり前足を振った。


 おお!

 フレンドリーなドラゴンだ!

 もしかして結界はドラゴンが自分を守るために、自分で張ったのかも。

 閉じ込める系の結界だと思ったのは、私の勘違いの可能性があるね!

 ドラゴンがジッと私を見詰めてくる。


 何? ケガを治して欲しいの?

 仕方ないなぁ。

 私は右手で結界に触れて、ぶっ壊した。

 はっはー!

 結界を壊すことには定評のある魔王です!


 前の世界で人間たちが張った結界を何回も崩したからね!

 ドラゴンは口を大きく開けて、ちょっとバカっぽい表情を浮かべた。

 私はドラゴンに【エクストラヒール】を使用。

 ドラゴンのケガが一瞬で全快する。


 ドラゴンはすごく驚いたようで、だけどすぐにその場に平伏した。

 きっと感謝を伝えているのだろう。

 私はウンウンと頷いておいた。

 いいことしたあとは気持ちがいいね!



 その邪竜はもう500年近く封印されていた。

 そもそものキッカケが何だったのか忘れてしまったが、邪竜は人間たちと敵対していた。

 激しい戦闘は1年以上続き、大陸の半分が焦土と化した。

 人間たちは数の力で邪竜に抵抗し、ケガを負わせ、封印することに成功した。


 それがこの場所。

 まぁ、ケガをして洞窟に逃げ込んだのは邪竜自身なのだが。

 まさか二重に結界を張られて、閉じ込められてしまうとは。

 洞窟内の結界には、邪竜の魔力を遮断する効果もあり、そのせいで邪竜は自分のケガを治すこともできなかった。


 ただ痛みに耐える500年だった。

 強固な二重結界は、負傷して力の落ちた邪竜には壊せない。

 人間たちを恨んだこともあった。

 何かの間違いで結界が解除されたら、全人類を焼き尽くす妄想にふけった。

 でも、400年ほどで、何もかもがどうでもよくなった。


 どうせ出られない。

 ここで寂しく寿命を迎えるのだ。

 そのことを受け入れた時、邪竜の中から憎しみは消えた。

 そして死ぬまでの時間、眠ることにしたのだが。

 外の結界が凄まじい攻撃によって崩壊し、邪竜は目を醒ました。


(……なんだ?)


 状況を理解できぬまま、気付いたら闇の精霊のような存在が邪竜の近くに浮いていた。

 それは見た目こそ闇の精霊だが、明らかに異質。

 精霊などという、生易しい存在ではない。

 そんな程度のモノであるはずがない。


 敵対したら瞬時に世界が終わる……邪竜はそう感じた。

 いや、まぁ、世界など終わってもいいのだが。

 ただ、あまりにもその黒い存在が恐ろしかった。

 と、その黒い存在が手を振った。


 これは……手を振り返さなければ、恐ろしい目に遭うのでは?

 そう考えて、邪竜は前足を振った。

 なるべくフレンドリーに見えるように。

 そうすると、黒い存在が結界に触れて、次の瞬間には結界が崩れ去った。

 あまりのことに、邪竜は思考が追い付かない。


 500年、邪竜を閉じ込めていた結界が、秒で?

 いやいや、秒もかかっていない。

 黒い存在は「ほい」という掛け声とともに、邪竜に【エクストラヒール】を使用。

 500年間、耐え続けた痛みが消える。


(ああ……身体が……痛くない……)


 それは邪竜にとって、何物にも代えがたい福音だった。

 歓喜に涙が出そうになったが、ドラゴンは泣かない。

 人間だったら大泣きしただろう、と邪竜は思った。

 邪竜はその場に平伏し、感謝を伝えるとともに、主従契約を結ぶことにした。

 この黒き存在の下につきたい、そう思ってしまったのだ。



 なんかドラゴンが魔法を使ったみたい。

 私の目の前に、魔法陣が浮かんだ。

 えっと?

 この魔法陣はあれだね。

 何かの契約だと思うけど、詳しくは分からない。


 まぁいっか、契約しちゃえ!

 行雲流水!

 私は考えない魔王!

 今の私なら壺でも何でも買っちゃうぞぉ!

 ぶっちゃけ、気に入らない契約なら破壊してもいいしね!


 このドラゴンはあまり強くないみたいだし、私の魔力量なら強引に契約を破壊できる。

 さっき結界を壊したみたいにね。

 そんなわけで、私は深く考える必要がないのだ。

 魔法陣に私の魔力を流して、契約完了っと。


「我が主よ……」とドラゴンが言った。

「え? 言葉分かるの?」と私。


「契約により、意思の疎通が可能となったのです主よ」

「私が主ってことは、ペット契約か何か?」

「……ああ、まぁ……それでもいいですが」


 ドラゴンは苦笑いしつつ言った。


「ふむ。だけど私はクロエのペットだから、君もクロエのペットになりなよ」

「クロエとは?」


 ドラゴンが首を傾げた。


「私のご主人様で、金髪美幼女。あれは自分が可愛いことを知ってるタイプだね。いつか可愛さで王様とか籠絡して傾国の美女になるかも」


 そうなったら面白いなぁ、と私は思った。


「なるほど……主よりも格上……と認識しても大丈夫でしょうか?」

「うん。私よりずっと格上だよ!」


 私も結構、可愛い方だと思うけど、クロエには敵わないよ!


「分かりました。では我は今日より、クロエ様のペットとなりましょう」

「うんヨロシクね」


 私が言うと、ドラゴンが頷いた。


「ところで君、名前は?」と私。


「……ない。よければ、あなたに決めてほしいです」

「じゃあクロムギ」

「いいですね」


 ドラゴンが大きく頷く。

 え? クロムギでいいの?

 割とテキトーなんだけど……。

 身体が黒いからクロで、瞳だけが金色の麦みたいだからムギ。

 合わせてクロムギ!


「あなたの名は?」

「私はオーレリアだけど、レアでいいよ」

「ではレア様。ケガを治してくれて、ありがとうございます」

「いいよ」


 別に簡単なことだしね。


「それでレア様……我は久しぶりに空を飛びたいのだが、構わないでしょうか?」

「もちろん! 行こう!」


 私はドラゴン改めクロムギの頭に座った。

 そうすると、クロムギが洞窟を飛び出し、大空へと羽ばたいた。


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