2話 神殿について
あたしたちが自宅に戻ると、アンジェロと鉢合わせた。
こう、あたしたちが門の中に入ったらアンジェロの馬車も入って来たのだ。
それでアンジェロと護衛のエルが馬車から降りてきた。
「すごい狼を買ったんだねぇ」
アンジェロは狼を見て微笑んだ。
ちなみに、あたしはまだ狼の背中に乗っている。
「わぁお」エルも狼を見ている。「こりゃすごい。こんな綺麗な狼、うち初めて見たかも」
エルは本名をエルメンヒルデという。
隣国を裏切った精霊士で、今は傭兵として活躍している。
「親父、どうしたんだ?」とパストル。
アンジェロは領主なので、この時間は領地運営省で働いている。
領地運営省とは、その名の通り領地を運営するための場所。
領地政治の中枢で、いずれあたしも見学に行く予定だ。
「ああ、中で話そう」
アンジェロは家を指さし、ゆっくり歩き始める。
あたしたちはアンジェロに続き、馬車は御者が倉庫へと移動させた。
「狼の名前は決めたのかい?」
アンジェロが優しい声であたしに言った。
「あー、まだです」
「そうか。名前は大事だから、ゆっくり決めるといい」
あたしは「そうしますぅ」とやや猫なで声で応えた。
あぶなーい!
あたし狼にイヌとかネコとか名付けようと思ってた!
あとは見たまんまのシロとか!
もう少し真面目に考えようっと!
と、アンジェロが玄関を開けて、あたしに先に入るよう促す。
紳士だ。
そしてあたしより先にレアが飛んで入った。
飛んで家に入る妖精のレアってね。
そのまんまだね。
あたしもしかして、センスないのかなぁ?
メイドたちと執事が寄ってくる。
メイドたちが狼を見てギョッとしたけど、あたしが乗っているのですぐに状況を把握して微笑んだ。
「リビングを使う。お茶の用意を頼む」
アンジェロがジャケットを執事に預けながら言って、メイドたちが頷く。
あたしたちはリビングに移動。
まずアンジェロがソファに座り、その対面にあたしとパストルが座る。
エルはアンジェロの背後に立って、ジョスランはパストルの背後に立った。
レアはクルクルと飛び回っていて、狼はあたしの隣に伏せた。
「実は領地の小神殿を通して、中神殿が接触してきたんだ」とアンジェロ。
「あぁ」とパストルは曖昧な返事をした。
「詳細は表に出せないらしいけど、クロエに助けて欲しいみたいだ」
アンジェロがあたしをジッと見詰める。
レアがあたしの頭の上に着地して、そのまま座る。
あたしはレアを掴んで、肩に移動させた。
頭の上に陣取られると、ちょっと気になるから。
◇
(あの黒い存在を片手で掴んで移動させるとは……しかも気軽に……)ガルムはビクビクしながら思う。(やはりこの少女は世界の覇者に違いない……絶対に逆らわないでおこう)
◇
なんか家に戻ったら家族会議みたいなの始まったぁぁぁぁ!!
私がペットにガルムを勧めたから!?
クロエパパがクロエをジッと見ていたので、私はクロエの頭に着地し、クロエパパを見ながら座った。
ガルムを選んだのは私であって、クロエじゃないよ!
あと、このガルムはいいガルムだから大丈夫!
と、クロエが私をガシッと掴んで、自分の肩に移動させた。
なんだろう、美幼女に雑に扱われるとゾクゾクしちゃうな!
前の世界では私を雑に扱う奴なんていなかったし!
私はクロエの首にちゅっ、とキスをした。
親愛を込めたのだ。
クロエがビクッとなって面白かった。
その様子を、エルが珍しそうに見ている。
コホン、とアンジェロが咳払いして話を続けた。
何を言ってるのかサッパリ分からないけど、そこまで深刻じゃなさそう。
怒ってる様子もないし、きっと『ペットの世話をちゃんとしましょうね』的な話に違いない。
それなら何も問題ない。
◇
翌日。
あたしは朝から神殿について勉強していた。
「神殿勢力の正式名称は『神殿』だ」
先生はパストルで、ここはリニイ伯爵邸の一室。
勉強用のお部屋で、パストルもその兄もここで勉強したらしい。
本棚にはぎっしり本が詰まっていて、色々な書類やらメモやらも一緒に保存されている。
あたしが座っている大きい机は、小傷も多く使い込まれているのが一目で分かった。
「精霊信仰の総本山で、もっとも強い力を持っているのが『大神殿』」
パストルは黒板に文字を書きながら説明している。
ちなみに、レアは机の上で寝息を立てている。
精霊は気楽でいいなぁ。
まだ名前を決めていない狼も、あたしの近くの床で寝ている。
狼も気楽でいいなぁ。
「聞いてるか?」
「うん、もちろん聞いてるよお兄様」
「そうか。続けるぞ」
パストルは機嫌良さそうに微笑んだ。
だいたいの場合、可愛い声でお兄様って言っておけば機嫌がいい。
「大神殿は大陸に1つしかない。最高権力者である教皇と6人の枢機卿がそこにいる」
わぁ、ビックリするぐらいどうでもいい!
でも神殿に関しては一般常識(もちろん貴族の)なので覚えなくてはいけない。
それにあたし、神殿に呼ばれてるしね。
今日、神殿について頭に叩き込んで、明日には領地の小神殿に向かう。
過密スケジュールだよ!
神殿はあたしに助けて欲しいらしいけど、厳密にはレアに助けて欲しいのだろう。
リニイ伯爵家としては、神殿に恩を売れるならありがたい、とのこと。
だからあたしは神殿に行くことを了承したのだ。
「そして各国に『中神殿』が1つずつあって、多くの領地に『小神殿』がある。あとはまぁ、辺境とか田舎に『出張所』みたいなのもあるな」
神殿と精霊信仰はこの大陸に広く根付いている。
あたしの住んでいた村でも、みんな精霊を信仰していた。
月に1回は隣の町の神殿出張所に祈りを捧げに行ってたなぁ。
まぁあたしが祈った内容って「お腹いっぱいご飯食べたい」とかその程度だけど。
お祈りって言うかお願いしてただけ!
あたしはチラッとレアを見た。
レアはたぶん精霊王だけど、見るからに脳天気。
でも、今こうして貴族令嬢として何不自由なく生きられるのはレアのおかげだ。
世界で二番目に、あたしはレアが好きだよ。
一番はもちろんあたし自身!
パストルはその後、神殿の権力構造(役職)と神殿騎士団について解説してくれた。
特に気になったところはない。
なんか普通って感じ。
「退屈そうだなクロエ」
「あはは……バレちゃいました?」
てへぺろ、とあたしは舌を出す。
「可愛いけど、それ外でやるなよ? 貴族令嬢だからな、クロエは」
少し照れた様子でパストルが言った。
あたしの可愛さだけで世界盗れないかな?
もしくは、あたしの可愛さとレアの強さで世界征服とか。
あたしは『帝王クロエ』を想像したけど、なんか違うなぁって思って小さく頭を振った。
「何か分からないところあるか?」
「大丈夫でーす」
「そうか。じゃあ次は神殿と精霊信仰の歴史について説明するぞ」
「……はぁい」
まだ続くの!?
◇
おはよう、手乗り魔王の起床だよ。
私は机の上でグッスリ寝てしまったよ。
なんせ、クロエが勉強していて退屈だったからね。
そして、起床した今もクロエはまだ勉強していた。
貴族令嬢って大変だなぁ。
私は背伸びをして、散歩に出ようと浮かび上がる。
もちろん黒い翼を魔法で創造したけど、この翼はハリボテだ。
私ってば魔法で飛んでるからね!
クロエが私を見て、なぜか人差し指で私を突いてきた。
雑に扱われる度に!
喜びを感じる私は!
何かしら新しい扉を開いたのだと思う!
私はその場でクルッと何度か宙返り。
そして開けっぱなしの窓から外へと飛び出した。
とりあえず何も考えずに雲の上まで飛び上がり、そこから自由落下を楽しむ。
地面スレスレで私はまた魔法を使って宙に浮く。
うーん、どこに行こうかな?
私は小さな石を拾って、全力で遠投した。
そして私はその石を追って飛ぶことに。
石が落ちた場所を探検してみよう。
あっ、生命体に当たらないようにだけ注意してあげなきゃね。
全力で投げたので、当たったらたぶんすごく痛いだろうから。




