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1話 新しいペットを飼おう


 その日、アルグッド王国、中神殿の『聖樹』が枯れた。

 神殿関係者は大慌てだったが、1人の司祭がこう提案した。


「なんでも、リニイ伯爵家の養女が使役する闇の精霊は、死者ですら復活させるエリクサーを持っているらしいです。協力を仰いでは?」



 あたしたちは今、領地最大の野外ペットフェアを見に来ている。

 あたしたちというのは、あたし『美少女精霊士のクロエ』、闇の精霊王レア、あたしの義理の兄となったパストル、それから護衛のイケてるオジさんジョスランの4人。


 今日はとっても晴れていて、空は高く空気は澄んでいる。

 雲はゆったりと流れ、優しい風が吹いていた。

 実にピクニック日和だな、とあたしは思った。

 ちなみに領地戦が終わってから、すでに7日ほど経過している。


「あっちの猫はどうだ?」


 パストルが指さした先には、たくさんの猫たちの姿が見えた。

 猫たちはガラス張りの箱の中に入っていて、直接は触れない。

 基本的に、ここで売られているペットたちは檻や箱の中に入っている。

 一部、触れ合いコーナーもあるみたいだけど。


「可愛いですね」とあたし。


 そもそも、なぜあたしたちがペットを見に来たかというと。

 レアがあたしの義理の父アンジェロに送った啓示のせいだ。

 アンジェロと初めて会ったあの日、何かペットを飼えとレアが指示したらしい。


 本当はもっと早くペットを飼う予定だったのだけど、領地戦のせいで後回しになっていたのだ。

 まぁ、あたしは別にペットが欲しいわけじゃないから、後回しでも全然いい。

 と、あたしの周囲を飛んでいたレアが、急にどこかへ行ってしまう。


「ああ、レア! 勝手にどっか行かないで!」


 あたしは走ってレアを追いかける。


「お前もな!」とパストル。

「子供は元気が一番だな」とジョスラン。



 私、手乗り魔王のレアは珍しいペットを発見した。

 犬や猫に紛れて、ガルムという魔物が檻の中に入っていたのだ。

 ガルムの見た目は白い狼で、人間たちが狼と勘違いして捕まえたのかも。


 まぁ、見た感じ大人しそうな個体だから問題はなさそうだけど。

 私はガルムの檻の前で、ガルムをジッと見詰める。

 ガルムもチラッと私を見たけど、なぜかすぐに目を逸らした。


「レア!?」


 私の名を呼びながら、美幼女クロエが駆け寄ってくる。

 あは、ごめーん!

 クロエのこと、置いて行っちゃったね。

 動物たちが大量に展示されているこの場所で、魔物の気配を感じたからさ!


 念のため、見に来たってわけ。

 パス君とイケオジがガルムを見て何か話し合っている。

 魔物だとバレたのかな?

 この子はたぶん、いいガルムだと思うよ?

 私は檻の隙間から中に入った。


 身体が小さいから余裕で入れる!

 ガルムがギョッとした表情で私を見た。

 大丈夫、怖くないよ!

 私は前の世界では魔王だったし、君がいい子なら私は何もしないよ。


 ガルムがなぜか一度立ち上がり、寝転がり直した。

 綺麗な伏せの体勢だ。

 てゆーかクロエたちってペットを探してるんだよね?

 この場所、野外ペットショップだよね?


 この子でよくない?

 白くて可愛いし。

 一応、本人がどうしたいか聞いてみよう。

 私はガルムにイメージを送りつけた。


(ねぇねぇ可愛い君、手乗り魔王レアちゃんのペット仲間にならないかい? ご主人様は美幼女のクロエだよ!)



(なんか、めっちゃ怖い小さい黒いのが近寄ってきたんだが!?)


 ガルムはブルブルと震えながら、レアを見ていた。

 ガルムは本能的に、レアがやべぇ奴だと理解できた。

 気付かない振りをしたら立ち去ってくれるかと思ったのに、なぜかレアは檻の中に入ってきた。


 もしかして殺される!?

 ガルムはまだ若く、人生はこれからである。

 人間の年齢に合わせると18歳程度。

 なので、まだまだ死にたくない。

 そんなわけで、ガルムは一度立ち上がり、そして綺麗な伏せの姿勢へと移行した。


(ぼくはあなた様の下僕でございます。何でもするから殺さないで)


 という意味を強く込めた。

 そうすると、レアから意思の伝達があった。


(矮小なる存在よ、我、魔王オーレリアとともに、美の女神クロエ様の配下となれ)


 その意思には、クロエの容姿の映像も含まれていた。

 ガルムはすぐに、檻の外の小さい人間がクロエだと理解。

 サッとクロエの近くまで移動し、伏せた。


(美の女神という存在は知らないけど、このヤバい黒いのを配下にしているなんて、きっと世界の覇者に違いない)


 ガルムは盛大に勘違いした。



「この狼、相当賢いんじゃないか?」


 パストルが少し驚いたように言った。


「そう思います」


 あたしもちょっとビックリしてる。

 そもそも狼ってペットなの? という疑問は一旦置いておこう。

 白くて大きいその狼は、あたしの前で伏せの姿勢を取った。


 これは飼って欲しいというジェスチャなのだと思う。

 違ってたら超恥ずかしいけど。

 レアもなんだかニコニコしながら狼を指さして、クルクルと舞うように踊っている。

 この子を飼えという意味だと思う。


「実に美しい毛並だ」


 ジョスランがウンウンと頷いている。

 どうやら、この白い狼が気に入ったようだ。

 確かに見た目はすっごく綺麗。

 頭も良さそうだし、この子でいいか。


「この子がいい」


 あたしが言うと、パストルがコクンと頷き、近くの店員を呼びに行った。


「いやぁお目が高い!」店員が嬉しそうな声で言う。「この狼は見た目も綺麗ですが、大人しくて人間の言うことをよく聞くんですよ!」


 20代の女性の店員だ。

 見るからに人が良さそうで、動物が好きです、って雰囲気。


「あ、ちなみにオスです」と店員。


 パストルが店員にお金を支払う。

 チラッとしか見てないけど、かなりの額を払ったっぽい。

 うん、絶対高いよねこの子!

 店員が檻を開けて、狼とレアを外に出す。

 レアは狼の頭の上に座っていた。


 その様子を見て、店員が「闇の精霊、可愛いですね」と微笑んだ。

 そう、あの領地戦が終わってから、あたしとレアの知名度は爆上がりしている。

 どこに行ってもあたしが『精霊士のクロエ』だとバレるのだ。

 まぁ、どう見ても闇の精霊にしか見えないレアがあたしの周囲にいるから、当たり前だけども。


「そのまま出しても大丈夫なのか?」


 ジョスランが少し警戒した様子で言った。

 確かに!

 大人しいと言っても狼だもんね!


「平気ですよ。本当にいい子なんです」


 店員は狼の背中を撫でた。

 レアがあたしの方に飛んで来て、あたしの服の袖を引っ張る。

 どうやら狼を撫でさせたいみたい。

 あたしはちょっとだけ怖かったけど、狼を撫でてみた。


 狼は気持ちよさそうに目を細めた。

 可愛い!

 更に狼はあたしに顔を擦りつけて、甘えてくる。

 可愛い!


「あらあら、新しいご主人様のことが気に入ったのね」と店員。


 レアが更にあたしを引っ張り、狼の背中を指さす。

 えっと?

 乗れって言ってるの?

 まぁ、この狼あたしより大きいから、乗れるとは思うけど。

 狼を見ると、狼はスッと伏せた。

 どうぞ乗ってください、って言うみたいに!


「乗ってみろよ」パストルが言う。「俺も乗りたいけど、さすがに俺は重いだろうなぁ」


 時々思うのだけど、パストルの精神年齢ってあたしより若くない?

 そんなことを思いながら、あたしは頷いた。

 そしておっかなびっくり狼の背中に跨がった。

 狼が立ち上がり、ノッシノッシと歩き始める。

 わぁ、ちょっと楽しいかも!


「お兄様! このまま家まで帰りたいです!」

「ああ。好きにしていい……羨ましい」


 パストルが小さく肩を竦めた。



 あは!

 白いガルムに乗って進むクロエ、超可愛い!

 絵本の世界の住人みたい!

 帰りは馬車には乗らず、ゆっくりと歩いて帰った。


 道行く人々が狼(本当はガルムだけど、見た目は綺麗な狼)に乗っているクロエを見てギョッとする。

 でもそれらはすぐに微笑みに変わった。

 うん、誰がどう見ても今のクロエはすっごく可愛いもんね!

 いやぁ、今日も平和だなぁ。


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