15話 昨日の敵は今日の友?
クロエの放った【暗黒花火】で、エルが戦闘不能に陥った。
審判の男性がクロエの勝利を告げ、観客が沸く。
サラマンダーたちが倒れているエルに寄って行き、アタフタとしている。
私もフワフワとエルの方へ。
ちょっとグロテスクな感じになってるね。
こう、なんというか、表現したくないような見た目。
おかしいなぁ、花火でここまでダメージを受けるなんて。
クロエが駆け寄ってきて、悲惨な状態のエルを見て悲鳴を上げた。
ね? 人に向けて花火を打っちゃダメでしょ?
クロエが泣きながら私に何かを言っている。
エルを助けて欲しいのかもしれない。
「魔王様! 魔王様! どうか我らの契約者をお助けください!」
「お願いします魔王様! なんならあなた様のお尻の穴を舐めますから!」
サラマンダーたちが涙ながらに訴えた。
うん、むしろ舐めて欲しくないけれど!?
汚……いやいや、私のお尻は汚くない。
私はお花の妖精、お尻だってお花の香りだもんね!
そう思いつつ、私はエリクサーを取り出す。
大量生産しておいて良かったね!
エリクサーをエルに振りかけると、傷口が全て塞がり、エルの身体が元に戻る。
私は黒い炎で、地面に散っていたエルの血肉やら何やらを焼き尽くす。
ほら綺麗になった。
私ってば優しーい!
と、エルが目を開けて何かを言った。
クロエとサラマンダーたちがエルと何やら言葉を交わす。
エルが私を見る。
私は「気にしなくていい、エリクサーはいっぱいある」という意味を込めて肩を竦めた。
伝わったかどうかは、サッパリ分からない。
◇
翌日、私たちはなぜか王城の謁見の間にいた。
昨日、クロエが勝ったから何かご褒美が貰えるのかも?
ちなみに、謁見の間にいるのは王城の関係者を除くと私、クロエ、クロエ父の3人。
王城関係者はまず玉座に座った王様、その隣に立っている若い男、それから護衛の騎士たち。
クロエ父とクロエはレッドカーペットに膝を突いている。
私はとりあえずクロエの近くでフワフワしていた。
王様は何くれるんだろうね?
と、王様とクロエ父が何やら会話を交わす。
クロエがビックリして、両手をブンブン振って『お断り』とジェスチャで示した。
なんだろう?
金銀財宝を断ったのかな?
しばらく、クロエ父と王様が話を進めた。
そしてクロエ父が私を見る。
何?
私にも何かくれるの?
イケオジとエルをエリクサーで救ったからね。
まぁ何かくれるなら、貰ってあげてもいいよ?
とか思っていると、謁見の間に3人の男女が入って来た。
男が2人と女が1人。
男は料理人の服装で、女はメイドの服装。
3人がクロエ父の隣に並び、王様に挨拶。
王様が何かを言って、彼らが頷く。
その時に、彼らは私を見ていた。
なんで見てるの?
って、あ、この料理人、私に料理を分けてくれた優しい人じゃん。
私がお礼に【ヒール】してあげたんだよね。
そしてまた王様が何か言って、クロエの父が困ったような表情で返答。
クロエも緊張した様子だった。
あっれー?
もしかして、私が王城の料理を奪ったと思って咎めてるとか?
おかしいなぁ、ちゃんと譲って貰ったはずだし、お礼もしたよ?
うーん、クロエもクロエ父も困ってるみたいだし、謝っておこうかな。
私は王様にイメージを叩きつけた。
(ごめんね、私が悪かったからクロエを怒らないで。ね? てゆーか、そもそも料理だって盗んだわけじゃないし。心が狭いんじゃないの? ファック)
おっと、最後はちょっと悪口っぽくなっちゃった。
◇
アルグッド王は闇の精霊王レアの啓示を受け、その場に跪いて詫びた。
なぜなら、その啓示の内容が酷く凶悪だったから。
(クロエは怒っている。貴様が悪い。私からクロエを奪おうなど、貴様の頭はおかしいのか? 貴様を料理したのち、この国を根こそぎ破壊するぞ?)
アルグッド王の受けた啓示である。
まぁ、レアの送ったイメージとは若干の差異はあるけれど。
ちなみに、アルグッド王はクロエを王子の婚約者にしようとしていたのだ。
それも無理やり。
だから、それをレアが咎めた形となった。
精霊王の戦闘能力は、本気で国を破壊可能なのだ。
対抗するには剣神や魔術神が必要だが、悲しいことに、この国に神級の実力者はいない。
剣王が2人と魔術王が3人いるだけである。
魔術王の1人は、いずれ魔術聖に昇格できそうだが、魔術神に届くかは不明である。
「我が王! 一体どうしたのですか!?」
若い宰相が言った。
アルグッド王が平伏して謝罪を始めたので、驚いたのだ。
アルグッド王は事情を説明。
宰相も一緒に土下座して謝罪。
アンジェロ・リニイ伯爵が「いえいえ、そんな、お気になさらず」と困ったように言った。
「あ、あたしの結婚は、その、もっと大きくなってから、えっと、考えますので……」
将来有望な精霊士、クロエもアタフタと言った。
アルグッド王は黒き存在――闇の精霊王レアと精霊士クロエを心から欲した。
けれど、強引に話を進めた時のデメリットは計り知れない。
敵に回していい相手ではない。
クロエが国民で、しかもリニイ伯爵家の養女である以上、貴族の義務などは発生する。
それに、王子たちが自力でクロエを口説けば問題ない。
◇
王城での話が終わって、私たちは王都をブラブラ歩いていた。
たぶん、王都の別宅に帰る途中なのだと思う。
結局、王様たちは何もくれなかった。
でも私が料理を食べたことは許してくれたっぽい。
ってゆーか、なぜか王様たちは土下座していた。
なんでだろうね?
まぁいいか、細かいことは考えない!
さて、王城の待合室でイケオジとパス君も合流しているので、全部で4人と一匹。
と、私たちの前にエルが姿を現した。
クロエがビクッとなって、イケオジが背中の剣に手をかける。
エルが両手を振って、敵意がないことをアピール。
どうしたのだろう?
◇
「うちを雇ってよぉ」
エルはリニイ伯爵アンジェロに言った。
「……ん?」とアンジェロ。
「だーかーらー、うちは傭兵だから、雇って欲しいなぁって」
「なぜ急に?」
「えー? 前のとこは解雇されちゃったしぃ? それにそっちの幼女ちゃんと闇の精霊王が気になるしぃ?」
エルはあたしを見て、レアを見た。
てか幼女ちゃんって……。
あたし年齢二桁なんだけど?
8歳でも9歳でもなくて、10歳なのに!
レアが小さく手を振ったので、エルも小さく振り返した。
「へぇ、レアって割と愛想いいじゃん」
エルはレアの名前を知っているみたい。
サラマンダーたちから聞いたのかも。
「サラちゃんたちは至高の存在って言ってたけどね」とエル。
レアってやっぱり精霊王なの!?
なんであたしと一緒にいるの!?
不思議!
「レア様は炎の傭兵がお気に入り、か」
ジョスランが腕を組んで言った。
「俺は別にいいと思うぜ?」パストルが言う。「傭兵ってことは、金さえ払ってりゃ信用できるしな。レアもこの様子だとオッケーっぽいし。クロエはどうだ?」
「あたしは、その、どっちでも……」
「ふむ。一旦、仮雇いという形で様子を見よう」とアンジェロ。
「やった! うちってば超使える子だよぉ!」
エルはニコニコと笑った。
◇
どうやら、エルもクロエたちと一緒に行くらしい。
お茶にでも誘ったのかな?
私はエルの周囲を飛び、エルが楽しそうに私に何かを言った。
うーん、平和だねぇ。
昨日の敵は今日の友ってね。
まぁ、元々あれは武道大会的なイベントだろうし、本気で敵対してたわけじゃないよね。
エルはイケオジを焼いたり、クロエが花火でエルをバラバラにしたりと、色々アレだったけどさ!
そんなことを思いながら空を見ると、今日もよく晴れていて、とっても気持ちいい。
私はふと、魔王軍の仲間たちのことを思い出した。
別に彼らを忘れていたわけじゃ、ないけどね。
魔王軍のみんな、私は今、セカンドライフを楽しんでいるよ!
君たちも平和になった世界で、どうか幸せに!
私も手乗り魔王、いや、お花の妖精としてクロエにまとわり……じゃなかった、クロエを見守りつつ、ノンビリ過ごすよ!
これで1章終わりです!
続けて2章も毎日更新します!