13話 昔は私も荒んでいた
ふわぁ、よく寝たなぁ。
私は花壇の中で背伸びをした。
ふふっ、お花の中で目覚めるなんて、やはり私は妖精なのかもしれない。
よし、早速クロエのところに帰ろう。
私は【サーチ】を使ってクロエの魔力を捜索。
私の【サーチ】は強力で、広範囲に渡って捜索可能。
前の世界基準だと、大陸中を捜索可能だった。
私に探せないモノなどないのだ!
おっと、ちょっと言い過ぎかな。
とりあえず、クロエの魔力を発見したので、そちらに【転移】。
そうすると、そこは熱狂に包まれた闘技場だった。
「!?」
私はとってもビックリした。
一瞬、何がなんだか分からなかった。
クロエ、パス君、クロエ父、そしてとんがり帽子の女性が、一斉に私を見る。
「やっほー! お花の妖精が帰ったよー!」
私は状況理解よりも先に、ニコニコと挨拶した。
売っていこう、媚び!
クロエが右手を伸ばしたので、私はクロエの掌に着地。
手乗り魔王レアですこんにちは。
さて、クロエたちは何かイベントの見学かな?
私は闘技場の中央へと向き直る。
そうすると、そこではイケオジと黒いヘアバンドを装備した赤毛の女性が対峙していた。
どうやら戦っていたみたいね。
武道大会的なイベントなのかな?
私は腰を据えてジックリ見学しようと、クロエの肩に移動して座った。
赤毛の女性の近くに炎の精霊サラマンダーが浮いている。
おっと、精霊ってこっちの世界の人間にも力を貸しているのか。
赤毛の女性が何かを言うと、サラマンダーがもう1匹増えた。
おお、二重契約。
精霊を2匹同時に召喚するとか、あの赤毛の女性、人間の中ではかなりの才能の持ち主だね。
普通は1人1匹なんだけどね。
さて、サラマンダー2匹の猛攻に、イケオジがアッサリとダウン。
よ、弱っ!
イケオジ、瞬殺されてるじゃん!
クロエたちが悲鳴を上げたので、私は少しビックリした。
え? 何?
パス君が何かを叫びながら、闘技場の中へと入っていった。
ええっと、イケオジが死にかけてるとか?
ちょっと焼かれたぐらいで死なないでしょ?
とか思ってると、クロエ、クロエ父、とんがり帽子の女性も闘技場の中へ。
クロエの肩に乗っている私も、必然的にイケオジの近くに移動。
揺れるので、途中で肩から離れて飛んだ。
どうやら、イケオジはヤケドが酷いらしく、うめき声を上げている。
対戦相手だった赤毛の女性は、さっさと隅の方に移動。
クロエ父がイケオジを抱き起こそうとして、だけど思い留まって何かを叫んでいる。
とんがり帽子の女性が【ヒール】を使った。
しかしイケオジのヤケドはあまり回復しない。
ん?
本当にピンチなの?
じゃあエリクサーを試そうかな。
私は【亜空間収納】から自作のエリクサーを出して、イケオジに振りかけた。
次の瞬間、イケオジのヤケドが完治。
うん、さすが私のエリクサー!
倒れていたイケオジが、上半身を起こす。
そして自分の手を見て、何か呟いた。
みんなの視線が私に集中。
ふっふっふ、褒めよ、讃えよ!
と、クロエが私をガシッと握る。
「はうぅ!?」
いきなりだったので、私は変な声を上げてしまった。
クロエが私を握っていない方の手の指で、私の頭をゴシゴシと擦る。
たぶんこれ撫でてるのだろうけど!
でも!
痛い、痛いって、髪が、私の髪が!
禿げる、禿げるって!
イケオジが真剣な様子で私に何か言ってる。
たぶん感謝の言葉だと思うのだけど、それどころじゃないの私。
やめなさいクロエ~!
手乗り魔王でお花の妖精レアちゃんの髪が削れるぅ!
◇
信じられない、とジョスランは思った。
さっきまで死を覚悟していたのだ。
重度のヤケドを負い、意識を失う寸前だった。
炎の傭兵ヒルデことエルがあまりにも強かった。
中級精霊を2匹同時に召喚するとか、反則も反則だろう、とジョスランは思った。
「ありがとうございます! ありがとうございます! レア、いやレア様!」
ジョスランは真剣に、レアに感謝を伝えた。
完全にレアは命の恩人である。
今後はレア様と呼ぼう、とジョスランは誓ったのだった。
◇
「ごめんなさい、私、棄権します」
とんがり帽子の魔法使いが、アンジェロに言った。
あたしたちはすでに客席に戻っている。
「ああ。そうだね。さすがに相手が悪すぎる」
「じゃあ、あたしも……」
「あとはクロエとレアにかかってるな!」パストルが言った。「まさかの中級精霊2匹だったけど、レアなら勝てるんじゃないか? なんせ、闇の上級精霊! いや、俺の中では精霊王も有り得ると思ってんだぜ!」
「あう……あう……」
あたしは自分も棄権するって言いたかったのにぃぃぃ!
◇
私とクロエが闘技場の中央に立った。
あ、私は浮いてるんだけどね。
クロエの前には、さっきイケオジを焼いた赤毛の女性。
あれ?
クロエも戦うの?
そっか、私が戦い方を色々と教えたから、試してみたいんだね!
よぉし、応援するぞぉ!
審判らしき男性が手を挙げて、そして勢いよく振り下ろす。
開始の合図だろう。
赤毛の女性はいきなりサラマンダーを2匹、召喚した。
クロエは身構えつつ、私をチラチラと見ている。
うーん?
サラマンダーとは戦いたくない感じ?
仕方ないなぁ。
私はサラマンダーの方に寄っていく。
「久しぶり、私が誰か分かるよね?」
私が言うと、サラマンダー2匹の顔色が真っ青になった。
「まままっままま、魔王!?」とサラマンダーA。
「殺戮と混沌と絶滅の大魔王オーレリア!?」とサラマンダーB。
「いやいや、お花の妖精レアちゃんだよ?」
「待ってくれオーレリア! どうしてこの世界にいるんだ!?」
「そんなことはいい! そうじゃない! 我々は盟約を守っている! 殺さないで!」
「盟約?」
私はキョトンと首を傾げた。
「き、き、君の、いえ、あなた様の世界の人間にはもう手を貸しておりません!」
「本当です! 事実です! 我々はこの世界の人間としか契約を結んでいません!」
「ああ、そっか。思い出した」私はポンと手を打った。「精霊が人間の味方をするから、精霊界をぶっ壊したんだった」
いやぁ、あの頃の私は荒んでいたからねぇ。
なんせ、人類どもが凶悪で凶悪で、私も凶悪にならないと対抗できなかった。
とにかく、人類の戦力を削ぐために、私は精霊の世界を破壊したのだ。
精霊たちが普通に人類と契約を結んで、魔物を攻撃してたからね。
精霊たちは『二度と人類に手を貸さない』と泣きながら私に謝ったので、それで許してあげたんだよね、確か。
「精霊神様まで半殺しにしておいて……忘れていたのか……」
精霊神は精霊王より上位の存在で、各属性に1人ずつしかいない。
私は当時、全ての属性の精霊神を半殺しにした。
ちなみに、属性は全部で6個ある。
火、水、風、土、光、闇だ。
「お、恐ろしい……オシッコ漏れる……いや、我々はオシッコなどしないが……」
しないんだ?
私もしないけどね!
お花の妖精はトイレに行かないっ!
「まぁとりあえず」私はクロエを指さして言う。「この子、私の友達だから、攻撃しちゃダメね? 分かった?」
◇
サラマンダーたちがビクビクと怯え始めたので、エルは一歩後ずさった。
(中級精霊2匹がこんなにビビるなんて、この闇の精霊、もしかして精霊王なんじゃ?)
現在、サラマンダーたちはレアと話をしている。
(精霊王はさすがのうちも無理だよぉ。てゆーか、精霊王と契約したとか、あの子マジでゲロヤバい子じゃん!)
エルがクロエを見ると、クロエは微妙な表情をしていた。
勝ち誇るでもなく、怯えるでもなく。
ただただ、よく分からないという感じだった。
と、サラマンダーたちから『我々は戦えない』という趣旨の意思が送られてきた。
ですよねー! とエルは思った。
棄権しようかな、とエルが考えていると。
『一対一であの子と戦え』というサラマンダーたちの声が脳内に響いた。
(マジで? それでいいの? タイマンなら、さすがに幼女には負けないって)
ホッと息を吐いて、エルは黒い剣を抜いた。