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「へー、意志を持った万能巾着か。いいじゃない。私にちょうだいよ」
「やめろよ。これは俺のものだ」
ああ、憧れの争い奪い合うシュチュエーション!
出会ってすぐ!こんなにも早く!相手は女性だけど。
それに、勇者ルーが俺のものって・・・照れる。
いやんいやん、照れる。
もーやだ。
うれしい。うれしがっている場合ではないけどさ。
「へー、何これ、何これ。しゃべるの?人間?」
聖女が私を取り上げて、下を見たり、中身を見たりし、私は上下に揺さぶられた。
こら、聖女、やめなさい。振ったら駄目。目が回るから、やめて。
う。気分悪くなった。
「いいじゃない。言うこと聞く巾着なら、あんたが探し求めている、世界のメルヘン、聖者の剣でも出してもらいなさいよ」
「こら、プライベートなことを言うなよ」
「ね、マリース巾着さん、この人、伝説の剣の存在、まだ信じてるのよ。聖なる王に伝来されるっていう幻の伝説。んなの、今時子供でも信じないってうのにさ」
「やめろって、返せよ」
「だって、こういう状況はいろいろ確認しないと」
「大事に扱わないと、中にいるんだぞ」
「んもう、おもしろくない。ちょっとぐらいいいじゃない」
聖女の美貌で微笑んだら、誰もがいちころよね。
強引で我がままけれど、可愛くて、薄汚れていても、光り輝く美貌がある。
女の私だってくらくら。
いいなあ。こんな美人に生まれついていたら、何でも望みが叶うだろうな。
「世界の十種財宝ゆえに、勇者ルー・ウェインに大事にされて、あんた、いい身分ね」
「やめろよ」
ルーはやんわりとたしなめてくれたけれど、聖女はがしがし私を伸縮している。
やめなさいよ、布って多少、伸縮あるから、ちょっと伸びたり縮んだりするのよ。そこ、伸ばさないで、やめて。
「万能巾着が意志を持てば、頼めば何でも出してくれるわよね、私、王室の治癒玉が欲しいの。出してくれるように頼んでよ」
この人も、もしかして・・・女の感だけど。
勇者は国一の男だもの。当然だわ。
それに、ルー・ウェインも・・・もしかして、彼女のことを?
聖女もこれほどの美貌だし、男ばかりに女がいて、美女とくれば、勇者だってぞっこんになってもおかしくないわ。
厳しい戦地にいて、お互いの思いが芽生えることもあるだろうし。
なんてことを考えると、私の胸はとんでもない暗闇に陥って、どしんと重くなった。
「お前らの万能袋で取り出せるんだから、そっちに頼めよ」
「そんな高度な機能、私らの巾着に備わってない、ルーのだけよ。十種という世界上位の巾着だから」
聖女が勇者におねだりし甘える場面を見ながら、私は試しに、体の中を探してみた。空洞だから、自分で自分の中身を見るのって、変な気がしたけど、中を探れる感じがするの。
先ほどの戦闘で、手をぐりぐり入れられて、望みのものを取り出していたわ。だから、私もそうやって、探り当てたら、取り出すこともできるはずって、何となく分かって。巾着の体、だからかな。
神殿で祭られ、王族だけが作れる力がある、治癒玉。
知ってる。綺麗な玉で、水晶みたいな輝きを放つの。あれで、全部の元気が取り戻せるのよね。
「ね、お願い。勇者ルー・ウェインのためにも。戦い続けて、体がもうぼろぼろだもの」
私はとにかくごそごそとした。
「これ?」
口から噴き出すと、白い球は、空中に浮かんだ。
「あ、それ」
聖女が今までない喜んだ声をあげ、私の巾着ヒモの手から、玉をふんだくった。
「じゃあ、これ、あんた、飲みなさいよ」
一応、聖女も、勇者のことを心配してるんだ。だから、最上級の治癒玉を私から取り寄せて、勇者に手渡した。
「俺だけ疲労回復したって仕方ない。お前らが飲め。それかエリーレッド公に、あの人は今日の最大の焼却魔法で相当疲れただろうから」
「ん、じゃあ、渡してくる」
なんか、勇者のことを好きかと思ったら、エリーレッド公にも愛想するみたい。機嫌良く聖女は丸い球を手に、寝にいったエリーレッドの後を追いかけていった。
行きざまに、私のことをちらっと見ていったのは、また私を利用してやろうと思っている目だった。私、好きでもない、あまり知らない人に、勝手に体をごそごそされたくないわ。今度来たら、拒否しよう。
みんなして私を疑うわ、利用するわ、失礼よね。
戦場初日ってのに、いきなりがつんとやられて、私は鼻の奥がつーんとなった。どこから空気吸ってるか、分からないけどさ。