巾着よ、望みを叶えて
いったん巾着主が消えてしまい、焚火の前の休憩場所に意識が戻ったら、やはり、こらえきれなくなった。
ぶったまげて、腰抜けた。
うわああん。
今、泣かずして、いつ泣こう。
私死んだ。ひいばあちゃんの気を利かしたお礼に、布おばけの巾着に捕えられて、無理やり同化されて、勝手に魔法使えるようにされて、死んでも天国へ行けない。うあえん。
くっそう、巾着め。ううん、魔王。魔王が憎いわ。
落ち着いてから、私は己のことを考えてみた。
神器の力が使えるって言ってたけど、いったい何使えるってのよ。
十の文字の文字一つで、何かが叶うって言ってたけど・・・
本当に何でも望みが叶えられるのかしら?
本当に何でも望みが叶えられるなら、試しに自分の望みで本当に叶えられるかどうか実験してみようと思って、私は十列の一つの列の頭文字を唱えてみた。
今まではパニくって何だこれ、意味分からん文字めって思ってたけど、他人に使えるって言われたら、ゲンキンなもので、唱えられたんだよね。
私の体に書かれた亀か、丸か分からない文字が光ったかと思うと、文字が目の前で私に言った。
「私は、文字主。何か望みを言え」
「文字主?巾着主ではなくて?」
「一応、文字の主として、私もいるのだ」
「ほえー」
文字主までいるとは。ただの文字の姿だけど。
さすが、数千年生きた文字の碑文は違うというか、棒と線と曲線しかない体だけれど、漂う貫禄があるって思える。
「私、人間の姿になりたい。可愛らしく、綺麗で、あの勇者が好きそうな美女にして」
「本当にその望みでいいのか?十文字の一文字を使う大魔法で、私にかかれば、世界のあらゆる望みが叶えられるのだぞ」
「だったら、魔王を倒して」
「そういうキャパ以上の望みは無理だ」
「だったら、今の、はやく」
「分かった。それでいいなら、叶えよう」
私の体はぱあっと光り、巾着から光となって、白い半透明の妖精みたいな美女になった。
白い薄布を身に着け、手足を大胆に見せた若い娘。彫りが深く、豊かな長い髪を背中まで垂らし、胸は出るとこでて、腰はくびれ、足は細い。
へへーん、こういう美女に一度なってみたかったんだよなあ。
(勇者ルーはこういうの、好きかしら?)
私、人間の姿として、勇者ルーと向かい合いたかったの。
だって、腰巾着のままだと、何を言うにも腰巾着でしょ。
あちらは私の姿に興味を持ってくれているわけだし、これで私が現れたら、きっとルーは私のこと、気に入ってくれるのじゃないかしら。えへ。
そこへ、
「マリース、さっきから声がしてるけど、大丈夫か?」
とうの本人が現れた。
「え、どうしたの、それ、君?」
「ルー。私が本当に私がすごいってことを見せたかったの。本当の私はこういう姿なのよ」
「なんだか、印象と違うなあ。高貴すぎて、俺なんか、見るのが眩しいよ」
予想を大きく裏切って、私、失敗したみたい。思いっきり、ルーが引いてる。
おまけに、私、また嘘を塗り重ねて。




