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「我が手とともに、この世界を救うことを栄誉に思わねばならぬ。魔王との闘いに死力を尽くして戦うのは、この地上の民として、当然のことだ」


 確かに人類滅亡の危機に、参戦しないという選択肢はない。


 でも、私は、なぜ自分がこんな目に遭うのかと、やはり承服できない。


「魔王に世界をのっとられたら、この世は地獄。阻止しなければ、地上の全生物は生きる望みはない。お前は戦いなさい。大勢のために、戦わねばならぬ」


「ふうん、あなた、主人が誰であっても、ついていくのが巾着ってのに、魔王には従わないのね?」


「魔道具は、神に仕える道具だ。魔王を増長させるために作られたわけではない。我らは地上の均整と秩序に尽くす神器、たとえ、生き延びて、魔王のものになったとしても、魔王になど、手を貸すものか」


 ふむ。なかなか、この巾着主、信用できるかも。


「もし、私らが他の誰かのものになったら、どうするの?」


「そのときは、寝たふりしろ」


 は?


「うんともすんとも、反応するな」


「なーるほど、そういう手もありかって、けっこう、せこい手ね」


「巾着だぞ、我らは」


「それで、でも、納得だわよ」


 私らって、結局、腰元ぶらぶらの腰巾着だもんね。


 長年、生き残り続けた巾着主の意地を見た気がした。


 私は即座に理解し、巾着主の助言に感謝した。


 気を取り直して、下を見れば、巾着だから、どこから見ているのか分からないけど、私の体にはある黄金の糸で縫い込まれた文字がきらっと光った。


「これは?」


「その刻文は、召喚術や魔術法を使う文字だ。その聖句文字を読めば、その文字が表す魔術が発揮される」


「これが十文字ってことも、十種宝にかけあわせているのね」


「かつて、昔の偉大な魔術師が、十の魔道具を作った時に、十という数に合わせて作った。縦に、十文字、横に十列ある。一列づつ、使うこともできるし、一文字づつ使うこともできる。文字列は攻撃などの用途があるが、文字列一個は何でも可能だ。簡単に言うと、望みが何でも叶えられる」


「これを使えば、強烈な魔法が、十個まで、使える。もしくは、百個の望みが叶うってこと?」


「ああ」


 巾着主オーティカンは、布ひだに波打つ顔をゆるりと私に向ける。


「この十文字十列の十の魔法は、縦に唱えればひとくくりの大きな魔法になるし、一文字づつ使えば、何でも自分の好きなことを叶えられる。だが、何度もではない。文字一つ、文字列一つ、読めば一回限りだ」


「この文字を読む人がいたら、誰でも使うのが可能なの?」


「基本、聖句の魔法は、巾着主しか発音、使用出来ないようになっている」


「一文字づつ、使うことも可能?」


「ああ。その文字を魔力としても使うことが出来る。だが、覚えておいて欲しいのは、発した後は、巾着主は己の魂を削って放つゆえ、力が衰えるということだ。ゆえに最後まで使えば、お前の最後となる。それを、気を付けて使わねばならぬ」


 博学博識の賢者である魔法使いのエリーレッドの言っていた通りだ。


 巾着主は魂を削って、アイテムを使っていると。


 なんてことだ。


 私には十の文字列と百の文字数の強力な魔法が使える。命と引き換えにだけど。


「すでに、お前は二つ使った。防御の法、攻撃の法。残りのうちの七列は、火、水、地、空、木の五大と、癒しの術、治癒の術で、うまいこと使えば、防御、攻撃としてどれでも使える。使う時に、使うものは、自ずと分かるであろう。あとの一つは、最後に教える」


「なぜ?その最後の一つって?」


「大事なことなので、最後まで教えない。使われては困るからな」


 真面目くさった顔をして、オーティカンは話す。


 これは、絶対にしゃべりそうにない気配だ。 


「まあ、いいわ。あんた、また出て来て、最後、教えてくれるのでしょう?」


「ああ。その時が来ればな」


 私は改めて、自分の置かれた状況に絶望的なものを感じた。


 魔王を倒すため、巾着の燃料として召喚されたなんて。


 私には魔王を倒して、平和をもたらすか、このまま朽ちて眠るかしか、選択肢はないみたい。


 ああ、これは悪い夢でないかしら。


「また現れよう」


 巾着主は、もう同化から抗う力がないのでと、ふたたび巾着の中に戻っていった。

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