2話 寝息と共によぎる気持ち
10時30分。1階ロビーに海星女学園生徒が全員集合していた。600人が入るロビーってどんだけ広いんだよとは思っていたが、正直いうほどだった。30人20列にになり入る。多少余裕はあるけど後数十人入ったらキツキツだろう。そこで先生の話を聞き、バスへ移動、各クラスごとに違う内容で修学旅行のイベント事が始まった。ほかのクラスのことは知らないが、俺たちのクラスは、初日は遊園地だった。ただ遊ぶだけじゃなく、いろんな人と交流できる場所ということで選ばれた。もちろん他のクラスはいない。60人しか入らないので当たり前だが貸し切りではなく、一般客もいる。
「今日は一日ここで過ごします。先生も遊びながら見回りしています。緊急事態であればメッセージを飛ばしてください。それ以外は近くの業務委員さんに言ってくれれば対応していただけると思います。それでは十分に楽しんでください!」
先生のその言葉を合図にみんなが散らばった。ここでは班行動ではなく、個人行動だ。俺は基本好と動こうと思い好の元へ行った。
「あ、友ちゃん」
「好、一緒に周ろ?」
「うん!」
俺は好と一緒に最初に乗るアトラクションを探した。
「これに乗るの?」
「楽しそうじゃない?」
俺が乗りたいと提案したのはジェットコースターだ。元男と言うのもあってやっぱりこういうものには乗りたくなる。ただ、
「私こういうの苦手なんだけど...」
「この遊園地の中でもやさしめなほうだから大丈夫だよ!行こう!」
俺は少し嫌がる好を気に留めず、手を引っ張って列に並んだ。と言っても長い列があったわけではないので、すぐに乗り込めた。一番前の席に座ることができて、俺は興奮していた。好は隣で小さく震えていた。そして、アナウンスが流れ、動き出す。
「おぉ!楽しみだね!」
「う、うん...楽しみではあるけど、やっぱり怖いな...」
「大丈夫だよ!早さも高さもそこまでだって言ってたし」
「誰が?」
「東条先生が」
「それ...多分嘘だと思うよ」
「え?」
「だって...」
好は横から下を覗く。同じように、反対側から下を見てみると、思ってた以上に高く上がっていた。
「これ、高くない?」
顔を上げると、青ざめた好がこっちを見ていた。それと同時に、最高地点まで来たみたいだ。ほぼ垂直落下し、スピードを上げて走っていった。
「「キャアァァァァー!」」
俺たちは叫んだ。
ジェットコースターを降りると東条先生が立っていた。
「どうだった?森さん、花崎さん。この遊園地で一番怖いジェットコースターは」
「「死んじゃうかと思いました...」」
俺たちは肩を落とし、少し青ざめた顔でそう言った。東条先生は笑っていた。
「なんで笑ってるんですか!」
「ごめんね、面白くて」
俺は少し強めに言ったつもりなのだが先生はずっと笑っている。
ひとしきり笑った後、東条先生がまたおすすめを教えてくれた。今度こそはと思いそのアトラクションに向かう。名前と場所だけ教えてもらったのでどんな乗り物かまでは分からない。
「東条先生のことだからきっとからかって遊んでるんだろうね」
「そうかな?僕はそうは思わないけど...ってこれかな?」
そうこう話していると東条先生の言っていたアトラクションに着いた。それはどう見ても空中ブランコだった。アトラクション名がオクトパスクラントだったので、なんとなく察しはついていた。
「これかー、楽しそうだね!」
「私は乗りたくないんだけど...」
「そう言わずに行こう!」
「仕方がないなー」
そう言い列に並び、アトラクションに乗り込む。
アトラクションを降りると東条先生が立っていた。なんか見たことある光景に見えた気もしたが、今の俺にはそんな余裕はなかった。
「どうだった?この遊園地で群の抜いて楽しいアトラクションだと思わない?」
「「それは思いますけど...恐かったです」」
俺たちは涙目でそう言った。東条先生は相も変わらず笑っている。
「でも楽しそうでよかったー。朝はちょっと暗かったし、大変なことがあったしね」
「東条先生、もしかして僕たちを気遣って...?」
「さぁ、どうかしら?ささ、どんどん次のアトラクションに行くよー!」
それから俺たちは、東条先生を加えた3人で、遊園地を満喫した。
夕方になり、全員がバスに乗り込んだ。
「ねぇねぇ、二人ともあまり見かけなかったけどどのへんで遊んでたの?」
「いろいろ回ってたから行き違いになってたのかもね」
クラスメイトの一人に聞かれたのでそう答えておいた。本当は、東条先生もいたので、何かあったのかと心配されたくなくて避けていたのだが。
「みんないるわねー?」
バスのスピーカーから東条先生の声がする。
「それじゃあ今からホテルに戻ります。途中一度だけ休憩を目的に止まります。それ以外では緊急時以外止まらないので、その時に用事を済ませるように」
『はーい』と元気な声がバス内に響く。遊園地で遊び疲れているかとも思ったが、そんなことはないようだ。
「みんな元気だね...僕は疲れたよ」
「友ちゃんははしゃぎすぎなんだもん。私だってそんなに疲れてないよ?」
「そうなの!?僕はもうぐったりだよ」
「眠たいなら寝てもいいよ?休憩の時になったら起こしてあげるから」
「ならお願いしようかな...ふあぁ」
俺はそのまま瞼を閉じ、寝た。
「あれ?森さん寝ちゃったの?」
「うん、眠そうにしてたから寝ていいよって言ったの」
「そうなんだ。せっかくだからトランプでもしようと思ったんだけど」
「ありがとう。その気持ちだけで大丈夫だよ。疲れてるみたいだから寝かせたいし」
「うん、わかった。今度誘うね」
「うん」
クラスメイトに誘われたけど、友ちゃんは寝ているし私だけやるのはなんか嫌だったから断った。
そう後すぐだった。寝た友ちゃんは私の肩に頭をのせてきた。
「あ......もう」
私は微笑んでそのままにしてあげた。友ちゃんの顔を見ると、なんだか友ちゃんならいいかなって思ったから。
そのあとは休憩まで、友ちゃんをそのままにしてあげた。
「......ちゃん。...ちゃん。ゆうちゃん」
「んん...ん?」
俺は体がゆすられるのと同時に聞き覚えのある声が聞こえて目を開けた。
「おはよう友ちゃん。休憩の時間だよ」
「あ、うん。おはよう好」
どうやら休憩所についたらしい。休憩はここでしかしないらしいので用を済ませたい。
「じゃあ僕はちょっと行ってこようかな」
「お花摘み?」
「うん」
「行ってらっしゃい」
俺は好にそう言ってから、バスを降りお花摘みに向かった。正直体が女になってから割と長い期間がたったが、まだ慣れない。別に今更男に戻りたいと思うわけじゃない。でもどうしても抵抗がある。
「はぁ、どうしようかな」
トイレに入った俺は個室でそうつぶやいた。
「その声は森さん?」
「え?そ、そうだけど...」
話しかけられた。個室にいる人に話しかけるってどうなんだろうとか考えているうちに疑問をぶつけられた。
「どうかしたの?いまどうしようってつぶやいてたよね?」
「あ、えっと...な、何でもない」
「そう?ならいいんだけど...困ったことがあったら言ってね?私先にバスに乗ってるからー」
「う、うん」
足音が遠くなっていった。
「はぁ...何だったんだろう」
俺は疑問に思ったが遅れるのも嫌だったのでそのまま用を足した。
その後はすぐにバスに乗り椅子に座った。どうやら俺が最後のようだった。
「みんないるわね?じゃあ出発するわよー」
東条先生のその合図でバスが出発する。さっきまで寝ていた俺は目がさえていた。周りも最初はにぎわっていたが疲れが出てきたのか、寝る人が多くなってきた。隣に座っている好も寝ていた。ちなみに起きているのは俺を含めて大体2割くらいだった。先生も寝ている。
「はぁ...」
「ん?どうしましたの森さん?溜息なんてついて」
「え?」
溜息をついた俺に対し、前の席のクラスメイトが話しかけてきた。名前すら覚えていない。
「えっと...なんとなく?」
「あらそうでしたか。なんか寂しそうな顔してましたから何かあったのかと思いましたわ」
「そうかな?まぁありがとう。えっと...」
「あ、わたくし、リーナ・カルメイラと申します。気軽にリーナとお呼びください」
「あ、わかったよリーナ」
リーナは微笑みながら座り直した。正直にいうと溜息をついたのには理由がある。
(好の寝顔って、なんだかんだで見るの久しぶりだよな)
そう思うとなんだか胸の奥が痛くなる。それをごまかすための溜息だった。最近何かとそういうことが多い気がする。なぜなのだろうか。といっても相談するよなことでもないし、する相手が本人ってのは流石に嫌だからとどめておいている。
ホテルについて俺たちは部屋に戻った。晩御飯までは少し時間があるらしい。それまでは自由行動とのことだった。敷地内は自由に使っていいらしい。部屋でゆっくりしようと、敷地内のグラウンドで遊ぼうと、お風呂にはいろうとなんでもいいらしい。俺の部屋のクラスメイト二人は早々にお風呂に向かっていった。もちろん誘われたが、俺には何か後ろめたさがあったので、晩御飯の後の自由時間で入ると言って断った。
「友ちゃん、じゃあやろっか」
「うん。というか好まで断る必要なかったんだよ?俺が好きでやろうとしてることだから手伝う必要もないし...」
「いいの!私だって友ちゃんと一緒がいいし、私も好きでやってることだから」
「ならいいけど...」
好もお風呂のお誘いを断っていた。俺と入りたいとか言い出すし。
「じゃ、始めるか」
「うん!」




