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四月一日空音は嘘を吐かない  作者: 赤魔珠乃
可憐なる彼女は誰を愛し何を思う
4/7

可憐なる彼女とその彼氏、そしてその彼女(2)

 凍島麗奈? 誰だそれは? このユニフォームの男子は今、一之宮先輩の彼女は西條可憐さんではなく凍島麗奈さんだと言ったのか?


つまりは二股をかけていると、そういうことなのだろうか。

いや、でもバスケ部はモテると聞く。

さらにはエースと来たもんだ。

場合によっては二股どころではないかも知れない。


「ん? あれおかしいな? 凍島さん別れたのかな? いや、そんなことないと思うけどな……」


 ユニフォームの男子は、困惑する僕達を見て自分が間違っているのではないかと思慮を始める。


 考え込む彼に、四月一日が真意を確かめようとする。


「凍島さんって一体何者なの? 歳は? 学校は? 一之宮先輩と付き合ってどれくらい?」


 まくしたてるように質問する四月一日。

 立て続けに質問しては可愛そうだと思ったが、ユニフォームの男子は丁寧に答える。


「歳は多分十五歳。学校は今日からここですよ」


「ここ?」


 思わず考える前に口が出てしまった。

 なるべく四月一日が話しているときは、邪魔しないように気を付けているのだけれど。


「はい。俺と同じ中学出身で今日からここ、糺の森(ただすのもり)高校の生徒です」


 なるほど、それで体操着ではなくユニフォームなのか。

 本来、試合用であるユニフォームを普段の練習から使っている部活は多くない。


 それでは彼の場合何故かと聞かれれば、体操着が無いからだ。

 支給されていないから。

 新入生であり、バスケ部に入りたい彼は体験入部を申し出たのだろう。


 しかし、制服は動く格好に適してはいない。

 そこで、部員のユニフォームの出番な訳だ。

 ユニフォームを貸した部員は、体操着で練習する訳だからなんの問題もない。


「――はっはーん。なるほどね。なるほどなるほど。分かっちゃったー」


 黙っていた四月一日が口を開く。

 黙っていたと思ったら考え込んでいたらしく、そして直ぐに結果は出たようだった。


「四月一日、何が分かったのさ」


「分かったって言っても全部じゃないよ? 推理を立てることのできる情報が揃ってきたってだけ――ところで一之宮先輩はどの人ですかね?」


 四月一日は僕の質問をあしらいつつ、本命の所在を聞き出そうとする。

しかし、


「うーん……どこ行ったんだろう。ちょっと先輩に聞いてきますね」


 ユニフォームの男子は体育館を見回したが一之宮先輩を見つけられなかったようで、練習をしている部員に聞きに行ってくれた。

 そして少し話した後、部員を連れて戻ってくる。


 連れてこられた部員は目の細い、細身で長身の男だった。

 僕はこの男に見覚えがあった。

 見覚えがあったというか、過去の依頼人の一人だった。

 依頼と言っても、落とし物を探しただけなのだが。


「なんやー? また一之宮クンに告白かぁ? ホンマモテ男は一回痛いめ見たほうがええんちゃうか――ってアンタらか。久しぶりやね。四月一日チャン、月見里クン」

 

 話しながら近付いてきた男は四月一日だと確認すると、うんざりしたような顔からにっこりした笑顔へと表情が変わる。

 四月一日も笑顔で返す。


「お久しぶりです……えーと」


 おいおい、まさか名前を忘れているんじゃないだろーな?

 僕は直ぐに四月一日をフォローする。


「お久しぶりです。徳井先輩」


「あっ。お久しぶりです徳井先輩」


 ”あっ”ってなんだよ”あっ”って。完全に忘れてたろ。


「まーた、一之宮クンに告白しに来た女子かと思たわ。でも四月一日チャンならそんな心配いらんな」


 徳井さんは軽く視線を僕の方に向ける。

 やめろ、僕に視線を向けるんじゃない。


「なんや? また探偵部のお仕事かなんかか? でも一足遅かったな。一之宮クンならさっき、ケータイに電話かかってきて、なんや血相変えて急いで帰ってったで」


 急いで帰った。

 これは容易に想像ができる。

 恐らくは、西條可憐さんについての連絡を受けたのだろう。

 つまり、西條可憐さんが入院しているであろう病院に向かった、と予想するのが妥当だ。


 四月一日は困ったような素振りをする。


「そうなんですよねー。探偵部のお仕事です。一之宮先輩に話があったんですけど、徳井先輩って一之宮先輩と仲いいんですか?」


「ん、まぁな。なんや一之宮クンが急いで帰ったんと関係あるんか?」

 

 徳井先輩、こういうところは感が良いんだよなぁ。

 感が良いというか、考えが早いというか。

 流石、バスケの司令塔、ポイントガードを務めているだけのことはある。

 でも、結構天然も入っているので、やたらと厄介ごとを起こしたりしているが。


「そうです。ぶっちゃけた話、今回の事件は一之宮先輩の彼女のことです。一之宮先輩が急いで帰ったのはこのことですよ」

 

 いつもは変化球から入る四月一日だが、今回はなんの捻りもなくストレートで斬り込む。

 徳井先輩は、僕達が探偵部であることを当然知っているわけだし、変化球に意味は無いと判断したのだろう。

 むしろ、探偵部であると知っているからこそ、わざわざ変化球にする必要が無いとも言える。


「はー。そら一之宮クンも難儀やねぇ。一之宮クンには痛い目見ろ思とったけど、西條チャンが巻き込まれたのはちと可愛そうやな」


 西條チャン。つまりは西條可憐さん。

 徳井先輩は一之宮先輩の彼女を西條さんだと言う。

 ここで既に、証言に食い違いが出てきている。


「そのことなんですが、そこの新入生君は凍島麗奈さん? って人が彼女だって言ってるんですけれど、知ってますか? 徳井先輩」


 僕の質問に、徳井先輩は少し考えて答える。


「……いや、知らんな。初めて聞く名前や。おう新人クン。誰や? 凍島麗奈チャンって」


「凍島さんは俺と同じ学校出身で同級生です。長い髪の女子ですよ」


 新入生君は彼女の容姿について説明をしてくれる。

 説明してくれたところで、今日入学してきたのだから見覚えがあるわけもないのだけれど。


「凍島さんは本当に一之宮先輩と付き合っていたんですか?」

 

四月一日による質問。新入生君は証言を添えて答える。


「はい。俺も実際に二人が歩いているのも見たことありますし、クラスの女子と一之宮先輩のことについて話しているのも何度か」


 そして、僕は当然考えられる一番簡単な答えを思いつく。


「うーむ、ということは二股ですかね?」


 しかし、その答えは速攻で否定された。

 しかも二人に。


「いや、それはないやろ」

「それはないね」


 徳井先輩と四月一日である。

 徳井先輩曰く。


「確かに一之宮クンはイケメンやし、チャラいし、とっかえひっかえできるくらい女子にモテるし、それでいてバスケ部のエースや。でもな、二股はありえへん」


 いや、そんな人だからこそ二股がありえるのでは? と思ったのだが。


「一之宮クンはな、『俺にはお前しかいない』ってよくある落とし文句を地で行くようなやつやで。振られたって話しはよう聞くけど、振ったって話は聞いたこと無いもんなぁ」


 徳井先輩はともかくとして、四月一日はなにを根拠に否定したのだろうと思っていたら、


「そうでしょうね。もし一之宮先輩が女子をとっかえひっかえするような人だったとしたら電話を聞いて飛んで帰る? スモールフォワードでも恋愛は一途だったようね」


 おっ、よく一之宮クンがスモールフォワードやと分かったな。いえいえ、バスケのエースと言えばスモールフォワードですから。

 と、徳井先輩と四月一日。


 四月一日が探偵らしく簡単な推理を披露する。


 ちなみに、最後四月一日がドヤ顔で言ったのは、色々な技術の習得を要されるスモールフォワードだが、恋愛において習得するのは一人だったみたいね!

 みたいな、つまらないものである。


「じゃあ、一体この食い違いはどういう訳なのさ」


「さあ」


 僕は四月一日に回答を求めたが、返事はそっけないものだった。


 しかし、実際問題として二股はあり得ないけれど、実際に二人の知り合いがそれぞれ他の女子と付き合っていると言っている。

 他に考えられる可能性は……。


「ま、それはそれとして次の質問にいきましょうか。一之宮先輩と西條さんってお昼ごはんはどうしていたんですか?」


 四月一日は質問を変える。

 恐らくはこの食い違いは言及したところで進展はない、と判断したのだろう。

 もしくは、既に四月一日の中で決着しているのか……。


「うーん……確か、教室で食べてたかなぁ? 西條チャンの弁当がどうのって自慢してきたこともあったしなぁ」


 徳井さんが少し考えて答える。

 屋上は関係ないのか?


 しかし、弁当を食べるだけなら場所はどこでもいい。今日は屋上だったとかそんなこともあるだろう。


「屋上では食べないんですかね?」


 僕は、屋上を使わないのか聞いてみた。

 しかし、


「屋上? なんでや? そもそも屋上は常に鍵掛かっとるし、侵入経路もないやろ」


 漫画に憧れて屋上に侵入しようと思ったこともあるけど、ダメやったわ。

 と徳井先輩。


 屋上には這入れない? それなら西條さんはどこから落ちたんだ?

 僕が思考を巡らせていると、


「そうですか、分かりました。ご協力ありがとうございます」


 と、四月一日。


「え、ちょっと四月一日! まだ何も分かってないんだけど! もっと聞くべきことがあると思うんだけど!」


 僕には何も分からない。

 だけれど、四月一日は分かっている。

 そこに劣等感は無く、僕はただ単に答えが知りたかった。

 でも、四月一日はこう言うのだった。


「次の場所に行くよ。心当たりがある」

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