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四月一日空音は嘘を吐かない  作者: 赤魔珠乃
可憐なる彼女の愛は深淵より深く、深淵より黒い
5/7

可憐なる彼女が天から落ちた理由(1)

 ■■■


「教室?」


 三年一組のなんの変哲もない教室。

 僕達の教室とも、部室とも変わらない至って普通の教室だ。

 四月一日は心当たりがあると言ったけれど、この教室のどこが特別なのだろうか。


「ん? なに月見里。まだ気付かないの?」


 四月一日は、腕を組みながら入口横の壁に寄りかかる。


「気付くって何に?」


「この教室の位置関係よ」


 位置関係? 何と何の位置関係のことだ?

 僕が教室を散策しようとすると四月一日からストップが入る。


「ちょっと、現場を荒らさないでよー?」


 現場? 何の? 位置関係?

 いや、待て。

 そうか、ここは、


「『探偵部』の真上の教室」


「正解。そのとおりよ、よくできました。さて、他に気付くことはない? 他の教室とは違う所。間違い探しという訳ではないけれど、違和感を探してみて」


 違和感。

 僕は改めて教室を見渡す。

 先ほども思ったが、何の変哲もない普通の教室だ。

 無くなっている物も無いし、教室にそぐわない様な物が加わっていることもない。


「月見里って間違い探ししたことないの?」


 僕が悩んでいると、見かねた四月一日がヒントを出してくれた。


「間違い探しってのは何かが無くなったり、加わったりするんじゃなくて、何かが変わったりしていることが圧倒的に多いよねー」


 無くなったり、加わったりしているのではなく、何かが変わっている……。


 目を凝らす。教室の隅から隅まで見渡す。

 するとそれはあった。

 あったというか、変わっていた。

 ほんの少しの違和感。

 それは当たり前のように、教室の中央に居座っていた。


「いやー間違い探しって案外周りから探しちゃうから、ど真ん中ってのは気付きにくいものなのかなー」


 四月一日は寄りかかっていた壁から離れ、僕の横に来る。


「ズレた机、椅子。これだけだとただのランダムだけど、その先にある窓。あれが四月一日が言いたかったことだろ? ガラスに付着している擦れたような指紋の後、そして二重ロックが掛かってない」


「おっ、二重ロックまで気付いたのね、流石月見里。私は気付かなかった」


 僕はその窓に近付く。

 すると、四月一日は指紋気を付けて。と注意する。

 僕は分かってるよ、と返してハンカチを使ってロックを解除して窓を開く。


 そして窓から身を乗り出して下を見る。


 あの時と同じ風景だ。

 西條さんがいたあの景色と。

 今はそこには西條さんはいない。

 それでもはっきりと分かる。

 確信する。

 ここが犯行現場で、西條さんが落とされた場所なのだと。


「どうやら、この教室は一之宮先輩のクラスらしいね」


 窓の下を覗く僕を他所に、四月一日は机の中を物色して、一之宮先輩の教科書を取り出していた。


 僕が落ち込んでいる時に、堂々と何をしているんだ四月一日は。

 僕は呆れてため息を吐く。


「で、犯行現場は発見できた訳だけれど、犯人についてはどうなのさ四月一日」


 四月一日はにっこり笑いながら言い放つ。


「名探偵、皆を集めてさてと言い――とはいかないね。皆帰っちゃってるし。折角の事件なのだから格好良く決めたかったのだけれど、ここは一探偵として、犯人に直接自首でも促しに行こうかしら!」





 ■■■


 ピンポーン。

 呼び鈴の音がする。

 四月一日はインターホンのボタンを押した後、インターホンのカメラの正面に立つ。


 都内に構えられた一軒家はアンティークな雰囲気で周りには塀。

 そして門付きと、中々に高級そうな佇まいである。


 しばらくしてインターホンから、女性の声が聞こえる。


「はい、どちらさまでしょう?」


「凍島さんのご自宅ですね。凍島麗奈さんはご在宅でしょうか?」


「ええ……部屋にいますけど……」


インターホンから聞こえる声の女性は年齢的に凍島麗奈さんの母親だろうか。


「申し遅れました。私、四月一日空音と申します。こっちは月見里真実」


 四月一日はにこにこしながら、僕を紹介する。

 カメラに僕は映っていないのだが。

 勿論、映っていないのはたまたまではなく、完全に四月一日の策略である。


「は、はあ」


 映っていない人を紹介されて困惑しているようだ。

 そりゃそうだ。

 だが、四月一日の計算された純真無垢な笑顔が反撃を許さない。


「今日は麗奈ちゃんに忘れ物を届けに来ました!」


「忘れ物? あらあら、それはわざわざありがとうね。今開けるから待っていて頂戴」


 全く、何が『麗奈ちゃん』だか。

 これもまた、四月一日の計算である。

 親しいことをアピールして警戒を解く為。


 当然あちらは、入学したてなのだから自分が知らない娘の友達がいてもおかしくないと思うだろうし、家を確認したのだって、なんらおかしい事ではないと解釈する。


 しばらく待っていると、家の中から凍島麗奈さんの母親と思わしき女性が扉を開けて出てくる。


 そして僕達の所に近付いてきて門の鍵を開ける。


「こんにちわ」


 四月一日が満面の笑みで挨拶をする。

 僕もそれに続き、こんにちわと挨拶をする。

 凍島麗奈さんの母親も、優しく挨拶を返してくれた。


 これで既に凍島麗奈さんの母親は、四月一日の手中いると言っても過言ではないだろう。


 人間、第一印象が大半である。


 凍島麗奈さんの母親は、直ぐに僕達を家に上げてくれた。

 そして、リビングに僕達を通して二階に上がり凍島麗奈さんを呼ぶ。


「麗奈~。お友達が来てるわよ~。降りてらっしゃ~い」


 降りてきた後、冷蔵庫からお茶を取り出し、コップと一緒に僕達の前に置く。


「あの、なんなら麗奈ちゃんの部屋に……」


 四月一日が申し訳なさそうに提案する。

 単純に母親が邪魔なだけだろうが……。


「ああ~、もう買い物に出かけなくちゃいけなくてね。お茶も注げずにごめんね~」


 幸い四月一日の心配は無用だったようだ。

 母親は再三、凍島麗奈さんを呼ぶ。


「直ぐに降りてくると思うから、もうちょっと待っててね。さっき帰ってきたばっかりだから」

 

 凍島麗奈さんの母親はバタバタしながら家を出ていった。

 さっき帰ってきたばかり……か。

 それもそうか、犯行時刻から考えるに、最速で帰ってもこれくらいの時間になってしまう。


「降りてこないな」


 待ち始めて五分を過ぎようとした頃、僕は思わずそんな感想をこぼす。


「女子の身支度は時間が掛かるものよ。それくらい我慢したら? モテないよ?」


 今、モテるかモテないかは関係ないだろ。


「いや、それはそうだけどさ。それを考慮しても遅くないか? 僕達は西條さんが落ちてから、救急車を呼んだり、探偵業をしていただろ? 落として直ぐに帰ったとするなら、着替えるには十分立ってるだろ」


「ふむ、それもそうね――ん? 待って。この展開は正直考えていなかった! いや、考えてたよ!? 考えていたけれど!」


 四月一日はそう言うと、突然立ち上がり急いで二階へ駆け上っていく。

 僕も急いで四月一日を追いかける。

 

 僕が二階に上り終わると既に何部屋か扉が開け放たれていた。

 四月一日に追いつき、四月一日がドアノブを回し扉を開く後ろに立つ。



 そして開いたその部屋は薄暗かったが、四月一日が電気を付け直ぐに全貌が明らかになる。


 跡痕跡。

 跡痕跡痕跡痕。

 跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕跡痕。


 至る所に跡。

 至る所に痕。


 部屋中。

 体中。


  跡。痕。


「随分荒れてるね。部屋も。心も」


僕は思わず委縮してしまうが、四月一日が部屋に臆せず這入っていく場面を見ると勇気づけられた。


改めて僕はしっかりと部屋を見据える。


 可愛いぬいぐるみにピンクの家具。

 可愛い壁に可愛い絨毯。

 一般的と思われる女子の部屋。

 その全てがズタズタに引き裂かれていることを除いて。


 ぐったりとして、ベットに寄りかかる長い髪の女子。

 手首には自傷と思われる複数の傷痕。


「大丈夫。血は既に止まっているみたい」


 四月一日が介抱しようと彼女の体に触ると、彼女はビクッと反応してゆっくりと目を開く。

 そして必死に僕達から逃げようとする。


 初めは僕達の姿を捉えきれないのか焦点も合わず、ひたすら逃げようとしていた。

 必死に逃げようとするも体に力が入らないのか、座ったまま足と手をバタバタさせるだけの彼女。


 そんな彼女の目の前に四月一日は正座する。


「ライトの逆光で誰だか見えにくいのよ。月見里、座って」


 ああ、そういうことか。

 僕も四月一日に習って正座する。

 四月一日の右斜め後ろに。


 彼女が僕達を視認し始める。

 力無き声。


「あなた達……誰?」


 うん、至極真っ当な質問だ。


「私は四月一日空音。こっちが月見里真実。私達は『探偵部』です」


「『探偵部』……?」


「はい。私達は凍島麗奈さん、あなたの忘れ物を届けに来ました」

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