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 空気が一段と緊張したものになったのを琉歌は肌で感じた。



 国王だと紹介したはずのマハト・フェンデルングを臣下と言われたフリード・ハルモニアは目を大きく見開いた。それは明らかな動揺だった。


「……この方はこの国の王でございます」


 動揺を隠すためなのか困った様な笑顔でそう言ったフリードに確信に満ちた口調で言った。


「国王は貴方ですよね?フリード・ハルモニア様?」


「……何故そう思われるのですか?」


「臣下は常に主より後ろに立ちます。そしてなによりも、自分の名を先に名乗ることはしません」



 臣下は常に主の背中を守るものだ。そして自己を主張せず、主を引き立たせる。

 フリードは王と呼ぶ者の横に立っていた。それに疑念を抱き、彼が先に自分の名を名乗ったことで確信に変わった。



 そこまで言われたフリードは、思い当たる節があったのか負けたとでも言うかの様に両手を上げ、肩を竦めて見せた。



 それを見たクラスメート達はざわつきはじめた。


 琉歌の言葉が真実だと気がついたからだ。



 それを見かねたのか、王座に座っていた黒髪の男性は立ち上がり、フリードの斜め後ろに立つ。


「失礼致しました。此方に御座すのはこの国ハルモニアの王であらせられるフリード・ハルモニア様でございます。私はこの国の宰相マハト・フェンデルングと申します」


 宰相と名乗ったマハトは、頭を下げ今までの非礼を詫び、フリードを王座へと座るように促す。

 


「あー、はいはい」


 フリードはこれまでの紳士的な態度を一変させ、その顔に不機嫌そうな表情を浮かべながらドカッと面倒くさそうに王座に座った。


 その様子に空気が少し穏やかなものに変わった。

 


「……あー何だ? そのだな、別に騙そうと思ったわけじゃないんだ」


 ばつが悪そうに目を逸らしながらそう言った彼に宰相マハトは呆れたように、


「……陛下は素がこれですから、人前では猫を被るようにしているんですよ」


 今のフリードは、面倒くさそうな態度を隠そうともせず、肘を付き、その上に顎を乗せてふてぶてしく座っている。

 それだけを見ると確かに威厳のある王というイメージとは程遠く思えるかもしれない。


 けれど、


「猫を被ったまま国王をなされば良かったのでは?」


 琉歌の言葉に、それもそうだという様にみんなが頷く。


 猫を被っている時のフリードは紳士的でまさに王子様といった風貌だったからだ。


「それはいつもやってる。この国に俺の顔を知らない奴はいないからな。……まぁ単なる遊び心ってやつだ! 

 だが、結果的にお前らを騙すような形になっちまった……すまなかった!」


 フリードは面倒くさそうに座っていた姿勢を正し、頭を下げた。


 みんなは王が頭を下げるとは思わなかったのか、慌てはじめた。

 指摘した琉歌も王が頭を下げるという意味を理解していただけに少し焦りを感じる。


 皆が口々に「気にしていません」「頭を上げて下さい」と言うとフリードは、その顔に苦笑を浮かべながら頭を上げた。


「本当にすまなかったな」


 最後にもう一度そう言うと、


「俺がこの国ハルモニアの国王、フリード・ハルモニアだ」


 彼は改めて自らの名を名乗った。


 その雰囲気は、威厳のあるものではなかったが人を引き寄せる何かがあった。



「よし、許してもらったし話を戻そう。なんだったか? ……あぁ思い出した。いつまで此処にいればいいのかだったな?」


 フリードは軽い調子に戻ると、一つ手を叩き、話を元に戻した。



 


「自由にして構わない。だが、何も知らないお前らに人ひとりを捜し出せるほど、この世界は甘くも狭くもねーぞ?」



 フリードの言葉に琉歌は唇を噛んだ。


 手掛かりすらない状況、その上何も知らない異世界で人ひとりを捜すのは無理に等しいことだと理解しているからだ。


 世界の地理や常識などは調べればわかる。けれど手掛かりがなければ暗中模索もいいところだ。



 そんな琉歌の様子に、



「ふむ、まぁ手掛かりならなくもないぞ」


 事もなさげにそう言ったフリードに宰相を含め、皆が驚いたように彼に視線を向ける。


「その手掛かりとは何ですかっ!?」


 掴みかからんばかりの勢いで続きを促す琉歌に、フリードは思い出すようにして腕を組む。


「神官が持ってきたお前らを召喚した魔法が書かれてる本だよ。パラパラ読んだんだけどなぁ…」


 うーむ、と唸りブツブツと何事かを呟く彼に痺れを切らした。


「その本を私に見せて下さい!」


「それは……」


「構わない。たいした本でもないしな」


 宰相の言葉を遮り、フリードは許可を出す。


「しかしっ……」


「俺には臣下の気持ちは解らない。けど、俺にだって民を思う気持ちがあるんだぞ? 王であろうと人を思う気持ちに変わりはない。あんな紙切れで役に立つならばそれくらい構わないだろ」


 そう言ったフリードはまさに人の上に立つに相応しかった。


 国宝級の一品を見せることに戸惑う宰相に、それを紙切れというフリード。


 けれど、宰相も臣下の気持ちという言葉に思うところがあったのか何も言わなくなった。


 フリードは宰相を一瞥すると、琉歌たち一人ひとりの瞳を黙って見つめていく。それはまるで何かを確かめている様子をだった。


 見つめられている者達は居心地悪そうに身をよじったり、視線を彷徨わせたりしている。中には顔を赤くする者もいた。

 適当そうな態度が目に付くフリードだが、顔は良く、特に今は真面目な表情をしている。赤くなるのも仕方ないだろう。





 しばらくして、何かに納得したのか一つ頷くと真面目な表情のまま口を開いた。



「住む部屋も含め必要な物はできる限り用意する。文字も戦い方も知りたいなら教える。何かを強制したりもしない。人を捜したいなら力を貸す!


だから出来る限り、どんなことでもで良い、……俺たちに力を貸してくれ!!」


 国王であるフリードが頭を下げると、宰相のマハトも倣ったように頭を下げた。


 王が頭を下げるより何より、その声、その言葉には先の身分を偽っていた時とは比べものにならない程の思いが込められているような真摯な言葉だった。



 そんな彼らに複雑な感情が湧いてくるも、


「……少し時間を下さい」


 この場で今すぐ決めることはできないと思い、考える時間が欲しいと言った。



「わかった、部屋が用意でき次第案内させる」
















 琉歌達が去った王の間では、国王と宰相の声が響く。


「どう思った?」


「……皆若いですね。ですが、肝も座っていて判断力もある」


 二人は召喚された者たちの話をしていた。


「ああ、それに全員が魔力持ちなうえ精霊もたくさん寄ってたぞ。特に俺の正体を見破った女」


「……魔力ならわかりましたが精霊まで…」


 魔力を持つものはある程度の実力があれば相手の魔力を見ることができる。

 しかし、精霊は精霊術を使う精霊術師にしか見えない。


 この国の王フリードは精霊術師だ。<高位精霊>を使役するには及ばない<中位精霊>を使役できる力を持つ。


 そんな彼が言う言葉なのだ。


「これはひょっとするとひょっとするかもしれませんね」


「…そうだな、だが今は何の力も無いような子供だ…。平和な世界で平穏に暮らしていた」



 そんな世界からこのような滅び行く世界に来てしまった彼らの心境とはどのようなものか、当事者でなければ想像もつかないことだ。


 そんな彼らを無理に魔物などとの脅威と戦わせることは出来ない、とフリードは難しい顔をして言った。


「まぁ何も力というのは戦う力だけではありません」


 力というのは戦うだけではない。考える力、守る力、支える力、様々な力がある。



「まぁそれもあいつらがどうするか決めてからだけどな」


 あとは彼らの判断に任せるしかない。


「……ままなりませんね」


「……ままならねぇなぁ」


 二人は天を仰ぎ揃って溜息をついた。










 部屋に案内された琉歌達は情報を整理する前に自己紹介をすることにした。


 高校2年の春、つまり学年が上がりクラス替えから間もない時期だった彼らは知っている顔もあれば知らない顔もあるのだ。


「んじゃ俺から右回りな! 俺は渡瀬 勇也。趣味はギターとか音楽系な」


 渡瀬 勇也と名乗った少年は焦げ茶色の髪を立たせ、首からヘッドホンを下げている。



「私は藤堂 桃香。え~と趣味は…ガーデニング? お花が好きかな」


 琉歌の親友である藤堂 桃香は、黒髪を肩につくかつかないかまで伸ばした少女。



 次々と自己紹介をしていく。



 結城 飛鳥、明るい茶髪を一本の三つ編みにしている気が弱そうな少女。



 北郷 清隆、黒髪の眼鏡をかけた、いかにも理系の雰囲気。力とは何なのかと国王に質問した少年。




 石田 涼介、少し長めの茶髪を首の後ろで縛っていて、右目の下に泣き黒子がある少年。



 瀬戸 杏、赤茶色の髪をポニーテールに結んでいる気が強そうな一番背の低い少女。瀬戸 彰の双子の姉。



 瀬戸 彰、両目が隠れるほど前髪を伸ばした姉とは対照的に一番背が高い少年。瀬戸 杏の双子の弟。


 七人の紹介が終わり残りは琉歌だけになった。



「私は園田 琉歌、特技は武術全般よ」


 自分の名を名乗った後、言いたいことがあると、言葉を続けた。


「勝手なことだって理解してる。それでも私は悠を捜したいの…っ…!」


 琉歌とてクラスメートのことを考えると自分勝手なことを言っているということはわかっている。しかし、

 


「あのさぁ、ホントに姫ちゃんいるの?」


 勇也の言う姫ちゃんとは悠のことだ。悠はその容姿から一部では“姫”や“白銀の君”などと呼ばれている。


「私はいると思ってる。あの教室にいたのは悠を含めて九人。その内の八人が召喚されて一人だけ召喚されないなんて思えない」


 その言葉に皆が難しい顔をする。



「……この世界の夢を見たのよ」



 不思議な夢だった……。



「園田さんもですか?私も不思議な夢を見ました」


 夢を見たと言った琉歌に、不思議そうにそう言ったのは飛鳥だった。

 けれど皆が次々に自分も夢を見たと言う。


 それには琉歌も目を見張った。


 夢を見ること自体はさほど珍しいことではない。けれど皆が皆不思議な夢を見たと言うのだ。偶然にしてはおかし過ぎるだろう。


 一人ひとりにどのような夢だったかを尋ねていくが、みんな断片的にしか覚えていない。

 けれど見た夢の内容は違うということがわかった。



 琉歌は壊れていく世界の夢。


 勇也は剣と剣がぶつかり合う戦場の夢。


 桃香は燃え盛る炎の夢。


 飛鳥は貧困で痩せ細り苦しむ人々の夢。


 清隆は砂漠を歩く夢。


 涼介は獣人と思われる獣耳を生やした少女に殺されそうになる夢。


 双子は同じ夢を見たらしく、石を投げられる夢。



 どの夢も悲惨な夢だった。


 けれど、そうすると共通点が生まれてくる。


 夢を見ていること…



「悠も夢を見たって言ってたわ……」


 そう、この世界に召喚される直前まで見た夢の話をしていた。


 どのような夢だったのかは分からないけれど、余計に悠がこの世界にいる可能性は高くなった。




 



 その後、今後について話し合うも、異世界への召喚というあり得ない状況に陥ってしまった彼らは、心身ともに疲れていたのか、すぐに眠りに落ちてしまい、結局その日は話が纏まらないまま終了となった。








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