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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第七章 勇気の双眸(8)

 それから、地上に取って返したエレカ達三人は、寺院に戻るとすぐに領主レフル、司祭クリフ、それにイマを呼びつけて一同に報告と状況の説明を行った。説明は基本的にエレカが行うことにし、ミシルとクウはそばに控えているだけに留めた。エレカとしては、別に口を挟んでくれて構わないようだったけれど、ミシルとクウの方が、そういう場で整然と説明ができるとは思えないと固辞した。

 場所は、寺院の奥の一室、明確に言えば、司祭クリフの書斎だ。現在は、事務作業を領主レフルが行う為に、一時的に司祭レフルは場所を明け渡していた。

 礼拝室などで話をしなかった理由は簡単で、内容によって住民達に混乱が広がるおそれがないかと、領主レフルが懸念を示したからだった。

 人間達は執務室に他の部屋から運び込んだテーブルに、部屋の入口から向かって左側にレフルとクリフが、右側にミシルとクウが座った。エレカとイマはテーブルの上に浮いているつもりでいたけれど、

「我々が座っているのに、立たせたままのようで申し訳ない」

 と、レフルが懇願したため、マリオネッツ達はすぐにテーブルの上にしゃがみ込むことになった。

「メルサーグの人々を狂わせていたのは地下に描かれた魔法陣によるものでした。魔法陣を描き、都市に混乱を招いていた者については、非常に戦闘力が高く、捕縛を逃れて街に放たれると危険と判断し、その場で討伐しました」

 ブランについて、初めてエレカがその場で迷わず斬って捨てた理由を語った。ミシルもクウも、今の今までそんな判断に基づいていたとは知らなかったけれど、その内容に納得できたからなのか、エレカの言葉に驚いた様子はなかった。

「その際に首謀者の思念を神術で覗き、企みの全容を、情報として得てきました。本来こんな乱暴なやり方は好きじゃないですけど、緊急事態なので、致し方なかったと割り切りました。無論、あなた達の思念や記憶を無理矢理読むようなことは絶対にしません。それだけは分かってください」

「エレカ殿の言葉です。信じますとも。ご懸念は分かりますが、弁解は無用です。そも、エレカ殿が必要であれば、いつでも私の記憶や思念を読んでいただいて結構です」

 司祭クリフは微笑みながら頷き、

「私もだ。続きをお話願いたい」

 と、領主レフルも同様に頷いた。

「まず、首謀者はブラン・クリークという男でした。先程お話した通り、とても危険な者だった為、倒しそこねたり、復活を許したりということがないよう、燃やし尽くしておきました。ただ、黒幕は他にいて、まだ生きています」

 エレカは、すぐに話を先に進めた。おそらくその名が出てくるのだろうと思われた名を、彼女はやはり口にした。

「黒幕は、火炎を操る、古代のドラゴンです。名は、火炎竜レダジオスグルムといいます。ですが、その黒幕は遠い地にいて、直接メルサーグを狙うことはないと思います。存在自体がアースウィルの脅威だということは間違いないですけれど、直接レフル様やクリフ様が心を砕かれる必要はありません。あくまで、レダジオスグルムがアースウィルの各地に飛ばせた部下の一人、ブランが、この地を標的として混乱と破壊の種を撒く為に、メルサーグをほぼ壊滅状態に陥らせた、というのが、今回の事件の経緯です。魔法陣は破壊したので、これ以上、暴徒は増えません」

「それは吉報だ。しかし、都市はまだ暴徒が破壊を続けているようだ。これはいずれ収まるのかな」

 レフルの顔色に、幾分の喜色が浮かぶ。けれど、問題が取り除かれ、都市に平和が戻ったという訳でもない。赤茶の瞳には希望の光が宿っているものの、表情は依然固かった。

「魔法陣は人々がもつ理性と知恵、理知を破壊させ、人々を狂わせる為のものです。ですから、一度失われた理知は、魔法陣を破壊したとしても戻りません。彼等を元に戻すのには、天の奇跡とでもいうべき、癒しの力が必要です。逆に言えば」

 エレカはそこで言葉を切る。視線はレフルから外れて、イマに向いた。

「神術で癒せば平静と理知を取り戻します。つまり、イマ様、マリオネッツの出番です。兵達に命じて、街中に届く、癒しの術を組めませんか?」

「可能です。すぐに行いましょう」

 イマは立ち上がり、エレカに、そして、レフルに頷いた。

「全軍をもって、この馬鹿げた狂乱を鎮静化しましょう。再び狂わない状況になった今、躊躇う理由はありませんね」

「何から何まで」

 レフルがようやく笑顔を浮かべる。安堵の笑顔だった。

「世話になって申し訳ない。是非頼めるだろうか」

「分かりました。それでは、私は全軍に指示を行いましょう。都市の外周に展開している者達にも伝えて来なければなりません。しばらく時間を戴くことになります」

 そう告げ、イマは部屋を窓から出て行った。パペッツにとって神術は毒になり兼ねない。イマは街に近づかないよう、彼等に注意を促さなければならないと、出て行く直前にエレカに送った視線で語っていた。

「よろしくお願いします」

 エレカはイマと共には行動せず、部屋に残った。彼女には、まだレフル達に話しておかなければならないことがあったからだった。

「それで、なのですが」

 エレカは、そう言って、更に話を切りだした。

「事後検証を考えられているかもしれないので、念のためお願いしておきたいんですが、南六番坑道ですが、しばらく街の人を近づかせないようにしておいてもらえますか。その、特に魔物の方々を」

「それは、構わぬが。理由を聞いても良いかな?」

 レフルは神妙な顔に戻った。

 都市にまだ危険が潜んでいるのであれば、領主として、彼も把握しておかねばならない。それは当然のことで、エレカもそこに不思議も不満もないようだった。

「魔物を狂暴化させている力の元凶、魔王を生む力の元凶でもあります、が、地下深くにありそうだという推測を、私達はしています。実は魔法陣を破壊したところ、床が崩落し、遥か地下へと続く、深い深い穴が現れたので、私達が、つまり、私達三人、および、マリオネッツ全軍が、そこを探索したいと考えているからです。底なし穴はとても深くて、誰かが転落したら確実に命はないので、純粋に危険だという理由もあります」

 そう語ったエレカの言葉に。

 レフルと、クリフは、お互いの顔を見合わせた。

「まさか」

 と、クリフが口にする。驚きとも歓喜ともつかない表情で、彼はエレカに問いかけた。

「アースウィルにこれまで続いてきた、魔王の出現という、負の歴史を、断ち切ろうと。その為に降られたということなのですか」

「その通りです。私達マリオネッツの最終目的は、アースウィルを、まさにその負の歴史から解き放つことです。ですから、もし信じてもらえるのなら、私達が探索から戻るまで、坑道には誰も立ち入らせないでください」

 エレカは、頷いて、笑顔を二人に向けた。慈愛に満ちた、けれど、何処か遠くを見つめているような微笑みで。

 エレカが何を考えていたのかは誰にも分からない。けれど、エレカはアースウィルの現状、そして、未来を憂いている様子だったのは間違いなかった。

 そして、ふと、関係があるのか、それともないのかも判然としない、とりとめのない話を始めた。

「アリス様の加護は消え、いつ戻るのか、果たして戻ることがあるのかさえ分からない暗い時に、私達ができることはそのくらいしかありません。私達にはアリス様の代理は務まりませんし、あなた達のもとにアリス様の加護が届いていないことだけが現実です。でも、これだけは信じておいてほしいのです。あなた達にとって、縁起でもない話でごめんなさい。でも。もし、アリス様の加護が二度と戻らないものだったとしても、アリス様と同じ目線の高さで、アリス様と同じように、あなた達のアースウィルを愛そうとしている方はいます。ですから、どうか、あなた達は、あなた達の営みを、つつがなく、続けてください」

「マザー・アリス様の威光が消えたこと、何か原因をご存じなのですか」

 クリフに問われ、エレカは静かに頷いた。

 それでもエレカは口を固く閉ざし、自分からその内容を語ろうとはしなかった。人間達に、真実を受け止められるだけの覚悟があるか、分からなかったのだろう。

「いずれは、いえ、できるだけ早いうちに、人々にはお話しおかなければならないことなのは確かです。実際の所、アースウィルには、魔王の出現などよりもずっと深刻な危機が迫っています。その備えの為にも、人々には、本当は警告しなければ駄目なんです。でも、私には、まだ、どうお話すればいいのか分かりません」

「であれば、今、我々にだけ話してはもらえないだろうか。整理されていなくて構わない。

私は、住民たちの為に、きたるべき未来を知っておかねばならない」

 レフルは言った。クリフも、ただ、頷く。それを聞いても、エレカはしばらく躊躇い。二人がもう一度頷くのを見て、覚悟を決めたように語った。

「アリス様は亡くなられました。その隙を突き、異界の魔物が、やがて、攻めてきます」

 エレカが語った丁度その時。

 まばゆい、けれど、眩しくはない暖かな光が視界を包んだ。マリオネッツ達が、癒しの術を使ったのだ。

 メルサーグに、ひと時の平穏が、戻った。


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