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聖騎士レイダークの手記  作者: 奥雪 一寸
アースウィルの勇者
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第七章 勇気の双眸(5)

 ミシルとクウが起きてきたのは、もうすぐ昼が近づこうという頃合いになってからだった。彼等が簡単な朝食だか昼食だか怪しい時間の食事を簡単に済ませた。場所は礼拝室の片隅を借りていたけれど、二人が食べているものは避難住民の炊き出しより豪華ということはなく、むしろ干し肉と乾いたパンだけという質素ぶりに、住民達が炊き出しを分けようとしたくらいだった。けれど二人は、自分達には自分で持っている携帯食料がある、いつまで続くか分からない住民達こそ、しっかり食べて体力を落とさないように気を付けてほしいと、それを固辞した。

 二人は携帯食料を食べながら、この後、坑道をメルサーグの地下まで探索する、というエレカの説明を聞いていた。

「了解」

 と答えただけで、寺院に残るという可能性を確認することもなかった。当然、パーティーで探索を行うつもりを、疑いもしていない。エレカも当然そのつもりでいて、改まって二人の意志を試すようなことはしなかった。

 マリオネッツは寺院防衛及び、都市の完全破壊を防ぐ為に、暴徒と化した武装集団の破壊活動を阻止する為にメルサーグ中に展開している。坑道探索の為に割く兵はないことだけは、エレカは二人に伝えた。

「私達三人だけってことね。分かったわ」

 ミシルは朗らかに笑い、クウは無言で頷く。

二人とも平然とした態度ではあるけれど、それでも瞳の奥には真剣な緊張感が潜んでいた。

 浸りの食事が終わると、エレカ、ミシル、クウの三人はすぐに寺院を出て、南の西から三個目の入口、南第六坑道へ向かった。鉱山労働者の男が、覚えている限りといううろ覚えながらも、坑道内の簡単な地図を書いてくれた為、クウがそれを持っていた。エレカがもたなかった理由は、当たり前ながら、地図の紙がエレカの身長よりも大きかったからだ。

 入口は簡単に見つかり、インビンシブルの情報通り、坑道入口までの足場は通れる状態に保たれていた。そこまでの道中、何度か暴徒に襲われそうになったが、マリオネッツの援護があり、エレカ達が体力を消耗することは避けられた。

 中にどれだけの、どんな戦力が潜んでいるのか分からない。明かりを灯しての探索は危険と判断したエレカが、ミシルとクウに暗視呪文を掛け、松明やカンテラは使わないことに決めたようだった。ミシルも、クウも、その判断に異論は挟まなかった。

「行きます。問題はないですか?」

 エレカが、入り口に入る前に、二人に確認をする。ミシルが頷き、クウは地図を確かめながら、

「大丈夫」

 と答えた。いつもの逆の反応に、エレカは少しおかしくなったのだろう、小さな声で笑った。けれど、それも一瞬のことで、短く息を吐き、集中力を整えると、エレカは二人の間に浮いて、前方を指差した。それを合図に、三人横一列になって坑道に乗り込む。坑道は静まり返っていて、灯火の類もなかった。

 構造は単純で、幾つか短い分かれ道がある程度で、迷う心配はなさそうだった。何より、クウが言うには、鉱山労働者の男が描いてくれた地図が、驚くほど正確らしい。流石は庭と豪語しただけのことはあった。

 地図の通りに歩き、縦穴に辿り着く。メルサーグの地下に続く坑道に続くリフト孔だ。鉱石や道具などはリフトで上げ下げし、人間はリフト孔の壁に取り付けられた梯子で昇降するようになっている。梯子は朽ちておらず、まだ健在だった。けれど、結局、エレカの魔法でミシルとクウを浮遊させ、梯子は使わずに降りていった。

 縦穴は長く、感覚が麻痺しそうなくらいの時間をかけて、三人は縦穴を降りていった。エレカがこまめに声を掛け、暗闇の中で、ミシルとクウが、降りているのか登っているのかの感覚を失調することを防いでいる。感覚を失うと、バランスを崩して真っ逆さまに縦穴を墜落するおそれすらあったからだ。暗闇の中での慣れない浮遊には、危険が伴うことを、エレカは十分に理解していた。

 リフト孔に動くものの気配はないのだろう。

 エレカ達は下方の気配を窺いつつ、長い縦穴を降り続けた。エレカの視線の先にはぽっかりと口を開いた闇があるだけで、その闇の中に青白く浮かぶ岩肌が闇に溶けるまで、静まり返って続いていた。

 かなりの時間をかけて、エレカ達は要約のように底に辿り着いた。正確には完全な底ではなかったけれど。リフト孔の底から数メートルの所で梯子は終わり、そのすぐ横に、横穴が続いていた。

 縦穴の底にも何もいない。けれど、三人は横穴の先に気配を見つけているようで、ぴりぴりとした緊張感の漂う表情を向け合った。坑道の奥にやはり何者かが潜んでいるのだ。

 坑道を進む三人の視界は暗く、やはり明かりはない。魔術の心得がなければ人間には見通せない闇だ。メルサーグの混乱の元凶は人間ではないと考えるのが妥当だろう。

 エレカ達はいくつかの分岐を曲がらずに坑道を直進し続けた。五番目の分岐を過ぎたあたりで、クウが鉱山労働者からもらった地図を懐に仕舞った。エレカとミシルに小さな声で告げる。

「載ってない分岐が多い」

 地図はこの先頼りにならないという意思表示だ。エレカは頷くと、壁の岩肌を確かめた。そして、少し戻って直前の分岐も同じように。

分岐は十字路になっていて、エレカはクウに尋ねた。

「この十字路は載っていましたか?」

 クウが頷く。

 エレカは二人を連れて、四番目の分岐に戻った。そこは、直進の他に左手に分岐する道があった。

「ここは?」

 エレカの問いに、クウが首を振った。

 エレカは坑道の脇道の壁を調べ、

「おそらく記憶違いでしょう」

 そう結論付けた。壁の状態が、直進する坑道と、壁の状態が変わらないからだ。真新しく掘られた穴ではないということを確認したのだ。

 それから、エレカは周囲の様子を窺うように黙り込んだ。しばらくそうやって、身じろぎもせずに浮かんでいた。ミシルとクウは、そんなエレカをカバーするように、周囲の警戒を行っていた。

「もう一つ前の分岐の奥、でしょうか」

 エレカは二人に確認するというよりも、独り言で考えを纏めるようにつぶやいた。

「行ってみよう」

 と、ミシルもエレカの感覚の通りに進めばいいと賛成した。

 エレカも頷き、またもう一つ前の分岐に戻った。そこは先程とは逆に右手への分かれ道があった。

 壁を触るまでもなかった。三人は頷きあう。

「最近掘られたばかりだね」

 とだけ、ミシルが口にした。つまりは、きわめて正解の可能性が高いということだったそして。やはり、何かが潜んでいる恐れがあるということでもある。エレカは、ミシルとクウが足音を立てないように、縦穴を降りるときにそうしたように、二人に浮遊の呪文を掛け、空中を歩いて進んだ。

 穴は暗く、岩肌はごつごつしている。雑に掘られた穴は、鉱山労働者達によって掘られたものでないと物語っているように見えた。

 しばらく、穴は真っすぐに進んでいた。そしてやがて、掘り抜いたのだろう小さな自然の空洞の中腹くらいの岩壁に出た。目的地ではなかったのだろう。空洞には簡素な木製の橋脚が組まれていて、渡し板が通されていた。穴の底を見ると、転落死したらしい人型の死体が見えた。

「モールマン」

 エレカは眉根を寄せた。モールマンというのは地下に群れを作る地下迷宮や洞窟に棲むモンスターだ。知能はそれ程高くないけれど、コボルドなどと違い、岩盤も掘り抜く鋭い鉤爪と、岩をもかみ砕く悪食な牙を持っていて、しかも集団で襲ってくるので、危険度はおよそ低くない。その為半端な存在には使役できないのだけれど、地下で悪事を企むヴァンパイアやドラゴン、悪魔的な存在などには、それなりの戦闘能力を備えていることが都合良いらしく、そういった高度な知能と非常に危険な力を持った悪には良く使役されている。

 そして、モールマンは、地下を掘りまくることは得意とはいえ、自分達から整然と通路を掘ったりはしないモンスターであり、ここまでしっかりした道として穴を掘っている以上、十中八九何かに掘らされていると考えた方が良かった。

 つまりは、何か、力を持ったよからぬものが、この先にいる可能性が、非常に高いということだった。

「気を付けてください。リッチと同じくらい危険な何者かが、この奥に潜んでいる筈です」

 エレカが二人に囁き、ミシルとクウは、静かに頷いた。

 あなた達なら、私と一緒にやれる、エレカが二人を見る瞳には、そんな信頼の感情が浮かんでいた。


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